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国土交通白書 2023

第3節 産業の活性化

■1 鉄道関連産業の動向と施策

(1)鉄道事業の現況

 鉄道の旅客輸送量は、1980年代後半にかけて大きく伸び、近年は人ベース、人キロベースともに緩やかな増加傾向にあったが、令和2年度は新型コロナウイルス感染症の影響により、減少している。

 令和2年度の鉄道の旅客輸送量は、人ベースでは対前年度比約30%減の約177億人、人キロベースでは対前年度比約40%減の約2,631億人キロとなっている。全国に217社ある事業者をカテゴリ別に分けて旅客輸送量を見ると、人ベースでは、都市部に通勤路線等を多く持つ大手民鉄(16社)やJR(6社)がそれぞれ約4割前後で多く、次に地方交通(174社)、都市部で地下鉄や路面電車を運営する公営(11社)である。一方、人キロベースでは、新幹線をはじめ幹線輸送網を有するJRが5割を超え、大手民鉄の約1.8倍以上となっている。

(2)鉄道事業

①鉄道分野の生産性向上に向けた取組み

 将来的な人材不足に対応し、特に経営の厳しい地方鉄道におけるコスト削減等を図るため、踏切がある等の一般的な路線での自動運転の導入に向けた検討、無線通信技術の活用により信号機等の地上設備の削減を可能とする地方鉄道向けの無線式列車制御システムや、VR空間上での軌道検査や工事・作業の計画策定支援システムの開発等鉄道分野における生産性向上に資する取組みを推進する。

②JRの完全民営化に向けた取組み

 かつての国鉄は、公社制度の下、全国一元的な組織であったため、適切な経営管理や地域の実情に即した運営がなされなかったことなどから、巨額の長期債務を抱え経営が破綻した。このため、昭和62年4月に国鉄を分割民営化し、鉄道事業の再生が行われたところである。

 令和4年4月には、JR各社の発足から35年を迎えた。国鉄の分割民営化によって、効率的で責任のある経営ができる体制が整えられた結果、全体として鉄道サービスの信頼性や快適性が格段に向上し、経営面でも、JR東日本、JR西日本及びJR東海に続いてJR九州も完全民営化されるなど、国鉄改革の所期の目的を果たしつつある。一方で、JR北海道、JR四国及びJR貨物については、未だ上場が可能となるような安定的利益を計上できる段階には至っていないため、国としても、設備投資に対する助成や無利子貸付など、経営自立に向けた様々な支援を行ってきた。しかしながら、JR北海道及びJR四国については、地域の人口減少や他の交通手段の発達、低金利による経営安定基金の運用益の低下等に加え、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、その経営環境はより一層厳しさを増している。また、JR貨物については、近年は経常黒字を計上しているものの、災害等の影響を受けやすいなど安定的な事業運営にはなお課題が残されている。

 こうした背景を踏まえ、令和3年度以降も各社の経営状況に応じた適切な支援を講じ、各社の完全民営化に向けた経営自立を図っていくことを目的に、令和3年3月に「日本国有鉄道清算事業団の債務等の処理に関する法律等の一部を改正する法律」(令和3年法律第17号)が可決・成立し、各社への支援の期限が延長された。これに基づき、3年度より、各社に対して経営安定基金の下支え、安全に資する設備投資や修繕費に対する助成金の交付、省力化・省人化に資する設備投資のための出資、DES(債務の株式化)など、経営自立に向けた支援を順次実施している。

(3)鉄道車両工業

 鉄道新造車両の生産金額は、国内向けは平成28年度から増加傾向である一方、輸出向けはその年の受注状況によって波がある。令和3年度の生産金額は2,619億円(1,936両)であった。生産金額の構成比は国内向け85.6%(2,241億円)、輸出向け14.4%(377億円)であり、前年度比は国内向け13.5%増加、輸出向け21.0%増加であった。

 また、鉄道車両部品(動力発生装置、台車等)の生産金額は4,077億円(前年度比3.6%減)、信号保安装置(列車自動制御装置用品、電気連動装置等)の生産金額は1,148億円(前年度比12.2%減)となっている。車両メーカー等は、鉄道事業者と連携し、高速化、安全性・快適性等の向上、低騒音・バリアフリーといった様々な社会的ニーズを満たす車両の開発を進めている。