平成5年度 運輸白書

トピックで見る運輸の1年



 新東京国際空港(成田)においては、年々混雑が著しくなる中で、平成4年12月6日、第2旅客ターミナルビルの供用を開始した。このターミナルビルは、第1旅客ターミナルビルの1.6 倍(28万m2)の延床面積を有しており、混雑緩和に大きく寄与するとともに、快適でゆとりのあるスペースの確保、空気浮上式シャトルシステム等の最新技術の導入などにより高い水準のサービスを提供できるよう各種施設の充実が図られている。
 東京国際空港(羽田)においては、沖合展開事業の第2期計画である西側ターミナル施設の整備が完了し、5年9月27日に供用を開始した。空港の中枢機能である旅客ターミナルビル(国際線を除く)、管制塔等が移転し、道路については湾岸道路及び環状8号線が、鉄道については東京モノレール、京浜急行(羽田駅でモノレールに接続)が延伸し、首都圏の空の玄関にふさわしい空港へと生まれ変わった。

新東京国際空港第2旅客ターミナルビル


東京国際空港西側ターミナル施設


 近年、「エクソン・バルディーズ」号の座礁事故、「マースク・ナビゲーター」号の衝突・炎上事故など大型タンカー事故が跡を絶たず、世界的にタンカー輸送に係る安全・環境対策に対する関心が高まっている。IMO(国際海事機関)においても、「1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書」(MARPOL73/78条約)の改正などの取組みがなされ、我が国としても、平成5年3月、タンカーに対する二重構造化等の義務付けを内容とする所要の国内法整備を行い、条約改正の発効にあわせて5年7月から施行した。
 さらに、運輸省では、5年1月の「マースク・ナビゲータ−」号の事故以来、タンカー輸送に係る対策の一層の充実を図るため、@5年2月、アセアン海域における油防除対策(OSPAR計画)の前倒し実施を決定し、A5年3月及び4月、外国籍のタンカー等に対する集中的なポートステートコントロール(寄港国による監督)を実施したほか、B5年2月から「タンカー輸送の安全対策に関する懇談会」等において総合的な対策を検討するとともに、IMOに対してタンカーの安全対策の強化を働きかけるなどの積極的な貢献を行っている。

衝突炎上するタンカー「マースク・ナビゲーター」


建造中の「高峰丸」(日本籍初の二重構造化タンカー)


 気象庁では、北西太平洋の洋上大気及び海水中の温室効果気体濃度を海洋気象観測船「凌風丸」により観測し、その解析結果から平成5年3月、大気中の二酸化炭素が冬には海洋に吸収され、夏には逆に海洋から大気中に放出されること等、海洋の果たす役割を明らかにした。なお、6年1月には、気候変動の鍵を握ると見られる炭素循環の解明を目的として、北西太平洋域における海水中の有機炭素、有機窒素の観測を開始する。
 海上保安庁では、地球温暖化に係る諸現象を解明するため、海況変動及び海面水位変動の監視を引き続き行うほか、5年度から新たに二酸化炭素等のデータ項目の処理を日本海洋データセンターにおいて開始した。
 また気象庁は、5年3月には南鳥島に大気バックグランド汚染観測網の基準観測所を設立して、大気中の二酸化炭素濃度の観測を開始し、5年度にはオゾン、メタン及び一酸化炭素の観測を開始する。
 南極上空のオゾン観測では、この4年間は連続して最大級のオゾンホールが観測されている。特に4年9月下旬には過去最大の規模となった。

洋上大気中と表面海水中の二酸化炭素の濃度(分圧)差(凌風丸による)

南半球平均オゾン全景分布(平成4年9月)

 


 近年、国際的な保護主義、地域主義的な動きの強まりの中で、我が国にとっては、輸入を促進し、我が国経済が国際経済との協調ある発展を遂げていくことが必要となっている。そのため、平成4年7月、輸入・対内投資法が施行され、同法に基づく地域輸入促進計画として、5年3月に大阪府、大阪市、神戸市、愛媛県、北九州市及び長崎県の計画が運輸大臣、通商産業大臣等の主務大臣により承認された。今後、承認された計画に基づく輸入促進地域(フォーリン・アクセス・ゾーン:FAZ)の物流施設等の整備により、輸入貨物の円滑な流通が確保され、輸入の促進に寄与することが期待される。

FAZイメージ図


 最近の利用者ニーズの多様化、労働力の確保難等タクシー事業を取り巻く状況の変化や、4年6月の臨時行政改革推進審議会答申の指摘を踏まえ、運輸政策審議会では、運輸大臣の諮問を受けて、4年9月から今後のタクシー事業のあり方について審議を行ってきた。そして、5年5月11日に、タクシー事業の発展を支える良質な労働力の確保、ニーズの多様化に対応するための需給調整の運用の緩和、運賃料金の多様化等を内容とする答申が出された。
 運輸省では、本答申を最大限尊重し、その実施に向けて努力していくこととしている。

タクシーを待つ乗客


 「成田空港問題シンポジウム」は、関係者が初めて一堂に会し、成田空港問題の原因を探り、その解決の道を模索しようとするものであり、隅谷三喜男東京大学名誉教授を中心に4名の学識経験者(隅谷調査団)を進行・調整役として、平成3年11月から開催され、本年5月(最終回)には、越智前運輸大臣も出席する中で反対同盟から示された問題解決のための3つの提案に対する隅谷調査団の所見が示された。運輸省としては、反対同盟提案の趣旨が、平和的に話し合いにより解決する状況を作り出すことにあると理解できたことから、所見に従って提案をすべて受け入れ、問題解決を目指すこととした。
 この結論を受けて、空港と地域との共生の道を話し合うための「成田空港問題円卓会議」が、今年9月から伊藤運輸大臣の出席の下で開催されている。今後は、この場等を通じて、新東京国際空港の整備についての地域のコンセンサスを得るための努力を尽くし、その実現に全力を傾けていくこととしている。

第15回成田空港問題シンポジウム


 日米両国の運輸分野における協力関係を促進するため、平成5年5月27日ワシントンにおいて、(財)運輸経済研究センターの主催による第1回日米運輸協力コンファレンスが開催された。このコンファレンスは4月の日米首脳会談で合意された運輸技術に関する日米協力の実現への第一歩としての意義を持つもので、両国の政府機関・議会・企業の代表約200名の聴衆を前に、高速鉄道をテーマとして運輸当局者・学識経験者による講演が行われた。席上日本側より、高速鉄道等の運輸技術に関する協力を提案、折しも米政権が米国経済の再生のため交通インフラの整備に注目していただけに大いに関心を呼んだ(現在、日米間で運輸技術協力に関する枠組みについて鋭意調整を行っており、当該枠組みの合意後、日米の運輸技術専門家による会合を開催することとしている)。

日米運輸協力コンファレンス


 近年、自動車を取り巻く環境は、自動車の性能向上、構造・装置の高度化、さらには、自動車の使用形態の多様化等大きく変化している。
 このような情勢を鑑み運輸技術審議会において技術的・専門的見地から自動車の検査及び点検整備について検討を進めてきた。
 その結果、平成5年6月に自家用自動車等の定期点検項目の大幅な簡素化、整備料金・整備内容の適正化等を内容とする「今後の自動車の検査及び点検整備のあり方について」の答申が出されたことから、今後はこれを踏まえ、必要な対策を計画的に推進することとしている。

自動車の検査風景


 運輸省は帝都高速度交通営団に対し、11号線(半蔵門線)の延伸部分(水天宮前〜押上間)について、平成5年6月23日に事業免許を付与した。
 首都圏の東部は、近年、人口の増加が著しいにもかかわらず、鉄道の整備が遅れていることもあって、鉄道の混雑率が250%を超える線区があるなど、全国でも特に混雑の激しい地域となっている。
 11号線が、押上まで延伸され東武伊勢崎線と相互直通化されることにより、これへの旅客流動のシフトが予想され、この地域における主要な乗換駅である北千住駅並びにJR常磐線及び営団千代田線の混雑が緩和されることが期待される。

北千住駅の混雑状況


 近年、海外において日本人旅行者や国際交流等を目的とした短期留学が増加する一方で、凶悪な事件等に巻き込まれる被害者も急増していることに鑑み、日本人海外旅行者及び短期留学生向けに、危険を知らせる英語表現を盛り込んだ安全対策啓蒙パンフレット「知っておきたい安全な旅のための用語集」を作成し、全国の旅行業者等を通じて海外旅行者に対し無料配布した。

安全対策啓蒙パンフレット


 米国は、ハワイ及び国外で運用しているロランCの廃止を公表したが、ロランCは、電波により船舶の位置を測定するシステムとして、有効範囲も広く、精度も高いことから、多数の船舶に利用されており、海上保安庁では、我が国の利用者の強い要望等を踏まえ、引継ぎ運用することとなり、所要の整備を行ってきたところ、5年7月1日から北西太平洋ロランCチェーンの段階的な引継ぎ運用を開始した。
 また、操業漁船が多く、潮流が強いうえ、1日当たり約1,400隻の船舶が往来する国内で最も船舶交通量の多い狭水道である明石海峡において、同海峡を航行する船舶の安全を確保するため、航路情報等の情報提供と海上交通安全法に基づく航行管制を一元的かつ効率的に行う大阪湾海上交通センターを設置し、5年7月1日から業務を開始した。

十勝太ロランC局


大阪湾海上交通センター


 平成5年7月12日22時17分頃、マグニチュード7.8の地震が発生し、気象庁では、迅速に津波警報を発表するなど、警戒を呼びかけた。しかし、奥尻島などでは地震直後に大きな津波が来襲し、死者・行方不明者231人をはじめとする甚大な被害が生じた。このため、海上保安庁では捜索・救助活動、救援物資、人員の緊急輸送等を実施し、また、気象庁及び海上保安庁においては、地震観測体制の強化を図った。一方、港湾、空港、鉄道等にも被害が発生し、その迅速な復旧に努めた。
 5年7月31日から8月7日にかけて九州・中国地方を中心に大雨が降り、大きな被害が発生した。これに対し、気象庁では適時、警報等を発表し、厳重な警戒を呼びかけ、また、海上保安庁では、海岸で孤立した被災者の救出等の救援活動を実施した。一方、土砂崩れ等により日豊本線等が長期にわたり不通となる等、鉄道にも甚大な被害が発生した。

奥尻島青苗地区の被害状況


JR九州竜ヶ水駅の被害状況


 四面を海に囲まれた我が国は、海上交通や漁業等を通じ産業、文化等の様々な生活の分野で海と深く関わり、その恵みを受けてきている。
 このような海の重要性について、広く理解と認識を深めてもらうことを目的とする「海の記念日」(7月20日)は平成5年で第53回を迎え、「海の旬間」(7月20日〜7月31日)においては、全国各地で講演会、体験乗船、海洋関係施設の一般公開など海に関する様々な行事が盛大に行われた。
 また、海への理解を一層深めるために開催されている「海の祭典」についても、第8回である今年は、北海道小樽市において開催され、記念式典、「海」をテーマとしたシンポジウムの開催、親子体験クルーズ、練習帆船「日本丸」の船内見学会、海と港に親しむコーナーを設けた「まりんフェスティバル」など多彩な行事が繰り広げられ、多数の人々 が参加した。

帆船「海星」でのセールトレーニング


客船「飛鳥」の一般公開(小樽港)


 大都市圏の通勤混雑は、鉄道輸送力増強の努力にもかかわらず、通勤者数の大幅な増加のため依然として厳しい状況にある。また、通勤の長時間化・長距離化が、通勤者の不満をさらに増幅させている。
 通勤混雑対策として、鉄道整備とあわせて時差通勤を強力に促進する必要があるため、労働省と連携し、学識経験者、労使代表、関係省庁、地方公共団体、交通事業者等をメンバーとした快適通勤推進協議会を設け、時差通勤の具体的実施に向けて政府全体で取り組むこととし、その第1回会合が平成5年9月9日に開催された。
 第1回快適通勤推進協議会において、ターミナルごとに混雑事情が異なることから地域ごとの具体的対応が必要である等の意見が出されており、今後はこのような意見を踏まえ、地域部会を設けてきめ細かな働きかけを行うこととしている。

快適通勤推進協議会において挨拶する運輸大臣


 平成5年10月26日、JR株式の中で初めて、JR東日本株式が東京証券取引所等に上場された。
 JR株式の売却・上場は、JR各社の完全民営化という国鉄改革の趣旨を達成するためにも、また、日本国有鉄道清算事業団の巨額の長期債務の早期償還を図るためにも必要なものであり、当初は平成3年度から実施する方針であったが、証券市場の状況やその活性化の観点から2年間実施が見送られていた。
 今回のJR東日本株式の売却・上場に対する国民の関心は高く、株式購入希望者は入札・売出分共に多数に上り、上場を前に120万人を超える民間株主が誕生することとなった。
 昭和62年4月1日にJR各社が発足してから7年目にして、その中から株式を上場する会社が登場したことで、国鉄改革は総仕上げに向けて新たな段階に入った。

JR東京駅


株券



平成5年度

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