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国土交通白書 2023

第4節 交通分野における安全対策の強化

■4 航空交通における安全対策

(1)航空の安全対策の強化

①航空安全プログラム(SSP)

 航空局は、国際民間航空条約第19附属書に従い、民間航空の安全に関する目標とその達成のために講ずべき対策等を航空安全プログラム(SSP)として定め、平成26年から実施している。今般、国際民間航空機関(ICAO)におけるSSPに関する動向を踏まえ、安全目標に対する進捗度合いの評価のために統計的手法を導入するなど、我が国SSPの有効性を向上させるための改正を行うこととしている。

 また、報告が義務づけられていない航空の安全情報の収集のため、平成26年より航空安全情報自発報告制度(VOICES)を運用しており、空港の運用改善等に向けた提言が得られている。引き続き、安全情報の重要性の啓蒙を通じ、制度の更なる活用を図るとともに、得られた提言を活用して安全の向上を図ることとしている。

②航空輸送安全対策

 特定本邦航空運送事業者注17において、航空機に起因する乗客の死亡事故は昭和61年以降発生していないが、安全上のトラブルに適切に対応するため、航空会社等における安全管理体制の強化を図り、予防的安全対策を推進するとともに、国内航空会社の参入時・事業拡張時の事前審査及び抜き打ちを含む厳正かつ体系的な立入監査を的確に実施している。また、我が国に乗り入れる外国航空機に対する立入検査等により、航空機の運航及び機体の安全性の監視を実施している。

 航空機からの落下物対策については、平成29年9月に落下物事案が続けて発生したことを踏まえ、30年3月に「落下物対策総合パッケージ」を策定した。同パッケージに基づき、同年9月に「落下物防止対策基準」を策定し、本邦航空会社のみならず、日本に乗り入れる外国航空会社にも対策の実施を義務付けており、本邦航空会社は31年1月から、外国航空会社は同年3月から適用している。

 また、平成29年11月より、国際線が多く就航する空港を離着陸する航空機に部品欠落が発生した場合、外国航空会社を含む全ての航空会社等から報告を求めている。報告された部品欠落情報については、原因究明の結果等を踏まえて国として航空会社への情報共有や指示、必要に応じて落下物防止対策基準への対策追加等を実施しており、再発防止に活用している。引き続き「落下物対策総合パッケージ」に盛り込まれた対策を関係者とともに着実かつ強力に実施していく。

 平成30年10月末以降航空従事者の飲酒に係る不適切事案が相次いで発生したことを踏まえ、31年1月から令和元年7月にかけて厳格な飲酒基準を策定し、こうした基準が適切に遵守されるよう、監査等を通じて指導・監督を実施してきたところである。令和3年度から2か年度にわたり、客室乗務員による飲酒検査での不正、アルコール検知、飲酒事案の虚偽報告事案が発生したことを踏まえ、飲酒検査体制の強化、アルコール教育の適切な実施(効果測定含む。)及び組織的な飲酒傾向の把握等が図られるよう、引き続き指導・監督を実施していく。

③航空機の安全性審査

 国土交通省では、設計・製造国政府としての責任を果たすべく、審査職員の能力維持・向上を図るとともに、米国・欧州の航空当局との密接な連携等により、国産及び輸入航空機の安全・環境基準への適合性の審査を適切かつ円滑に取り組んだ。

④無人航空機・「空飛ぶクルマ」に係る環境整備

 無人航空機については、「航空法」において、飛行禁止空域や飛行の方法に加え、飛行禁止空域における飛行や規定の飛行の方法によらない飛行の場合の許可・承認などの基本的なルールが定められている。また、無人航空機の所有者等の把握や安全上問題のある機体の排除を通じた無人航空機の飛行の更なる安全性向上を図るため、令和4年6月から無人航空機の機体登録が義務化された。更に、有人地帯(第三者上空)での目視外補助者なし飛行(レベル4飛行)の実現のため、同年12月から機体認証制度や操縦者技能証明制度等が導入された。5年3月に、まずは山間部において、レベル4飛行が開始されたところ、今後は安全性確保を前提としつつ段階的に人口密度の高いエリアへ拡大していく。いわゆる「空飛ぶクルマ」については世界各国で機体開発の取組がなされているが、我が国においても、都市部での送迎サービスや離島や山間部での移動手段、災害時の救急搬送などの活用を期待し、次世代モビリティシステムの新たな取り組みとして、世界に先駆けた実現を目指している。令和7年の大阪・関西万博における飛行の開始を目指し、「空の移動革命に向けた官民協議会」において機体や運航の安全基準、操縦者の技能証明基準、交通管理などについて検討を行っている。

⑤小型航空機の安全対策

 小型航空機については、これまでも操縦士に対し定期的な技能審査を義務付ける制度を導入する(平成26年)などの取組みを進めてきたが、東京都調布市における住宅への墜落事故など、近年、事故が頻発しており、更なる安全確保に向けた抜本的な対策が必要である。

 このため、国土交通省では、全国主要空港における安全講習会の開催などの追加対策を講じるとともに、平成28年12月に立ち上げた「小型航空機等に係る安全推進委員会」を定期的に開催し、有識者や関係団体等の意見を踏まえながら今後の小型航空機の安全対策の構築に係る調査・検討を進めている。具体的には、定期的なメールマガジン、SNSによる安全情報・安全啓発動画の配信などの情報発信強化のほか、操縦士に対する技能審査制度の実効性向上のため、チェックリストの記載・保存の義務化や操縦技能審査員に対する指導・監督強化などを図っている。また、小型航空機用に開発・販売されている簡易型飛行記録装置(FDM)に係る実証実験を平成30年度より行い、令和4年度は、これまでの実証実験から得られた活用策の検討結果を踏まえ当該機器の普及促進を図るための導入ガイドラインの検討を行っており、策定に向け取り組んでいる。

(2) 安全な航空交通と交通容量増大に対応するための航空保安システムの構築

 安全性を確保しつつ、ポストコロナの航空交通の増大に対応しながら、脱炭素化(カーボンニュートラル)の実現に向け、航空機の運航前及び運航中において運航効率の高い経路及び高度を航行するため、今後、航空情報や運航情報など航空機の運航に必要な情報の共有を実現するシステムの運用を開始するとともに、運用サービスの拡充を順次計画している。

  1. 注17 客席数が100又は最大離陸重量が5万キログラムを超える航空機を使用して航空運送事業を経営する本邦航空運送事業者のこと。