
国土交通白書 2024
第3節 産業の活性化
(1)旅客自動車運送事業
バス事業(乗合・貸切)、タクシー事業については、新型コロナウイルス感染症の拡大等により、輸送人員・運送収入が大きく減少し、厳しい経営状況が続いている。
また、長引くコロナ禍において全国的に運転者が不足しており、バス・タクシー合わせて2年で約5.5万人の運転者が減少しており、地域住民や観光客の移動手段確保の観点からも危機的な状況である。
こうした運転者不足を解消するため、令和4年度補正予算に引き続き、令和5年度補正予算において、第二種運転免許取得支援を含む人材確保支援を実施することとした。具体的には、事業者が負担する第二種運転免許取得費用に加え、人材確保セミナーの開催経費やPR資料の作成等の広報業務等についても補助対象としており、不足する人員を事業者が確保するために必要な支援を行うこととしている。
また、自動車運送事業の給与水準は他産業に比べて低く、職業としての魅力を高めるためにも賃金を上げていくことが重要である。
そこで、乗合バスについては、令和5年までに、人件費の算出方法の見直しや地方運輸局への認可権限の大幅な委任と申請書類の簡素化による審査の迅速化を行い、事業者による賃上げ等の労働条件改善を目的とした積極的な運賃改定の実施を促し、令和2年4月以降令和5年末までに、84事業者で運賃改定がされた。
また、タクシーについては、運賃ブロック見直しにより、定期的な改定を可能とする環境整備に取り組んでおり、令和2年4月以降令和5年度末までに93地域で運賃改定を実施し、賃金引上げに向けた取組みを進めている。
また、貸切バスについても、令和5年8月に新運賃の公示を行い、10月より順次適用開始されたところであり、今後、運賃改定後の賃金の引上げ等の状況について、適切にフォローアップしていくこととしている。
他方、主に訪日外国人旅行者を相手として行われる、道路運送法(昭和26年法律第183号)に違反する自家用車を使用したタクシー行為、いわゆる「白タク」行為については、関係府省庁と連携して対応してきたところであり、令和5年度には、コロナウィルス感染症に起因する水際対策が緩和された以降、訪日外国人旅行者が増加している状況を踏まえ、白タク対策を強化しているところである。
【関連データ】
・乗合バスの輸送人員、営業収入の推移
・貸切バス事業の概況
・タクシー事業の現状
(2)自動車運転代行業
自動車運転代行業は、飲酒時の代替交通手段として活用されており、令和5年12月末現在、総事業者数7,707者となっている。近年の動向としては、利用料金について、各都道府県に対して条例で最低利用料金を設定することが可能である旨の通知を発出したところである。
(3)貨物自動車運送事業(トラック事業)
トラック事業者数は長期にわたり増加していたが、平成20年度以降はほぼ横ばいで推移しており、足下では約63,000者となっている。中小企業が99%を占めるトラック運送事業では、荷主都合の長時間の荷待ち等によるドライバーの長時間労働、荷主に対して立場が弱く適正な運賃が収受できないなどの課題があることからドライバーの健康と安全を確保するため、令和6年4月よりトラックドライバーにも時間外労働の上限規制を適用し、労働環境の改善を図ることとされている。
一方で、何も対策を講じなければ輸送力が不足し物流の停滞が懸念される「2024年問題」に直面している。このため、令和5年6月に関係閣僚会議により抜本的・総合的な対策として取りまとめられた「物流革新に向けた政策パッケージ」に基づき、賃上げ原資である適正運賃の収受に向けて「標準的な運賃」の見直しを行ったほか、5年7月に創設した「トラックGメン」による、長時間の荷待ちや運賃・料金の不当な据置き等の適正取引の阻害行為の疑いがある悪質荷主に対する監視・指導強化等を図っている。
さらに、適正運賃の収受等に向けて、トラック事業における多重下請構造の是正等に関する仕組みの創設等のため、令和6年の通常国会に貨物自動車運送事業法等の改正案を提出した。
(4)自動車運送事業等の担い手確保・育成
ヒト・モノの輸送を担っている自動車運送事業等は、日本経済及び地域の移動手段として重要な社会基盤産業であるが、担い手不足が深刻化している。
自動車運送事業においては、職場環境改善に向けた各事業者の取組みを「見える化」するための運転者職場環境良好度認証制度の普及を推進しているほか、業種別に様々な対策に取り組んでいる。バス・タクシーについては、運転者不足への対応が喫緊の課題であり、賃金引上げ実現に向けた運賃改定の円滑な実施や第二種運転免許取得支援の導入等により、人材確保に取り組んでいる。トラックについては、荷主や消費者等も巻き込んだ「ホワイト物流」推進運動や「標準的な運賃」の見直し・更なる普及浸透等に取り組んでいる。このほか、2024年3月、特定技能制度の対象分野に自動車運送業分野等、4分野を新たに追加することが閣議決定されたことを受け、特定技能制度の活用により外国人材を早期に受け入れられるよう、分野別協議会における議論を開始し、制度の運用開始に向けた準備等を行う。自動車整備については、「自動車整備の高度化に対応する人材確保に係る検討WG」を設置し、産学官が協力して人材確保・育成に取り組んでいる。