平成5年度 運輸白書

第2章 変貌する国際経済社会と運輸

第3節 国際社会への貢献

    1 国際協力の推進
    2 国際科学技術協力


1 国際協力の推進
(1) 運輸分野における国際協力の重要性
 鉄道、港湾、空港等の運輸基盤施設の整備等による効率的な輸送体系の構築や、観光の振興は、経済発展や生活向上を図っていく上で不可欠な役割を担うものであるが、開発途上国等においては、資金及び技術の不足が著しく、我が国の有する経済力や運輸分野の高い技術力に対する期待は高い。このため運輸省は、こうした途上国等からの期待に応えてきており、その結果、我が国の国際協力の中で運輸分野は重要な地位を占めている。冷戦構造の終焉、経済のボーダレス化の進展により、人流、物流はますます活発化してきており、運輸分野の国際協力の重要性はますます増大してきている。
(2) 運輸分野における国際協力の実績
 途上国等からの協力要請は増大、多様化の一途をたどっている。過去5年間の協力実施国は約100ヶ国にのぼる〔2−2−2図〕。4年度の協力形態別の実績は以下のとおりである。
(ア) 資金協力
 我が国の有償資金協力のプロジェクト借款(円借款のうち、鉄道、港湾の整備等特定のプロジェクトの実施に関するもの)において、運輸分野は全体の約2割を占めている〔2−2−3図〕。4年度は中国の航空管制近代化、インドネシアの首都圏鉄道近代化など18件、総額1,152億円に及ぶ借款の交換公文が締結された。また、無償資金協力としてはバングラデシュの気象用通信網の整備など7件、総額56億円を供与する交換公文が締結された。
(イ) 技術協力
 開発調査(途上国のプロジェクトについて基本計画やプロジェクトの実現可能性を検討するための調査)については、運輸分野が全体の約1割を占めている。4年度は、ポ−ランドにおける総合交通計画、フィリピンにおける全国フェリー輸送計画の策定など34件について国際協力事業団を通じて、開発調査を実施した。
 また、31ヶ国等に250名の専門家を派遣し、68ヶ国から353名の研修員を受け入れるとともに、タイの船員教育訓練センターなど6件についてプロジェクト方式技術協力(専門家の派遣、研修員の受入れ及び機材供与を総合して実施するもの)を国際協力事業団を通じて実施した。
(3) 国際協力の動向 〔2−2−4図〕
 (国際社会の変化への対応)
 政治的、経済的に大きく変化する国際社会の動きに対応し、協力の内容、協力形態等も多様化している。例えばアジア太平洋地域における経済活動の活発化、相互依存関係の緊密化に対応して、アジア太平洋経済協力(APEC)閣僚会議(*)等を通じた地域の輸送体系の構築、観光の振興への協力を行っている。また、冷戦構造の終焉に伴い、旧社会主義国に対する協力が増大している。ロシアに対しては鉄道、物流、航空管制、港湾等の分野における技術的支援を行っている。
 (環境問題への対応)
 地球環境問題の高まり等に対応して、交通公害対策、気候変動、海洋環境保全等の環境分野への協力を積極的に推進している(第10章参照)
 (開発途上国のニーズへの的確な対応)
 援助規模の量的拡大、多様化に伴い、協力の的確な実施が求められている。このため我が国は4年6月政府開発援助大綱を策定した。運輸省としても、運輸審議官の派遣による途上国との政策対話などにより開発途上国のニーズを的確に把握するとともに、ニーズに的確に対応するため、国別、分野別の援助指針の策定など運輸分野国際協力の基本方針を明確にするとともに、途上国の実情に適合した技術の開発などの援助手法の研究を行っている。
 また、外貨獲得・雇用創出に効果的な観光振興に対する途上国の関心の高まり等に対応し、「国際観光開発総合支援構想(ホリディ・ビレッジ構想)」を策定し、観光振興への協力を推進している。また、運輸の発展のためには、政府による鉄道等の基盤施設の整備とともに、運輸事業の振興など民間セクターの能力向上が重要である。このため、船員の乗船研修を我が国で実施するなど開発途上国における民間セクターの人材養成に努めている。

*「アジア太平洋協力(APEC;Asia-Pacific Economic Cooperatoon)」・・・アジア太平洋地域に関する閣僚会議を含む政府間の地域協議体。1989年設立。現在、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、中国、香港、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポール、台湾(呼称:チャイニーズ・タイペイ)、タイ、米国、の15ヶ国・地域が参加。

2 国際科学技術協力
(1) 運輸省における国際科学技術協力
 鉄道、自動車、船舶、港湾、航空、気象、海上保安等の運輸関係技術については、その技術関係の成果が国際的に広く活用されるものであると同時に、地球環境問題への対応など国際的な研究協力の意義が大きな分野でもある。4年4月に改正された政府の「科学技術政策大綱」においても、国際的な科学技術活動強化の重要性が謳われている。
 運輸省においては、このような環境の中で、所掌する各分野について国際間の情報交換、専門家交流、共同研究等を積極的に推進している。運輸省関係の国際科学技術協力の案件は年々増加し、現在15ヶ国、103テーマ(4年度末)に及んでいる。研究者の交流についても、科学技術庁の在外研究員派遣制度等を活用してその促進を図っている。また、5年度には、科学技術振興調整費を活用して、自動車、船舶、港湾及び水路業務関係で計8件の国際共同研究を実施する等、協力案件の質的な充実を図っている。
(2) 各分野毎の国際科学技術協力活動
(ア) 自動車、鉄道関係
 交通安全公害研究所において、自動車の排出ガス等公害対策について韓国、アメリカ、ドイツ及びデンマークと、鉄道局及び交通安全公害研究所において、常電導磁気浮上式鉄道についてドイツとそれぞれ情報交換、専門家交流等を行っている。
(イ) 船舶関係
 船舶技術研究所において、アメリカと「天然資源の開発利用に関する日米会議(UJNR)」の海洋構造物専門部会を通じて協力を行っているほか、海洋構造物・船舶の安全性、氷海域輸送、海洋汚染防止技術等に関する情報交換、専門家交流及び共同研究を、韓国、ドイツ、カナダ、ノルウェー等12ヶ国と行っている。
(ウ) 港湾関係
 港湾局及び港湾技術研究所において、沿岸開発、港湾海洋構造物、港湾及び海洋の汚染防止・浄化、水中調査ロボット等に関する情報交換、専門家の交流及び共同研究をオーストラリア、アメリカ、ドイツ等9ヶ国と行っている。
(エ) 航空関係
 航空局において、航空機の経年化等航空の安全に関する協力をアメリカと行っているほか、電子航法研究所において、マイクロ波着陸システムの協力を中国と、衛星航法に関する研究の協力をカナリとそれぞれ行っている。
(オ) 海上保安関係
 海上保安庁において、アメリカとUJNRの海底調査専門部会を通じて電子海図及び海洋地球物理データの管理システムに関する共同研究等の協力を行っているほか、人工衛星レーザー測距による海洋測地、海洋及び海底地形等に係るデータ交換、海洋汚染における油種等の識別技術等に関し、アメリカ、フランス、ドイツ等10ヶ国と協力を行い、情報交換や専門家の交流等を行っている。
(カ) 気象関係
 気象庁において、フランス、オーストラリア、アメリカ等14ヶ国及びECとの間で、気候変動、衛星気象学、天気予報、海洋環境、地震・火山等の各分野にわたり59件の協力を実施し、情報交換、専門家の交流及び共同研究を行っているほか、WMO(世界気象機関)、IOC(ユネスコ政府間海洋学委員会)等の推進している多数国間技術協力にも参加している。



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