
国土交通白書 2023
第2節 自然災害対策
(1)総力戦で挑む防災・減災プロジェクト
近年、毎年のように全国各地で地震災害や水災害、火山災害などあらゆる自然災害が頻発し、甚大な被害が発生しており、今後も気候変動の影響によって水災害の更なる激甚化・頻発化が懸念される中、国民の命と暮らしを守り、我が国の経済成長を確保するためには、防災・減災、国土強靱化等の取組をさらに強化する必要がある。
こうした状況を踏まえ、これまでの災害を教訓とし、あらゆる自然災害に対し、国土交通省として総力を挙げて防災・減災に取り組むべく、国土交通大臣を本部長とする「国土交通省防災・減災対策本部」を設置した。「国民目線」と「連携」をキーワードとして施策の検討を進め、令和2年7月に「総力戦で挑む防災・減災プロジェクト」として主要10施策を取りまとめた。
その後、令和3年6月にも、「住民避難」と「輸送確保」のための対策を中心にプロジェクトをとりまとめた。
これまで、プロジェクトのPDCAサイクルを回しながら、施策の実行に必要な予算要求や制度改正を行い、プロジェクトに盛り込んだ防災・減災対策を着実に推進するとともに災害対応等を踏まえ、プロジェクトの充実・強化を図るなど、継続的に取組を推進し、施策の進捗状況等を踏まえ、防災業務計画等への反映を図っている。
令和4年6月に、3年7月の熱海市の土砂災害や4年3月の福島県沖を震源とする地震などの災害の教訓も踏まえ、プロジェクト全体の充実・強化を図った「令和4年度 総力戦で挑む防災・減災プロジェクト」をとりまとめた。本プロジェクトでは、特に、3年度災害対応で明らかになった課題等を踏まえ、強化すべきテーマとして激甚化・頻発化する災害等に対し、同様の被害を繰り返し発生させないという観点から「再度災害の防止」と、一刻も早く、被災地の状況を把握し、通常の平穏な暮らしを取り戻すことができるようにという観点から「初動対応の迅速化・適正化」の2つを設定した。
また、施策の充実・強化に当たっては、関係省庁や企業等も含めた更なる連携促進、リスクコミュニケーション、デジタルトランスフォーメーション(DX)の3つのツールを積極的に活用することとした。
引き続き、災害対応を踏まえ、プロジェクトについて不断の見直しや改善を行い、防災・減災に関する取組の更なる充実・強化を図っていく。
(2) 気候変動を踏まえた水災害対策「流域治水」の推進
気候変動による災害の激甚化・頻発化を踏まえ、これに対応した治水計画への見直しを行い、施設管理者が主体となって行う河川整備等の事前防災対策を加速化させることに加え、あらゆる関係者が協働して流域全体で行う「流域治水」への転換を推進し、総合的かつ多層的な対策を行っている。
(ア)気候変動を踏まえた計画の見直し
気候変動の影響による将来の降雨量の増加等を考慮して治水計画を見直すことが重要である。河川・下水道分野では、計画的に事前防災対策を進めるために、堤防整備や河道掘削、ダム、遊水地等の整備を加速化するとともに、現況施設能力や河川の整備の基本となる洪水の規模を超える洪水に対しても氾濫被害をできるだけ軽減するよう、降雨量の増加等を踏まえた計画への見直しを順次進めている。
海岸分野では、平均海面水位の上昇や台風の強大化等を踏まえ、「海岸保全基本方針」の変更(令和2年)や海岸保全施設の技術上の基準の見直し(令和3年)を実施した。今後は、気候変動の影響を明示的に考慮した海岸保全対策へと転換していく。
また、砂防分野では、土砂災害発生数の増加等の課題・解決の方向性をまとめた「気候変動を踏まえた砂防技術検討会中間とりまとめ」を受け、これに基づいた適応策を検討している。
(イ)流域治水の推進
河川管理者等が主体となって行う治水事業等を強力に推進するとともにあらゆる関係者が協働して、流域全体で治水対策に取り組む「流域治水」を推進する。流域治水では、集水域と河川区域のみならず、氾濫域も含めて一つの流域として捉え、地域の特性に応じ、①氾濫をできるだけ防ぐ・減らすための対策、②被害対象を減少させるための対策、③被害の軽減、早期復旧・復興のための対策をハード・ソフト一体で総合的、かつ、多層的に進めることとしている。
具体的には、全国109の全ての一級水系で策定・公表された「流域治水プロジェクト」に基づくハード・ソフト一体となった事前防災対策に取り組むとともに、令和3年11月に全面施行された、流域治水関連法の中核をなす改正「特定都市河川浸水被害対策法」に基づく特定都市河川を全国の河川に拡大し、ハード整備の加速に加え、国・都道府県・市町村・企業等のあらゆる関係者の協働による水害リスクを踏まえたまちづくり・住まいづくり、流域における貯留・浸透機能の向上等を推進している。
【関連リンク】
気候変動を踏まえた治水計画のあり方 提言 改訂版【概要】
URL:https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/chisui_kentoukai/pdf/r0304/00_gaiyou.pdf
(3) 南海トラフ巨大地震、首都直下地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震への対応
南海トラフ巨大地震が発生した場合、地震発生後数分から数十分で巨大な津波が関東から九州の太平洋側に押し寄せ、沿岸部を中心に広域かつ甚大な被害の発生が想定される。
また、首都直下地震が発生した場合、強い揺れに伴う建物の倒壊や火災により、特に密集市街地で甚大な被害の発生が想定される。
さらに、日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震が発生した場合、巨大な津波が、北海道から千葉県にかけての太平洋沿岸に襲来し、甚大な被害の発生が想定される。特に、冬季には積雪寒冷地特有の対応が必要となる。また、南海トラフ及び日本海溝・千島海溝沿いでは、M7クラス以上の地震が発生した後に続けてM8クラス以上の大規模地震が発生する可能性があり、被害が拡大する恐れがある。
これらの切迫する地震に対し国土交通省では、「応急活動計画」と「発生に備え推進する対策」の2本柱で構成される「国土交通省南海トラフ巨大地震対策計画」及び「国土交通省首都直下地震対策計画」について、近年の地震における知見等を踏まえ、適宜計画を見直しながら、地震防災対策を推進している。
日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震対策については、令和4年5月に「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に係る地震防災対策の推進に関する特別特措法」が改正されたことを受け、同年11月に「国土交通省日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震対策計画」の改定を行った。この計画では、積雪寒冷地特有の課題を考慮した避難路・避難場所の整備や後発地震への注意を促す情報の発信の実施などを位置付けており、今後、対策を推進していく。