
国土交通白書 2023
第1節 交通ネットワークの整備
(1)航空ネットワークの拡充
①首都圏空港の機能強化等
訪日外国人旅行者の受入拡大、我が国の国際競争力の強化の観点から、首都圏空港(東京国際空港(羽田空港)、成田国際空港(成田空港))の機能強化は必要不可欠であり、両空港で年間約100万回の発着容量とするための取組みを進めているところである。
具体的には、羽田空港において、令和2年3月から新飛行経路の運用を開始し、国際線の発着容量を年間約4万回拡大しているところであり、引き続き、騒音対策・落下物対策や、地域への丁寧な情報提供に努めるとともに、新飛行経路の固定化回避に向けた取組みを進める。また、引き続き空港アクセス鉄道の基盤施設整備、国内線・国際線間の乗り継ぎ利便性向上のための人工地盤の整備、旧整備場地区の再編整備等を実施する。成田空港においては、地域との共生・共栄の考え方のもと、C滑走路新設等の年間発着容量を50万回に拡大する取組みを進めていくこととしている。


②関西国際空港・中部国際空港の機能強化
関西国際空港については運営権者において、民間の創意工夫を生かした機能強化が図られており、令和4年10月には新国内線エリアがオープンする等、引き続き、国際線キャパシティーを向上させるため第1ターミナルにおける国際線/国内線エリアの配置の見直しによる施設配置の再編等を含む第1ターミナル改修等による同空港の機能強化を推進し、関西3空港における年間発着容量50万回の実現を目指す。
中部国際空港においては、国際線キャパシティーの向上を目的に、第1ターミナル改修等を引き続き行うとともに、完全24時間運用の実現などの機能強化の取組みを推進する。

③地方空港の機能強化
福岡空港については、滑走路処理能力の向上を図るため、滑走路増設事業を実施するとともに、空港の利便性向上を図るため、那覇空港においては国際線ターミナル地域再編事業、新千歳空港においては誘導路複線化等を実施している。
その他の地方空港においては、航空機の増便や新規就航等に対応するため、エプロンの拡張やCIQ施設の整備等を実施している。
また、航空機の安全運航を確保するため、老朽化が進んでいる施設について戦略的維持管理を踏まえた空港の老朽化対策を実施するとともに、地震災害時における空港機能の確保を図るため、滑走路等の耐震対策を進めている。
④航空自由化の戦略的推進による我が国の国際航空網の拡充
国際航空網の拡充を図るため、我が国では航空自由化(オープンスカイ)注1を推進している。首都圏空港の厳しい容量制約を背景に、羽田空港を自由化の対象外とするなど一部制約が残るが、我が国を発着する国際旅客便数は、成田空港における二国間輸送を自由化の対象に追加した平成22年時点(2,649便/週注2)と比べて、令和元年時点(5,516便/ 週注2)で2倍強に増加した。
その後、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、国際旅客便数は一時激減したが、水際措置が大幅に見直された令和4年10月以降、徐々に回復の傾向にある(4年10月末時点:1,920便/週)。
⑤航空機操縦士等の養成・確保
我が国の航空業界においては、操縦士・整備士共に50代あたりを中心とした年齢構成のピークがあり、将来の大量退職が見込まれている。新型コロナウイルス感染症の感染拡大により航空需要は一時的に減退しているものの、今後予想される航空需要の回復・増加に対応するとともに、操縦士等として第一線で活躍するまでに長い時間を要することから、中長期的な視点で計画的に操縦士等の養成を継続する必要がある。
これらを踏まえ、効率的な操縦士養成手法の導入に向けた調査の実施、国家資格についてのより合理的で利便性の高い試験方式の導入及び航空大学校における操縦士の着実な養成、新たな在留資格(特定技能)による航空機整備分野での外国人材の受け入れ、航空業界を志望する若年者の裾野拡大に向けたイベントの開催等に取り組む。
(2)空港運営の充実・効率化
①空港経営改革の推進
国管理空港等において、「民間の能力を活用した国管理空港等の運営等に関する法律(民活空港運営法)」を活用し、地域の実情を踏まえつつ民間の能力の活用や航空系事業と非航空系事業の一体的経営等を通じた空港経営改革を推進し、空港を活用した内外の交流人口拡大等による地域活性化を図っていくこととしている。具体的には、国管理空港について、平成28年7月に仙台空港、30年4月に高松空港、31年4月に福岡空港、令和2年4月に熊本空港、2年6月より順次北海道内7空港(うち3空港は地方管理空港)、3年7月に広島空港の運営委託が開始された。
②LCCの持続的な成長に向けた取組み
平成24年3月に本邦初となるLCCが就航した。以降令和4年冬ダイヤ当初計画時点で、ピーチ・アビエーションは国内31路線、国際7路線、ジェットスター・ジャパンは国内17路線、国際1路線、スプリング・ジャパンは国内3路線、国際6路線、ジップエアは国際6路線へネットワークを展開している。
政府は、国内各地域における、LCCを含む国際線就航を通じた訪日外国人旅行客の増大や国内観光の拡大等、新たな需要を創出するため「令和7年の地方空港における国際線就航都市数130都市」を目標とし、我が国及び各空港において様々な施策を行っている。国の施策としては、主に①着陸料軽減措置、②空港経営改革、③受入環境整備の3つの観点から実施している。
③ビジネスジェットの受入れ推進
ビジネスジェットとは、数人から十数人程度を定員とする小型の航空機であり、利用者のスケジュールに応じた時間設定や、プライバシーが確保されるため搭乗中に商談等が可能など、時間価値の高いビジネスマン等が利用の対象となっている。
欧米では既にビジネスジェットがグローバルな企業活動の手段となっている。我が国においても経済のグローバル化に伴い、従来より、東京国際空港・成田国際空港の両空港を中心にアジア地域における経済成長の取り込みの観点から、その振興は重要な課題であったが、近年は富裕層旅客の取込み等インバウンド振興の観点からも重要性が増している。そこで、我が国ではビジネスや高付加価値旅行者の観光需要に応えるべく、ビジネスジェットの利用環境の改善を図っている。例えば、富山空港において、令和4年度にビジネスジェット専用動線を整備し、一般旅客と動線を分離して利便性の向上を図るなど、ビジネスジェットの利用環境改善を着実に進めている。
④地方空港における国際線の就航促進
平成28年3月に策定された「明日の日本を支える観光ビジョン」において掲げられている、令和12年に訪日外国人旅行者数6,000万人という目標の実現に向けては、国際線就航による地方イン・地方アウトの誘客促進が重要である。各地域における国際線就航を通じた訪日客誘致の促進のため、東京国際空港以外の国管理空港・共用空港について、国際線の着陸料を定期便は7/10、チャーター便は1/2に軽減しており、平成28年度より、地方空港において国際旅客便の新規就航又は増便等があった場合に、路線誘致等にかかる地域の取組みと協調して、更に着陸料を1/2又は全額を軽減する措置を行っている。更に、平成29年度より、国土交通省が認定した「訪日誘客支援空港」等に対して、着陸料やグランドハンドリング経費等の新規就航・増便等への支援やボーディングブリッジやCIQ施設の整備等の旅客の受入環境高度化への支援等を実施し、各地における国際線就航に向けた取組みを促進している。
(3)航空交通システムの整備
長期的な航空交通需要の増加やニーズの多様化に対応するとともに、国際民間航空機関(ICAO)や欧米等の動向も踏まえた世界的に相互運用性のある航空交通システムの実現のため、平成22年に「将来の航空交通システムに関する長期ビジョン(CARATS)」を産学官の航空関係者により策定し、ICAOの「世界航空交通計画(GANP)」と協調しつつ、その実現に向けた検討を進めている。今後、準天頂衛星システム7機体制が確立されることを踏まえ、その静止衛星3機を用いた衛星航法補強システム(SBAS)の測位精度の向上により、高度化したサービスの提供を開始し、視界不良時における航空機の着陸機会の増加等を図っていく。
(4)航空インフラの海外展開の戦略的推進
アジア・太平洋地域における航空旅客数及び貨物取扱量は近年、世界最大であり注3、同地域の航空市場は今後も更なる成長が見込まれる。このため、同地域の航空ネットワークの強化に貢献するとともに、数多くの航空インフラプロジェクトが進行中である新興国の成長を我が国に積極的に取り込むことが、成長戦略として重要な課題である。
令和4年度においては、日本企業連合とパラオ政府による空港運営会社により建設が進められていたパラオ国際空港のターミナル供用式典が開催された(4年5月)。「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の戦略的要所であるパラオにおいて、新ターミナルが新たな玄関口として、地域の連結性向上の要となることが期待される。また、タイにおいては、スワンナプーム国際空港の地上直接送信型衛星航法補強システム(GBAS)の推進が引き続き行われた。
- 注1 航空会社の新規参入や増便、航空会社間の競争促進による運賃低下等のサービス水準の向上を図るため、国際航空輸送における企業数、路線及び便数に係る制約を二か国間で相互に撤廃すること。
- 注2 いずれも各年の夏期スケジュールの第1週目の事業計画便数(期首時点での数値、往復で1便とカウント)。
- 注3 出典:ACI World Airport Traffic Dataset, 2022 Edition(2021 data)