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国土交通白書 2024

第2節 未来につながる変革と持続可能で豊かな社会を目指して

■2 政府の施策と国土交通分野における動き

(1)政府の施策

①新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画

 急速な少子高齢化が進行する中では、国内市場の縮小や、労働市場と企業組織の硬直化等、日本経済の様々な構造問題を背景とする、人への投資や設備投資の遅れといった課題に取り組む必要がある。「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」を目指す「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」(2023年5月)では、イノベーションは、多くの社会的課題解決の可能性を秘めるとともに、新時代の競争力の源泉ともなり得ることから、新たな官民連携によりイノベーションを大胆に推進し、コストカットによる競争からマークアップの確保を通じた付加価値の創造へ大胆に変革していくこととしている。

②こども未来戦略

 我が国の若年人口は、2030年代に入ると、現在の倍速で急減することが予想され、少子化はもはや歯止めの利かない状況となる注1ことが予測される中、次元の異なる少子化対策の実現に向けた「こども未来戦略」(2023年12月)では、すべての子ども・子育て世帯を対象にライフステージ全体を俯瞰し、切れ目のない子育て支援の充実を図るとともに、男女が共に働き、共に子育てする共働き・共育てを推進していくための総合的な対策を推進することとしている。また、子どもや子育て世帯が安心・快適に日常生活を送ることができるようにするため、子どもや子育て世帯の目線に立ち、子どものための近隣地域の生活空間を形成する「こどもまんなかまちづくり」を加速化していくとしている。

③国土強靭化基本計画及び国土形成計画

 少子高齢化の影響により、従来に比べて様々な活動が弱まる地方都市や中山間地域では、時代の変化に適応しながら、地域力を高め、それを発揮していくことが求められる。「国土強靱化基本計画」(2023年7月)では、国土強靱化のための投資は、災害を防ぐだけでなく、新しい生活スタイルや地域の魅力の創出にも貢献するとしており、経済発展の基盤となる交通・通信・エネルギー等ライフラインの強靱化や、地域における防災力の一層の強化等を推進していくこととしている。

 また、本計画は、新時代に地域力をつなぐ国土を目指す「第三次国土形成計画(全国計画)」(2023年7月)等と一体として取組みを強化することとしており、同計画では、地域公共交通や買い物等の暮らしに必要なサービスが持続的に提供される地域生活圏を形成し、地域課題の解決を図るとともに、地域資源を活かしながら地域の魅力向上を図り、地方への人の流れの創出・拡大につなげることとしている。また、自然災害から国民の命と暮らしを守る安全・安心な国土づくりに向け、事前防災、事前復興の観点からの地域づくりを推進するとともに、デジタル技術を活用した地域防災力の向上等を図ることとしている。

(2)国土交通分野における動き

(生産性の向上に資するイノベーションの創出)

 スタートアップの先進的な技術やアイデアによって創出されたイノベーションは、社会課題を解決していくとともに、市場に新たな刺激を与えることで、市場の活性化や既存企業の生産性の向上を促すことが期待される。

 防災分野では、自然災害によって住まいを失った被災者に、テントシートを活用した住空間を短時間で提供することにより、被災現場における社会課題を解決する取組みがみられる。

(共働き・共育ての推進)

 共働き・共育てを定着させていく第一歩として、男性の育児休業取得を促進することが重要である。

 民間の取組みには、子育てにおける父親の重要性を学ぶセミナーや、育児休業の取得に向けた準備を語り合う座談会の開催等により、男性の育児休業取得率の向上を図っていくものがみられる。

 なお、男性の育児休業取得率の高い諸外国では、男性だけに割り当てられた育児休業期間や、日本に比べて高い育児休業給付割合といった特徴的な育児休業制度が設けられている。

(子ども・子育てにやさしい社会づくり)

 子ども・子育てにやさしい社会づくりに向け、子どもや子育て世帯の目線に立ち、子どものための近隣地域の生活空間を形成することが重要である。子どもの遊び場の確保、親同士や地域住民との交流の機会を創出する空間づくり等により、子どもや子育て世帯の安心・快適な日常生活につながることが期待される。

 諸外国では、子どもの視点を取り入れたまちづくりや、子育て世帯が設計段階から関わる住まいづくりに取り組む動きがみられる。

(子ども等の意見の反映)

 2023年4月に施行されたこども基本法(令和4年法律第77号)は、子どもの視点に立った子ども施策が具体的に展開されていくよう、国や地方公共団体が、施策の対象となる子どもや子育て当事者の意見を幅広く聴取して施策に反映させるために必要な措置を講ずることを規定している(第11条)。その措置の内容、意見の聴取方法や施策への反映は、個々の施策の目的に応じて、適切に行われることが重要である。

(物流の効率化による生活利便性の維持)

 サービス産業の撤退により買い物困難者が発生する地域では、地域に応じた買い物支援に取り組むことにより、生活利便性の維持が期待される。例えば、小売事業者の中には、サプライチェーン全体での物流の効率化により、人口規模が小さい地域においても店舗出店を継続するものもある。

(地域の需要に応じた移動手段の確保)

 公共交通の衰退等により移動手段が不十分な地域においては、地域公共交通の再構築を進めるとともに、地域の需要に応じて、タクシー、乗合タクシー、自家用有償旅客運送等の移動サービスを提供することにより、地域の移動手段の確保につながることが期待される。

 高齢化が進行する地域では、自家用有償旅客運送によるデマンド交通の導入により、高齢者の移動手段を確保する取組みがみられる。

(移住・定住の促進)

 人口減少が進む地域においては、関係人口の創出・拡大とともに、移住・定住を促進する取組みも重要である。例えば、テレワークを活用した柔軟な働き方を推進するコワーキングスペースや、移住者同士や地域住民との交流を促す交流施設の整備等、移住者が暮らしやすい環境づくりを進めることにより、移住・定住の促進が期待される。

 自治体によっては、お試し居住施設の整備をはじめ、子育て世帯や若者夫婦世帯に対する住宅取得支援、家賃・改修費の支援等、円滑な住まいの確保を支援することにより、地域の将来を担う若者の移住・定住の促進を図る取組みもみられる。

 また、人口減少が進む地域では、地域づくりへの多様な主体の参加と連携の拡大が重要であり、自治体のみならず、企業や大学、NPO等の様々な主体の参加が必要である。

 諸外国の中では、米国のように、人口減少が進む地域において、NPOが主体となり、若者向けの人材育成プログラムを通じた若者の定住化促進を図る動きがみられる。

(地域の活性化を支援する交通体系の整備)

 地域活性化に資する交通体系の整備により、地域が有する観光資源やその魅力を活かした経済活動の活性化が期待される。

(高齢者が健康で安心して暮らせるまちづくりの推進)

 高齢化が進行する地域においては、サービス付き高齢者向け住宅をはじめ、医療・福祉・介護・健康、コミュニティ等のサービス拠点施設の整備を進めることにより、高齢者が健康で安心できる暮らしにつながることが期待される。

 諸外国では、これらのサービス拠点を集約した高齢者複合施設を整備することにより、高齢者の健康と社会的交流を促す暮らしを推進する動きがみられる。

(デジタル技術の活用による地域防災力の向上)

 自然災害が激甚化・頻発化する中、災害時にドローン・センサ等を活用した情報収集を行うなど、デジタル技術を活用した防災・減災対策の推進は、地域防災力の向上につながることが期待される。

 土砂災害等で道路が寸断され、孤立集落が発生するおそれのある地域では、ドローンを活用した被災状況の早期把握、物資配送の円滑化に取り組む動きがみられる。

  1. 注1 年間出生者数の推移を見ると、2000年代に入るまでは120万人程度で推移していたが、その後急速に減少しており、減少した世代が30代を迎える2030年代に入ると若年人口は急減することが見込まれる(出典:「こども未来戦略」(2023年12月22日閣議決定))。