平成3年度 運輸白書

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●湾岸情勢への対応(2.9.1〜)
平成2年8月の湾岸危機発生以来、運輸省は、日本人及びヴィエトナム人等避難民を湾岸地域から帰国させるため、外務省の依頼を受けて日本航空、全日本空輸に対し救援機の運航を要請し、その運航回数は延べ11回に上った。
また、物資の輸送協力については、(社)日本船主協会及び全日本海員組合に対し協力を要請、この結果、政府は2隻の日本籍貨物船で、6カ月間にわたり建設資材、生活関連物資等を輸送したほか、サウディアラビア政府からの要請に応じて、政府がチャーターした航空機により救急車を輸送した。
さらに、ペルシャ湾岸地域の原油流出問題等に対応するため、我が国の貢献策の一環として、海上災害防止センターの協力を得て、オイルフェンスを供与したほか、海上保安庁、気象庁等の専門家を派遣して原油回収などに協力している。
ヴィエトナムのタンソニュット空港に到着した救援機
湾岸の油防除に協力する海上保安庁職員
●雲仙岳噴火への対応(2.11.17)
雲仙普賢岳は、平成2年11月17日に198年ぶりに噴火した。その後活動は一時低下したが、3年2月に再び噴火した。6月3日には、規模の大きな火砕流が発生し火山災害では大正15年の十勝岳噴火以来最大の死者、行方不明者が発生した。
運輸省は、交通機関の運行の安全の確保を図るとともに、海上輸送による陸上代替輸送の確保、旅客船・ホテルを利用した避難場所の確保などの被災住民対策に対応した。
気象庁は、本庁及び現地に災害対策本部を設置し、火山の観測・監視や情報発表のための体制を強化している。
海上保安庁は、現地に災害対策本部を設置し、巡視船艇により海上警戒等にあたっている。
活発な活動を続ける雲仙普賢岳
●JR東日本・京成電鉄の成田空港乗り入れ(3.3.19)及び東北・上越新幹線東京駅乗り入れ(3.6.20)
新東京国際空港が開港(昭和53年5月)して以来、同空港へのアクセスの強化が強く求められていたが、平成3年3月19日に、JR東日本の成田エクスプレス(東京、新宿、池袋、横浜発)と京成電鉄のスカイライナー(上野発)が空港ターミナルビルに乗り入れることとなった。この乗り入れには、グレードアップされた車両が導入されており、また大幅な所要時間の短縮が図られるなど同空港へのアクセスが大幅に改善された。
また、3年6月20日、東北新幹線東京〜上野間3.6kmが開業した。昭和46年の工事着工以来、国鉄の経営悪化に伴う工事抑制や御徒町トンネル事故があったが、約20年間を費やしてようやくの開業である。
成田エクスプレス
東北・上越新幹線東京駅開業記念セレモニー
●幹線物流におけるモーダルシフトの推進への本格的取り組み(3.4)
トラックはドア・ツー・ドアの輸送が可能であり、その利便性や機動性から幹線、端末を問わず物流の担い手として急速に成長し、今や国内貨物輸送量の半分以上のシェアを占めるにいたっている。しかしながら労働力不足など物流をめぐる制約要因が深刻化する中で、物流の効率化を図っていくためには、幹線の部分はトラックからより効率のよい鉄道や海運を使っていくことが望ましく、これをモーダルシフトと呼んでいる。
モーダルシフトを進めていくため、運輸省では、鉄道貨物輸送力増強への支援、内貿ユニットロードターミナルの建設、ピギーバック用車両に対する税制上の優遇などの施策を行っている。
モーダルシフト推進の一翼を担う内航RORO船
●自賠責保険の保険金限度額、死亡3,000万円に引上げ(3.4.1)
原則としてすべての自動車に義務付けられている自動車損害賠償責任保険(共済)について、平成3年4月1日以降に発生した事故による死亡及び後遺障害第1級の保険金支払限度額を2,500万円から3,000万円に引き上げるなど被害者救済対策の一層の充実を図った。
また、無保険(無共済)バイクをなくそうキャンペーン等により保険加入の徹底を図るとともに、無保険車やひき逃げによる事故の被害者に対しては、政府の保障事業により救済を図っている。
運輸省所管の認可法人である自動車事故対策センターでは、交通遺児に対する生活資金の貸付けのほか、重度後遺障害者に対する治療及び養護を行う療護施設(千葉療護センター及び東北療護センター。現在、岡山県に療護施設の設置を計画中。)の運営を行うなど被害者の保護の増進を図っている。
(左)無保険(無共済)バイクをなくそうキャンペーンポスター
(右)千葉療護センター
●超高速旅客船、相次いで就航(3.4)
定期旅客船の分野において、航海速力35ノット(約65km/h)以上で航行する超高速旅客船が近年相次いで就航している。
ジェットフォイル(航海速力43ノット、約80km/h)については、従来の2航路に加え、平成元年度に3航路(うち外航1)、2年度に4航路(うち外航1)に就航し、3年度には、博多〜済州(4月5日)、博多〜壱岐(4月14日)、下関〜釜山(7月29日)の3航路に就航し、合計で12航路(うち外航4)、13隻(うち外航3)が就航することとなった。
3年3月15日には、エアクッション双胴船(航海速力30〜50ノット、約56〜93km/h)が長崎〜串木野(鹿児島県)に就航しており、今後も続々と超高速旅客船の導入が検討されている。
また、いままで原則禁止されていた内航ジェットフォイルの夜間翼走については、利用者利便の一層の増進の観点から順次認めていくこととした。
快走する超高速客船
●信楽高原鐵道の列車衝突事故(3.5.14)
平成3年5月14日午前10時35分頃、信楽高原鐵道で「世界陶芸博」に向かう多数の旅客を乗せた下り列車が上り列車と正面衝突し、被害者が双方で死者42名、負傷者614名を数える大惨事となった。
運輸省では、事故発生と同時に運輸大臣を本部長とする信楽高原鐵道事故対策本部を設置し、原因究明等に着手した。また、全国の単線路線を有する133事業者に対し緊急総点検を指示し、安全性の確認を行った。
信楽高原鐵道においては、運行の再開に向け、滋賀県及びJR西日本の支援を受け、社内体制の整備や安全運行のための教育、訓練を実施しており、できるだけ早期に運行を再開する方向で鋭意努力している。
事故現場
●21世紀に向けての交通政策・運輸技術施策の基本的方向に関する運輸政策審議会・運輸技術審議会答申(3.6)
平成元年11月、運輸大臣から運輸政策審議会に対し、21世紀に向けての90年代の交通政策の基本的課題への対応について諮問し、3年6月までに、政策課題ごとの10の答申が同審議会によってとりまとめられた。
また、運輸政策審議会の答申に対応する技術施策を明確にするとともに、21世紀を展望したより長期的な運輸技術施策を提示するため、3年4月、運輸大臣から運輸技術審議会に対し、21世紀を展望した運輸技術施策について諮問し、3年6月にこれに対する答申が出された。
運輸政策審議会第15回総会(3.6.17)
●運輸省本省組織の再編成(3.7.1)
運輸行政の総合化と効率化を積極的に推進するため、運輸省は平成3年7月1日、次の事項を柱とする本省組織の再編成を行った。
@ 高級事務レベルでの国際運輸問題の的確な処理と国際運輸行政の総合的かつ強力な推進を図るため、「運輸審議官」を設置すること。
A 運輸政策の総合的な推進体制を整備するため、運輸政策(総合交通政策、地域交通政策、国際運輸政策及び貨物流通政策)の立案・推進機能を運輸政策局に集中するとともに、観光部を同局に移管すること。
B 運輸政策を効率的に実施する体制を整備するとともに、一般国民にとってよりわかりやすい行政組織とするため、「鉄道局」、「自動車交通局」及び「海上交通局」を設置すること。
C 貨物流通等運輸行政に係る重要事項の処理に関する総合調整機能を強化するため、「総務審議官」を設置すること。
D 利用者に直結した行政の展開を図るため、運輸政策局「消費者行政課」や自動車交通局技術安全部「ユーザー業務室」を設置すること。
新しい運輸省の組織のあらまし
●観光交流拡大計画(Two Way Tourism 21)の策定(3.7.10)
運輸省は、日本人海外旅行者数(昭和61年552万人)をおおむね5年間で1,000万人に倍増するとの目標を定めて、62年9月に「海外旅行倍増計画(テン・ミリオン計画)」を策定し、海外旅行促進キャンペーンの実施、海外旅行促進ミッションの派遣等の施策を強力に推進してきた。その結果、平成2年に海外旅行者数は1,100万人に達し、テン・ミリオン計画は予定よりも一年早くその量的目標を達成するなど所期の成果を挙げた。
しかし、国際間の相互理解の増進や市民レベルの国際交流の拡大を図り、我が国の国際社会における安定的地位の維持・発展に努めることがますます重要になってきたため、3年7月に観光交流拡大計画(Two Way Tourism 21)を策定し、双方向の観光交流の拡大と海外旅行の質的向上を重点とした施策に積極的に取り組んでいる。
日本人の海外ホームスティ(ニュージーランド、オークランド市)
●横浜国際平和会議場完成(3.7.29)
平成3年7月29日、横浜港に「パシフィコ横浜」(国際会議場、ホテル、展示ホール、国立大ホール等を備えた世界最大級の複合コンベンションセンター)の核となる横浜国際平和会議場が完成した。パシフィコ横浜は、「みなとみらい21」計画の先導的・中核的な機能を持ち、ウォーターフロントにおける国際交流拠点及び市民と海とのふれあいの場として位置づけられている。
運輸省は、この横浜国際平和会議場を、民活法特定施設(民活法第二条第一項第五号ロの国際会議場施設)の全国第一号に認定し、民活補助金、低利融資等の助成を行うとともに、関連施設である駐車場を特定民間都市開発事業として、また、臨港パーク、道路等を公共事業として積極的に支援してきた。
当施設の完成により、横浜港の国際化への一層の進展が期待されている。
横浜国際平和会議場
●東京国際空港、開港60周年(3.8.25)
国内航空旅客の半数以上にあたる年間約3,800万人の人々が利用する我が国の基幹的空港である東京国際空港(羽田)は、本年8月25日、開港以来満60年を迎えた。
60年前、現在の「東京国際空港」の前身である「東京飛行場」に就航していた航空機は、座席数わずか6席、航空の利用者数は全国で年間8,000人であった。還暦を迎えた現在では、560名を超える旅客を一時に輸送することができるジャンボ機が飛び交い、平成2年度における国際航空旅客は3,100万人を突破し、また、国内航空旅客は6,500万人を超えている。まさに、航空が国民各層の利用する基幹的交通機関として定着したといえる。
東京国際空港は、新東京国際空港(成田)に国際空港としての機能の大半を委譲した後も、国内航空の基幹的空港として、また、首都圏における我が国要人及び諸外国からの国賓、公賓の出入空港として、その揺るぎない役割を期待されている。
東京国際空港60年の変遷
●整備新幹線の着工(3.9)及び鉄道整備基金の発足(3.10.9)
整備5新幹線(北海道、東北(盛岡〜青森間)、北陸、九州(鹿児島ルート、長崎ルート))のうち、平成元年に着工している北陸新幹線高崎〜軽井沢間に加え、東北新幹線盛岡〜青森間、北陸新幹線軽井沢〜長野間、九州新幹線八代〜西鹿児島間の3区間について3年9月に着工式が行われた。
平成3年10月1日には、鉄道整備のための総合的かつ効率的な助成を行う鉄道整備基金が設立された。鉄道整備基金は高速鉄道ネットワークの形成を図ることによる国土の均衡ある発展と都市鉄道ネットワークの整備を図ることによる大都市の機能の維持及び増進などを目的としている。また、同基金においては、既設新幹線の譲渡収入の一部と従来の国の一般会計からの補助金などを財源として、@整備新幹線の建設のための交付金の交付及び無利子貸付け(NTT−B)、A主要な幹線鉄道の活性化及び都市鉄道の整備のための無利子貸付け及び補助金などの交付、B山梨のリニア実験線の建設のための補助、C地方中小民鉄の近代化のための補助など各種の助成を行うこととしている。
東北新幹線 盛岡〜青森間
北陸新幹線 軽井沢〜長野間
九州新幹線 八代〜西鹿児島間
●魅力ある新たな造船業への再出発(3.9.26)
我が国造船業は、二度にわたる石油危機による世界的な新造船需要の減退等により十数年にわたる未曾有の不況に直面し、この間二度の設備処理をはじめとした構造対策を実施した。その成果と海運市況の改善等により、平成元年度から業況は回復し始め、2年度には新造船受注量が7年ぶりに1,000万総トンの大台を突破するなど、ようやく将来を展望できる状況となった。
このため、長期的な需給の安定化方策、需要変化への柔軟性と創造的技術力を兼ね備えた産業基盤の整備のあり方、地球環境保全技術の開発等の国際的な共通課題への対応等21世紀を展望したこれからの造船対策のあり方について、3年9月26日、海運造船合理化審議会に諮問し、従来の不況対策に代わる新たな造船業対策への第一歩を踏みだした。
建造中のLNG運搬船

平成3年度

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