国土交通白書 2025
第1節 国土交通分野における施策の新展開の萌芽
人材確保が喫緊の課題である国土交通分野の業種において、技術の継承を図り、将来を担う若者の入職・定着を促すためには、担い手にとって魅力ある産業となるよう、賃上げを含む処遇改善や、労働環境の改善が求められている。特に、建設・物流分野は、他産業に比べ賃金が低い状況が続いており、担い手の確保に向けて、労働者の賃上げを含む処遇の改善が重要である。そのため、賃上げの原資が確保されるよう、物価高等の影響を適正に価格に転嫁するような取組が進められている。また、労働時間が他産業に比べ長い傾向にあり、働き方改革を推進し、長時間労働の是正と生産性の向上により業務効率化等が進むことも期待されている。
加えて、多様な人材の受入れ等、担い手の拡大も進められており、労働力の確保が期待されている。
(1)賃上げ
①建設業における賃上げ
建設業は長年、長時間労働かつ低賃金で、3K、「きつい、汚い、危険」とも指摘されてきたが、持続可能な産業として発展していくために、未来への前向きな新3K、「給与がよく、休暇が取れ、希望が持てる」産業に変えていく必要がある。
これまでも、処遇改善に向け、国土交通大臣と建設業団体のトップでの申合せなど賃上げに向けた取組や社会保険への加入徹底、建設キャリアアップシステム(CCUS)の活用等が進められてきた。
今後、構造的な賃上げを実現するには、発注者と建設業者が協力し、発注者を含め、サプライチェーン全体で適正な価格転嫁を定着させていく必要がある。
これを制度面から後押しするため、2024年6月に成立した第三次・担い手3法において、担い手確保に向けた処遇改善を進めるための新ルールを設けている。
(賃上げに向けて)
これまで、公共工事設計労務単価の引上げをはじめ、様々な取組によって、建設分野の賃金は着実に上昇している。今後も、未来を支える担い手の確保のため、必要とされる技能や厳しい労働環境に相応しい賃上げに取り組む必要がある。また、省力化投資による業務の効率化や生産性の向上を図ることも重要である。
資料)国土交通省
(適正な労務費の確保)
建設工事の請負契約において、労務費(賃金の原資)は、材料費等よりも削減が容易であることもあり、労務費分を削ったり、資材の高騰分を労務費の減額によって補填したりするなど、建設技能労働者の処遇を適切に考慮しないケースが生じている。こうした課題を受け、国土交通省では、第三次・担い手3法により制度的な手当を行っている。具体的には、中央建設業審議会が「建設工事の労務費に関する基準」を勧告し、著しく低い労務費等による見積り提出や見積り変更の依頼を禁止するとともに、違反して契約した発注者に対しては国土交通大臣あるいは都道府県知事から勧告、公表できるようにした。
また、不当に低い請負代金の禁止を徹底するべく、注文者の優越的地位の濫用による原価割れ契約の禁止に加え、新たに受注者にも総価での原価割れ契約の締結を禁止した。
資料)国土交通省
(建設Gメン)
処遇改善や取引の適正化を目的として、建設業法に基づき実地調査を行う「建設Gメン」の取組を強化している。発注者を含めた請負契約の各当事者が、請負代金・労務費の確保や価格転嫁等について適切に対応しているか実地調査し、不適正な取引については、改善指導を行い、必要に応じて立入検査等をすることとしており、規制の実効性の確保を図っている。
資料)国土交通省
②物流分野における賃上げ
トラックドライバーの処遇と労働環境が改善されなければ、担い手の確保は困難であることから、労働時間の短縮と、適正運賃収受による賃上げが課題となっており、解決に向けた取組が進められている。
(標準的運賃)
トラックドライバーの賃上げでは、荷主との運賃交渉に臨むに当たっての参考指標として、2020年に、貨物自動車運送事業法に基づき「標準的運賃」を告示したほか、2024年3月の見直しにより運賃水準を平均8%引き上げるとともに、荷待ち・荷役などの輸送以外のサービス対価や下請手数料等、新たな運賃項目を設定することで、足下では10%前後の賃上げにつながると見込まれている。標準運送約款の見直しと併せ、トラックドライバーの労働条件の改善に向けた取組を進めている。
(2)適切な価格転嫁
①建設業における適切な価格転嫁に向けて
持続可能な建設業の実現には、適切な価格転嫁を促した上で、建設業者の適正な利潤の確保と建設技能労働者の賃上げにつなげていくことが重要である。労務費が、契約後の資材高騰等のしわ寄せを受けることのないように、サプライチェーン全体の中で適切に価格転嫁を行い、また、変更契約等の働きかけを行うことが重要である。
(改正法による価格転嫁の円滑化)
建設業者が安心して請負契約の変更交渉ができる環境を整えるべく、制度面の後押しとして、第三次・担い手3法では、資材高騰に伴う価格転嫁が円滑に行われるよう、資材高騰に伴う請負代金等の「変更方法」を契約書の記載事項として定めており、契約上で変更協議を行うことを義務づけ、変更を促進することとした。その他、注文者と受注者の間のパートナーシップを構築しやすいよう、契約前の段階から資材が高騰するリスク等の情報を相互に共有し、実際に資材が高騰した場合には注文者は誠実に協議に応じる義務(民間発注者は努力義務)をルール化し、価格転嫁の円滑化を図っている。
②物流分野における適切な価格転嫁に向けて
物流分野では、荷主から運送事業者への価格転嫁を後押しするため、関係省庁と連携し各荷主の業界団体が取引適正化に向けた自主行動計画を定めている。荷主の立場で適正な運賃水準に配慮する旨、定めるように働きかけを行い、併せて業界団体に所属する事業者への周知徹底等を求めている。
また、トラック運送業を含め、価格転嫁の状況を調査、公表するほか、取組が芳しくない企業へ事業所管大臣名での指導・助言を行っている。
(適正運賃の収受)
トラック事業者が適正運賃を収受できるよう、標準的運賃を引き上げたほか、下請手数料等を新たな運賃項目として設定することにより、元請事業者は、実運送事業者が収受すべき運賃に手数料等の合計を上乗せした金額を荷主に求めることになる。
また、実運送体制管理簿の作成義務による運送体制の可視化と運送契約締結時の書面交付義務(電磁的方法を含む)による契約条件の明確化を行った。これにより、荷主は運送コストを適正化すべく、過度な取引構造の回避を運送事業者に求めることとなり、多重取引構造の是正が図られる。
(トラック・物流Gメン)
2023年に発足したトラックGメンは、トラック事業者を通じて入手した情報を基に、悪質な荷主、元請事業者等への是正指導を強化している。これにより、実運送事業者の適正運賃の収受が担保される。
物流全体の適正化を図る観点から、2024年11月からはトラック・物流Gメンに改組し、倉庫業者からの情報収集を行うとともに、体制の拡充も図り、国土交通省の職員に、各都道府県のトラック協会が新たに設ける「Gメン調査員」を加えた、総勢360名規模で対応している。
資料)国土交通省
(3)適正な工期・納期
①適正な工期に向けて
賃上げといった処遇改善だけでなく、働き方の観点からも対策を進める必要がある。
働き方改革の推進に当たり、週休2日や4週8休の実現を進めているが、建設工事では、発注者、元請事業者、下請事業者など関係者が多数に及ぶことから、一事業者の自助努力だけで週休2日を実現することが難しい面もあり、建設工事全体で工期の適正化に取り組む必要がある。
資料)国土交通省
(新たな制度的対応)
建設業においては、従前より、週休2日が前提の工期設定や施工時期の平準化などを実施し、長時間労働の抑制に取り組んでいるが、2024年度から適用された時間外労働の上限規制にも対応するため、更なる処遇改善・労働時間の短縮に必要な対策が求められている。
そこで、過当競争から生じる労働環境を犠牲にした受注を抑制するため、無理な工期での受注を防止する、いわゆる工期ダンピング対策に取り組んでいる。既に発注者側の工期ダンピングは禁止されている(建設業法第19条の5)のに加え、第三次・担い手3法により、受注者側に対しても工期ダンピングについて禁止する規定を設け、対策を強化したものである。これにより著しく短い工期で契約を交わした受注者にも、指導・監督処分が下されることとなる。
②適正な納期に向けて
トラックドライバー不足が懸念される中、過度な短納期発注への対応は、物流事業者の時間外労働や休日労働につながり、働き方改革の推進を阻害する一因となるため、余裕をもった適正な納期による発注に取り組む必要がある。
(納品リードタイムの確保)
物流の「2024年問題」への対応を加速することを目的に、関係省庁と連名で、発荷主事業者・着荷主事業者・物流事業者が取り組むべき事項をまとめた「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」を策定している。
ガイドラインでは、着荷主事業者の実施が必要な事項として、納品リードタイムの確保が挙げられている。物流事業者等の準備時間を確保し、輸送手段の選択肢を増やすために、発注から納品までの納品リードタイムを十分に確保するなど、物流負荷の軽減に取り組んでいる。
(4)労働環境の改善
①中継輸送
トラックの長距離幹線輸送では、長時間運転や宿泊を伴う運行が行われており、一人のトラックドライバーが往復する場合、2日ないし3日程度を要することもある。トラックドライバーの担い手の確保に向けては、このような長い拘束時間や数日間自宅に帰れないという労働環境の改善が必要である。
こうした中、労働環境の改善に向けた取組として、各地で中継輸送が実施されている。中継輸送は、物流事業者の営業所や中継輸送専用の拠点でドライバーの乗り替えやトレーラーのヘッドの交換等を行うことで、長距離運行を複数のドライバーで担う輸送形態である。これによりドライバーの日帰り勤務が可能になり、労務負担の軽減や担い手不足の緩和につながっている。
資料)国土交通省
(拠点整備等)
国土交通省では、除雪ステーション、サービスエリア等の既存道路ストックを活用した中継輸送の実証実験や拠点整備を進めている。
また、拠点を複数持たない中小の物流事業者は、自社だけで中継輸送を行うことが難しいことから、物流事業者が共同利用できる中継拠点の整備や、中継輸送を希望する同業他社とのスムーズなマッチングの支援も重要となる。
資料)国土交通省
北海道では、道の駅や道路施設(簡易パーキング等)を活用した中継輸送実験を実施しているほか、物流事業者間のマッチングイベント「ロジスク」を道内の関係行政機関で共催しており、中継輸送・共同輸送の実現に向けた取組を進めている。
「ロジスク」では、物流事業者同士が物流課題や中継輸送・共同輸送のニーズ等について話し合える少人数のワークショップを提供しており、中継輸送・共同輸送の実現に向けた積極的な協業成立を促すための支援体制を試行している。
資料)国土交通省
②トラック予約受付システム
トラック予約受付システムは、トラックドライバー等が、携帯端末により物流施設の指定する入場可能時刻に合わせて入場時刻を事前予約できるシステムである。これにより、受付順に積卸し作業をする場合に発生していたトラックドライバーの待機時間が解消される。
また、物流施設側も、トラックの入場時刻に合わせた作業計画や人員配置の調整が可能となり、積卸し作業の効率化につながっている。
資料)国土交通省
③モーダルシフトの推進
モーダルシフトとは、トラック輸送などの貨物輸送を環境負荷の小さい鉄道や船舶の利用に転換することである。モーダルシフトにより、トラックは、出荷先から転換拠点、又は転換拠点から納品先までの運行だけで済むため、トラックによる長時間の幹線輸送を減らし、省人化やドライバーの労働時間改善にもつながっている。
(新モーダルシフト)
物流を巡る技術革新が進み、環境負荷が相対的に高いと考えられていたトラックや航空機等の輸送モードにおいても、運用条件等によっては環境負荷の低減に資するケースも見られる。今後は、物流の「2024年問題」を受け、従来のトラック輸送から鉄道や船舶への転換だけでなく、陸・海・空のあらゆる輸送モードを総動員する「新モーダルシフト」を推進する。新モーダルシフトの転換先としては、1台で大型トラック2台分の貨物輸送が可能なダブル連結トラックや効率的な運行を実現する自動運転車両の活用、航空機の空きスペースを活用した貨物輸送など多様な手段が挙げられる。
資料)国土交通省
(5)新たな担い手の活用
①外国人材の受入れ拡大
我が国では、様々な産業で担い手不足が懸念されている中、人材の確保を目的に、2019年4月に外国人材を受け入れる新たな在留資格「特定技能」が導入された。特定技能制度は、生産性向上や国内人材の確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野において、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れる制度として構築されている。
このような中で、更なる人材確保の困難化等を背景に、外国人材の受入体制が拡大されている。2023年6月、熟練した技能を要する特定技能2号の対象分野が、従来の建設、造船・舶用工業に加え、自動車整備、航空、宿泊を含む11分野に拡大されたほか、2024年3月には、特定技能1号の対象に、自動車運送業、鉄道を含む4分野が新たに追加され、現在では16分野となっている。国土交通省が所管する分野注1では、2024年度から2028年度末までの受入れ人数を最大で約18万1千人と見込むなど、受入れ拡大を図っていく。
資料)出入国在留管理庁「特定技能制度の受入れ見込数の再設定(令和6年3月29日閣議決定)」より国土交通省作成
②女性の活躍と定着促進
ジェンダー主流化に向けた働きやすい環境整備によって、国土交通分野へ女性の入職を促すとともに、離職を防止し、女性人材の定着につなげる取組を進めている。
資料)国土交通省
(建設業における取組)
国土交通省は、関係団体と連携し、2025年3月に、「建設産業における女性活躍・定着促進に向けた実行計画」を策定した。建設業で働く女性の活躍・定着促進を切り口としつつ、若者や高齢者、さらには外国人等、すべての人が働きやすく、また、働きがいのある、魅力的な建設業を実現し、担い手確保につなげることを目指している。
建設現場における快適なトイレ環境や更衣室の整備等、働く女性に対してのハード面の環境整備を進めるとともに、ICTの積極的活用を前提に、一堂に会した朝礼の見直しや、作業分担の工夫などによる多様な働き方ができる現場運営を推進している。
(航空分野における取組)
航空分野では、航空整備士・操縦士の裾野拡大のため、なり手の拡大と職員の定着を軸として、女性活躍を推進している。2025年2月には、「操縦士・航空整備士の女性活躍推進WG」のとりまとめを行い、10年後に、航空整備士・操縦士の女性比率を10%にすることを目指すこととしている。
具体的には、航空大学校の入学要件の撤廃や、男性の仕事といったイメージを払拭する広報活動等、なり手拡大につながる取組を検討するとともに、育休等に配慮した国家資格制度の見直しや、体力面での不足を補う整備ツールの普及等、職員の定着につながる取組も進めていくこととしている。
③建設技術者の一部業務を代行する新職種
建設技術者は、施工管理や書類作成等、多くの業務に携わっており、担い手不足の中で、業務の逼迫が懸念される。人口減少によって今後も建設技術者の確保が難しくなっていく中で、新たな職種を創出し、書類作成やICT等の支援により建設技術者の負担を軽減する取組が見られている。書類作成の支援だけでなく、ドローン操作や3次元設計といったICTスキルを駆使することで、建設技術者の業務効率化や労働時間の短縮につながっている。
(6)体制強化・資格の見直し
①航空分野における人材確保・活用
(グランドハンドリング・保安検査員等の空港業務の体制強化)
航空機の運航に不可欠なグランドハンドリングや保安検査等の空港業務は、今後の観光需要の増加に対応するため、人材の定着・育成が課題となっている。このような中で、空港機能が持続的に維持・発展できるよう、グランドハンドリングや保安検査業務の体制強化が推進されている。
具体的には、航空会社の系列ごとに異なっていた資格の相互承認を行う取組や、空港見学会を通じたグランドハンドリングスタッフや保安検査員を目指す若者に向けた裾野の拡大が進められている。また個社の取組として、休憩スペースの整備や福利厚生の充実といったハード・ソフト両面からの労働環境の改善も見られている。
(航空整備士・操縦士の人材確保・活用)
航空整備士の主要養成機関である航空専門学校の入学者は大幅に減少しており、航空整備士の担い手不足が懸念される。また、航空機の操縦士も、高齢化に伴う大量退職等、人材確保に課題がある。
このような中で、国土交通省では、有識者検討会において航空整備士・操縦士の確保や業務効率化等に向けた必要な対策について、2025年3月に最終とりまとめを行っており、具体的な取組の方向性を示している。航空整備士においては、自衛隊整備士の活用促進や外国人整備士の受入れ拡大等、操縦士においては、養成機関としての私立大学等の活用促進や女性パイロット等の拡大等の取組が期待されている。また、官民連携した協議体を設置の上、戦略的な広報活動にも取り組むこととしている。
資料)国土交通省「航空整備士・操縦士の人材確保・活用に関する検討会 最終とりまとめ」
②自動車整備士等の人材確保
自動車整備業では、電気自動車や自動ブレーキ等を搭載した自動車に対応する整備技術が高度化しており、少子高齢化や、働き方の多様化が進む中で、整備要員の定着・育成を進めている。
国土交通省では、整備事業者に働く環境や処遇改善等を促し、担い手を確保することを目的に「自動車整備士等の働きやすい・働きがいのある職場づくりに向けたガイドライン」を策定・公表している。ガイドラインでは、働きやすさ・働きがいに係わる4つの要素(①働き方・労働条件、②人間関係・コミュニケーション、③人材開発、④待遇(働く価値))ごとに整備事業者が目指す姿や取組例を示している。
資料)国土交通省
また、国土交通省の運輸支局等では、高等学校等を訪問し、自動車整備士の社会的重要性や将来性等を説明するとともに、学校側からの意見・要望を情報共有することで、今後の人材確保の取組に活かすこととしている。
- 注1 建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、自動車運送業、鉄道の7分野。