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国土交通白書 2024

第2節 未来につながる変革と持続可能で豊かな社会を目指して

インタビュー 子ども・若者の声を聞くことを社会のスタンダードに

~NPO法人わかもののまち 代表理事 土肥 潤也氏~
~NPO法人わかもののまち 代表理事 土肥 潤也氏~

 子ども・子育てにやさしい社会の実現には、子どもや子育て当事者の視点に立った取組みが肝要である。こども家庭庁のこども家庭審議会の有識者委員であり、子ども・若者参画のまちづくりがご専門の土肥氏に、子育て環境の整備や子どもの生活空間の形成等における課題、こどもまんなか社会に向けた展望について、お話を伺った。

●子どもの声を聞く取組みが人口減少対策に

 令和5年4月に施行された「こども基本法」には、子ども・子育て当事者の意見を聞く義務規定が設けられた(第11条)。これは大きな政策転換の表れともいえる。子どもや子育て当事者を、これまでは支援対象とみて、必ずしも「主体」とはとらえてこなかったが、今後は、子ども・子育て当事者を「主体」として考えていくことが、国や自治体に求められてくる。

 子どもたちが自己実現と自己効力感、すなわち、自分達の声が届いて、まちが住みやすくなっていく手応えが感じられるかが、今後住み続けるかどうかと密接に絡んでいく。人口減少が進んでいる自治体の方が、より真剣に子どもたちの声を聞いている。人口減少対策としても、子どもの声を聞く取組みが重要になっていくと考える。

●子ども・若者の声を聞く取組みを

 従来からある各自治体の児童館でも、子どもの声を聞く取組みを増やしていった方がいいのではないか。一つは、子どもたちの声を聞いて、どういう児童館にしていくかという取組みで、関係者の意識改革も必要である。もう一つは、児童館で周辺地域の課題についても考えていく取組みである。地方の中高生の最大の関心事はインフラ問題であり、地方に行くほど、電車が1~2時間に1本とか、自転車で悪路を走らないといけない。児童館について考える中で、こういう声を行政に伝えていくことも重要である。行政に予算がなければ、子どもたちも一緒に道路を整備していく主体になり得、「自分たちの通学路だから自分たちできれいにしよう」という行動につながっていく。

 山形県遊佐町(ゆざまち)は、「少年議会」の開催を2003年から続けており、子ども・若者の声をまちづくりに反映している。例えば、電車が1時間に1本しかなく、1本乗り遅れると授業に間に合わないということで、「少年議会」として、JRに対し、運行ダイヤの組替えを求める提言書を出して実現したとか、遊佐町独自で通学タクシー条例を作ったこと等、子ども・若者の声が国土交通施策に影響を与えた事例がある。

 なお、2018年に実施した「子ども議会・若者議会自治体調査」の結果では、全体の約6割の自治体が、子ども議会・若者議会に「現在取り組んでいる」、若しくは「取り組んでいた」経験があった。ただし、「参加のはしご」注1で言えば、まだ非参画段階のものが多いという印象だった。形だけのパブリックコメント、タウンミーティングを実施し、意見を聞きましたとするのか、子ども・若者の主体的な参加を得て意見を聞こうとするのか、大人の側の姿勢が問われる。

 こども基本法に則って、子ども・若者の声を聞く取組みを、国土交通省でも積極的に推進すると良いのではないか。

●交通弱者の子どもたちに居場所を届ける

 子どもが生きていく上で、居場所があることは不可欠だが、広く点在する住宅地の中に、子どもの遊び場や公園を整備することが難しくなっている。子どもたちは交通弱者であることに留意すべきで、居場所の確保とともに、移動方法も含めたまちづくりでなければ、居場所にアクセスできない子どもが出てくる。

 例えば、ドイツでは「プレイカー」という移動型の遊び場が広がっている。ハード整備よりも、遊び道具を公園や道路に運んでいく方が、より平等・公平に届けられるという発想である。日本にも広がりつつあるが、こうした出張型・出前型の居場所も考えられる。

●子どもの居場所は子どもたちが決める

 子どもの居場所は、押しつけにならないことが重要である。「こどもの居場所づくりに関する指針」注2にもあるように、「ここが居場所だ」というのは、子ども自身で決めること。また、オンラインの居場所も、対面で意見を言いづらい子どもが、匿名だから言えることもあり、重要な場といえる。

 人口減少、税収減の社会では、居場所づくりも含め、まちづくりには「自治」の視点が必要である。これは民間も含め、あらゆるアクター(まちづくりの主体)にいえる点である。私が運営している焼津の私設図書館「さんかく」注3も、自分たちのパブリックスペースをつくるために、お金も時間も自分たちで出し合っている。ボランティアで店番に入り、みんなでみんなの場所をつくっている。

 今までは、まちづくりがうまくいかないというと、「役所がいけない」といった話になることがみられたが、そうではなく、市民参加や自治の意識が低いからダメだという認識を持つ時代になってきている。今や地域課題は、民間企業も含め、住民の主体的参加や当事者意識の下、民間主体で解決する時代である。そこには、多様な主体が連携することの難しさもあるが、アクターの多様な考え方や価値観をうまくつなぎ合わせることが重要である。

●公共スペースを民間利用で子どもの居場所、地域コミュニティの場に

 子どもの居場所を整備するに当たり自治体独自で予算を持てない場合、どの地域も活用されていない公共施設・空間があると思うが、例えば、公共施設の統廃合の議論の中で、民間利用かつ低コストによる、子どもの居場所づくりや地域コミュニティの場づくりも検討されて良い。INBase(中高生のためのフリースペース、岡山県備前市)の例では、旧駅舎という公共施設の民主導の活用という意味で、ほかの自治体の参考になる。

●子育て世代にはつながりの実感が得られる小さな居場所や地域コミュニティも必要

 子育て支援施策の中で、育休や見守りは、ソフトというよりハードに近いと考えている。よりソフトな部分で子育て世代が求めているのは、もう少し手触りが感じられる支援である。焼津の「さんかく」(私設図書館)でも、結婚を機に知らない土地に来た子育て世代の人が、友達も知り合いもいないため、孤独に子育てをしなければいけない中で、「さんかく」に来たことで様々な人とつながり、子育てしやすくなったという話がある。なかなか目に見えにくい支援やコミュニティをどのように提供していくかも重要であり、制度的な仕組みづくりと同時に、コミュニティの場づくりの検討も必要である。

●子ども・若者の声を聞いているかが一つの指標

 こどもまんなか社会の実現に向けた将来展望としては、子ども・若者の声を聞くことが社会のスタンダードとなり、きちんと聞いているかが一つの指標となれば良い。

 今の子どもたちは30~40年後、経営層の年齢になる。民間企業では、18歳未満のCFO(Chief Future Officer:最高未来責任者)と共に会社の未来をつくる取組みを進めている例もみられる。

●人口増加している自治体でも住民の声を聞く

 人口減少地域だけでなく、人口が増加している自治体でも、移り住んだ人の住民参加や満足度を高める施策を併せて進めていく必要がある。

 手厚い子育て支援施策で人口が増加している地域でも、そこに住んでいる子どもたちや新住民の満足度が低いという話を聞く。外向けのPR施策とともに、住民の声を聞く施策もバランスよく、移り住んできた人の声や子どもの声を聞きながら、まちづくりをしていくことが重要である。

  1. 注1 「 子どもの参加のはしごモデル」:ニューヨーク市立大学環境心理学及び発達心理学の教授であるロジャー・ハート氏が著書「子どもの参画」内で提唱するモデル。子どもの社会参画の様々な形態を8つの段階で示す。はしごの上段に行くほど、子どもが主体的に関わる程度が大きい。
  2. 注2 こども家庭審議会の答申を受けて閣議決定された、すべての子どもが安全で安心して過ごせる多くの居場所を持ちながら、将来にわたって幸せな状態で成長し、社会で活躍していけるよう、こども家庭庁等が「こどもまんなか」の居場所づくりを後押しするための方針である。
  3. 注3 「みんなの図書館 さんかく」静岡県焼津市焼津駅前通り商店街に開設した私設図書館