
国土交通白書 2023
第2節 新しい暮らしと社会の姿
インタビュー 日本のWell-being型スマートシティに向けて

デジタル化により暮らしやすさを実現していくためには、実効性のあるデジタル活用を息長く続けることが肝要である。データ利活用を通じた価値創出などの研究に従事し、これまでスマートシティの社会実装に取り組まれてきた西岡氏に、持続可能なスマートシティに向けたポイントについてお話を伺った。
●日本におけるスマートシティの特徴
デジタル技術で社会や暮らしの向上を図り、社会インフラをデジタル化で変えていく取組みは、スマートシティに集約されるが、技術先行ではなく、目的や課題を設定し、関係する様々な人や団体、産官学民での連携を図ることが重要である。そのため最初に取り組むべきことは、まちが強みをどう伸ばし、弱みをどう補うか、これからどうありたいかといったビジョンを持つことである。そうしたビジョンをまち全体の共通認識として、地域社会のあり方を、地域が主体となってデジタル化で変えていくことが肝要である。
欧州では、過去は個別最適のスマートシティであったが、近年は全体最適のスマートシティに移行している。日本は欧州より後発な分、データ連携基盤をもとに当初から全体最適を意識した取組みが志向されていると思う。スマートシティを目的で大別するならば、欧州等の環境配慮型のもの、インドなどインフラ開発型のもの、そして北欧や日本などWell-being型のものなどそれぞれ社会背景に応じた特色がある。また、取組みの進め方では、中国など中央集権的で迅速に進めるものもあれば、日本のように官民連携により、地域に近いところで意思決定を行い、取得されたデータも分散型でより現場に近いところで管理されるような民主的なプロセスで進めるやり方もある。
Well-beingについては、近年、指標整備が進展し、主観と客観、双方の観点からまちのWell-beingを定量的に評価することが可能となっており、自治体によってはWell-beingを軸に取組みを評価する動きも見られている。技術を取り込んだらすなわち何かが解決するという考えではなく、ありたい姿や目的を定め、何に取り組むのか取捨選択していくためには、データを活用してEBPMを推進し、社会的効果についてもデータを活用して、Well-beingの面から定量的に測定することで、継続的に改善していくことが可能となる。デジタル化はハードインフラと比べると書き換えが容易であるので柔軟に改善を図りやすい。日本の取組みは概して海外と比べ慎重な面があり、試行錯誤が許容されにくいとも捉えられるが、今後、日本の自治体の取組みにおいて、効果が上手く現れなかった際に失敗だったと取組みを終えるよりは、定量的な振り返りから、次は少しやり方を変えて取り組んでみようというマインドで進められると、スマートシティが一層展開しやすくなるのではないか。
●持続可能なスマートシティに向けて
スマートシティは私たちの暮らしに関わるものであり、暮らしは分野を隔てず横断するものである。例えば、朝起きてから、乗り物に乗って出かけ、学校や病院へいくとして、これらは行政の所管としては別の分野になるが、人々にとっては一体となっている。このため、住民目線で必要なサービスを支えるデータシステムも、教育分野、交通分野など分野を横断してつながることがスマートシティの観点で重要である。そうした分野を超えた連携が、使い勝手の良さを支え、使い勝手の良い魅力的なシステムは使い続けられ、サービスの持続性を高められるという好循環となり、持続性を支えることが期待される。
また、スマートシティには多くの人の合意を必要とする。このことは合意形成が難しいという側面もあるものの、多くの関係者の知見が集まることで、新たな共創が可能であるとも捉えられる。そのまちにとって何が最も重要な課題かを洗い出し、共創によって課題解決を検討していく。その過程を通じて多くの人が自分ごととしてコミットすることになるため、結果的にそれがまちの持続性につながる側面がある。
さらに、まちづくりを担う自治体の目線では、スマートシティを計画する際、支出というより投資という目線を持ち、投資効果として回収できるものに目を向けていくことが重要であると考える。投資効果が表れれば、さらに次の投資へとつなげていくことも可能であり、持続性が支えられると考えられる。
スマートシティは人々のWell-beingを向上させるものとして企図され、共創や投資効果などプラスの効果が発現されていくことで持続性が担保されるのではなかろうか。これにより、スマートシティが実証段階から実装へとステップアップしていくことが可能になると考えている。