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国土交通白書 2023

第4節 交通分野における安全対策の強化

■5 航空、鉄道、船舶事故等における原因究明と事故等防止

 運輸安全委員会は、独立性の高い専門の調査機関として、航空・鉄道・船舶の事故及び重大インシデント(事故等)の調査により原因を究明し、国土交通大臣等に再発防止及び被害の軽減に向けた施策等の実施を求めている。

 令和4年度中、調査対象となる事故等は、航空34件、鉄道14件、船舶844件発生した。また、同年度中、航空22件、鉄道13件、船舶861件の調査報告書を公表した。

①令和4年度中に調査報告書を公表した主な事案

 航空事故等では、令和2年12月、旅客機が上昇中、左側エンジンのファンブレードが破断した事案について、疲労破壊による破断に至った要因の分析を行い、亀裂を検出するには検査手法及び検査間隔が不十分であったことが関与したことなどを明らかにした(4年8月公表注18)。

 鉄道事故等では、令和3年10月、千葉県北西部を震源とする地震により新交通システムの列車が脱線した事案について、地震の揺れが列車にどのように影響して脱線に至ったか要因の分析を行い、軌道経営者に対し、事故現場付近の施設に、地震動の影響により列車の案内輪が案内軌条に乗り上げないようにする対策を講ずることなどの勧告注19を行った(5年2月公表注20)。

②事故等防止に関する普及啓発活動

 令和4年11月、ウェブサイトで公開している調査報告書の検索機能の向上のため、複数モード横断検索機能の追加などを行った注21。また、各種統計に基づく分析や紹介すべき事故事例をまとめた「運輸安全委員会ダイジェスト」を発行したり注22、地図上から船舶事故等調査報告書を検索できる「船舶事故ハザードマップ」を提供する注23など啓発活動を行っている。

③無人航空機の事故等調査の開始

 令和3年6月に「運輸安全委員会設置法」が改正され、運輸安全委員会の調査対象に無人航空機に係る重大な事故等が加わったことを受け、4年7月に「運輸安全委員会設置法施行規則」を改正し、その詳細を定め、同年12月5日に施行した注24

④旅客船の浸水事故に係る事故調査と対策

 令和4年4月23日、北海道知床沖で旅客船が沈没し、乗員乗客計26名が死亡・行方不明となる重大事故が発生した。本件については、運輸安全委員会が事故原因究明等のための調査を実施しているところ、同年12月15日に本船の浸水から沈没に至るメカニズム等についてまとめた経過報告を公表するとともに、早急に講じるべき再発防止策について、国土交通大臣に意見を述べた。二度とこのような事故を起こさないよう、有識者からなる「知床遊覧船事故対策検討委員会」を設置し、同年12月に再発防止対策として「旅客船の総合的な安全・安心対策」が取りまとめられた。

 本事故を受け、監査の実効性を向上させるため、新たに設置した通報窓口に寄せられる情報も活用しつつ、抜き打ち・リモートによる監査を実施したほか、運航労務監理官の能力の向上に取り組んだ。また、船舶検査の実効性を向上させるため、日本小型船舶検査機構(JCI)の検査方法を総点検・是正し、強化を図るとともに、JCIに対する監督を強化した。さらに、限定沿海を航行する旅客船の法定無線設備から携帯電話を除外するとともに、改良型救命いかだ等の安全設備導入補助に必要な予算を令和4年度補正予算で措置した。また、令和4年12月の運輸安全委員会の経過報告を受け、限定沿海区域を航行区域とする小型旅客船に水密隔壁の設置等を義務付けることを決定するとともに、小型旅客船運航事業者に対し、船首甲板開口部の閉鎖確認を含む発航前検査の確実な実施や結果の記録、避難港の再確認、避難港の活用に関する教育・訓練を実施するよう指導し、その結果を確認した。

 今後とも、抜き打ち・リモートによる監視強化や行政処分等の違反点数制度の創設など監査・処分の強化、地域の関係者による協議会の設置等に取り組んでいく。また、安全統括管理者・運航管理者に対する試験制度の創設、小型船舶のみを使用する旅客不定期航路事業者に対する事業許可更新制度の創設、届出事業の登録事業化の導入等を通じた事業者の安全管理体制の強化や、旅客船の船長に必要な特定操縦免許取得の厳格化等を通じた船員の資質の向上、船舶の使用停止処分の創設等に関する法律改正事項を盛り込んだ「海上運送法等の一部を改正する法律」が令和5年4月に成立したことを受け、同法の施行に向けて政省令等の整備を進めていく。

  1. 注18 報告書概要 http://www.mlit.go.jp/jtsb/aircraft/p-pdf/AI2022-5-1-p.pdf
  2. 注19 委員会は、必要があると認めるときは、航空事故等、鉄道事故等若しくは船舶事故等の防止又は航空事故、鉄道事故若しくは船舶事故が発生した場合における被害の軽減のため講ずべき措置について原因関係者に勧告することができる(運輸安全委員会設置法第27条第1項)。
  3. 注20 報告書概要 https://www.mlit.go.jp/jtsb/railway/p-pdf/RA2023-2-1-p.pdf
  4. 注21 複数モード横断検索 https://jtsb.mlit.go.jp/jtsb/cross/index.php
  5. 注22 安全へのツール https://www.mlit.go.jp/jtsb/bunseki.html
  6. 注23 安全情報 https://www.mlit.go.jp/jtsb/anzen.html
  7. 注24 関係法令 https://www.mlit.go.jp/jtsb/kankei.html