平成6年度 運輸白書

第2章 国際社会の変化が進む中での運輸の分野における諸問題
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第2節 国際物流に係る諸問題 |
1 国際港湾に係る諸問題
2 国際物流拠点としての国際空港に係る諸問題
3 国内輸送を含めたトータルとしての物流システムの効率化
4 我が国外航海運企業に係る諸問題
- 1 国際港湾に係る諸問題
- (1) 物流構造の変化に対応した外貿コンテナターミナルの整備
- 国際海上貨物については、コンテナ化が著しく進展しており、特に、最近では、輸入コンテナが目立った伸びを示している。また、各船社では、コンテナ船の大型化を進めている。このため、港湾においては、こうした物流構造の変化に対応した施設整備が大きな課題となっている。
- (ア) 輸入コンテナ貨物の増大への対応
- 我が国の外貿コンテナターミナルは、主として、輸出コンテナ貨物を対象として整備されてきたため、面積が狭くなっている。
輸入コンテナ貨物は、ターミナル地区における滞留期間が長く、また、ターミナル内で流通加工や在庫管理等が行われることから、その急増に伴い、従来型の外貿ターミナルでは、コンテナヤードの不足、流通関連施設の逼迫、さらには、コンテナの多段積保管に伴う荷役効率の著しい低下等の問題が顕在化している。
- (イ) コンテナ船の大型化への対応
- 近年、コンテナ船については、急速な大型化が進んでおり、北米航路、欧州航路等の基幹航路には、コンテナ最大積載個数が4,000TEUを超える6万トン級のコンテナ船も就航するようになっている。
このため、世界の主要港湾では、岸壁水深の主流が−10m〜−12mから−14m〜−15mへとシフトしつつあるが、我が国としても、大型コンテナ船の寄港に支障が生じないよう、大水深のコンテナターミナルの整備を進めることが必要である。
また、船型の大型化に伴い、1船当たりの荷役量も増大するため、高能率の大型ガントリー・クレーンの整備やコンテナ・ヤードの拡張も必要である。
- (2) ソフト面でのサービス水準
- 我が国主要港の港湾料金は、人件費、土地代を始めとする諸経費が割高である上に、さらに、近年の円高の影響もあって、諸外国の主要港に比べて高水準となっている〔1−2−14図〕。
また、コンテナターミナルの荷役時間について、世界の主要港湾では、24時間365日荷役が一般化しているのに対し、我が国の主要港湾では、日曜日の荷役が全面的に、または、ー部休止されたり、あるいは、平日の荷役時間が制限されているところが多くなっている。さらに、ゲートの開門時間の制約や荷主側のスケジュール上の都合等によって、コンテナターミナルへの搬出入時間が集中することから、ターミナル周辺での臨港道路混雑が生じ、全体としての物流効率の低下を招いている〔1−2−15表〕。
- (3) 我が国港湾の国際競争力の低下
- 近年、近隣アジア諸国においては、急速な経済発展に伴い貨物需要が増加する中で国際港湾の整備が進んでいる。
特に、シンガポール港、ホンコン港、高雄港等は、国際コンテナターミナル等の港湾施設が充実している上、サービス水準も高くなっていることから(通年フルタイムの稼働、低廉な港湾料金)、地理的な優位性を活かしてASEANや中国のハブ港湾として機能しているが、近年では我が国発着の貨物の中でも、我が国の主要港湾を経由せず、これらの港湾を経由して欧米に輸出され、また欧米から輸入される貨物がみられるようになっている。
さらに、近隣アジア諸国の港湾では、ハブ機能の一層の拡充をめざして、より大規模なコンテナターミナルの整備が進められている。〔1−2−16表〕。
このため、我が国港湾のハード・ソフト面でのサービス水準の改善が進まない場合には、我が国港湾への本船の寄港が減少し、結果として、我が国をめぐる円滑な国際物流の確保にとって阻害要因となることも懸念されている。
- 2 国際物流拠点としての国際空港に係る諸問題
- (1) 国際航空貨物増加に対応した空港における貨物取扱施設の整備
- 第1章でみたとおり、国際航空貨物の取扱量は大きく増加しており、特に、輸入貨物が輸出貨物を大きく上回る伸びを示している。
我が国発着の国際航空貨物は、その8割以上が成田空港に集中しているが、特に、最近では、急激な円高のため、輸入貨物の取扱量が増加していることもあり、激しい混雑状況が続いている。また、荷主や物流事業者の間では、貨物取扱施設の逼迫に対する不満が高まっている〔1−2−17図〕。
国際航空貨物については、今後も、輸入貨物を中心に増加が見込まれるが、こうした中で、利用者の利便性に配慮しつつ、その円滑な処理を図っていくためには、輸入貨物上屋を中心に成田空港の貨物取扱施設をより一層拡充させていくことが重要である。また、同空港へのー極集中の状態を改善するため、関西国際空港等の活用を図っていくことも重要である。
このほか、成田空港については、成田・原木の通関ニ元体制に伴う時間のロスや貨物取扱施設の使用料の高さ等ソフト面での不満も多くなっており、これらの問題への対応も重要となっている〔1−2−17図〕。
- (2) ソフト面でのサービス水準
- 我が国の主要空港の国際線に係る空港使用料は、空港建設費が高いこと等により、諸外国に比べて高い水準にあり、最近の円高傾向が、このことに拍車をかけている。
また、世界の主要国際空港では、24時間運用化が次第に進みつつある中で、我が国の主要空港の運用時間は、環境対策上の配慮から制約が加えられてきた。
こうした中で、我が国においても、6年9月に開港した関西国際空港については、24時間運用が可能であり、今後は、その活用が大いに期待されるところである。
- 3 国内輸送を含めたトータルとしての物流システムの効率化
- 国際物流の円滑化のためには、国際輸送に係る部分だけではなく、国内輸送に係る部分を含めたトータルとしての物流システムの効率化、コストの低廉化を図ることが大きな課題である。
- (1) 港湾、空港へのアクセスの改善
- 国際物流の円滑化のためには、港湾、空港といった国際物流基盤におけるハード・ソフト面でのサービス水準の改善に加えて、これらと国内の生産地や消費地とを結ぶアクセス施設の整備が不可欠である。このため、十分なアクセスを確保することができるよう空港、港湾の整備計画とアクセス施設の整備計画をー体的に整合させて推進していくことが必要である。
- (2) 国内物流コストの低廉化
- 我が国の国内物流コストは、物価水準の格差や輸送取引実態の違い等から、必ずしも単純に比較することはできないが、米国等と比べると相対的に割高となっているとの指摘がある。
こうした物流コストの内外価格差は、高水準の物流関連施設の使用料、超大型トレーラーの導入の制約、コスト負担や荷物の積込み、積卸しに係る商慣習の違いが主たる要因と考えられるが、物流に係る規制が物流の効率化を妨げ、コスト・アップに影響しているとの指摘もー部ではなされている。
このため、物流のより一層の効率化を図る観点から、物流関連社会資本の整備や取引慣行の改善を行うとともに運輸行政の基本である安全性の確保や運輸企業のほとんどを占めている中小企業の経営基盤の安定化にも十分配慮しつつ、適宜、規制の見直しを進めていくことが必要である。
- (3) 情報化の推進
- 情報化の推進により、貨物関連業務の効率化、省力化、所要時間の短縮化を図ることも極めて重要である。
我が国の主要港湾では、シップネッツやS.C.ネット(参照)等が、すでに稼働しているが、その利用はー部に限られている。また、その他の貨物関連業務用のオンラインシステムとの連携も検討中の段階であり、米国やシンガポールと比較した場合には、必ずしも情報化が十分に進んでいるとはいいがたい状態にある。
- 4 我が国外航海運企業に係る諸問題
- 外航海運は、諸外国との国際物流の活発化に大きく寄与してきたところである。特に、我が国外航海運企業が、その運航を担う日本商船隊は、良質で安定したサービスの提供を通じて、国際物流について極めて重要な役割を果たしてきている。しかし、円高の進行やアジア船社の台頭によって、近年我が国外航海運企業の経営は、大変厳しい状況に置かれており、こうした中で日本商船隊についても、その中核と位置付けられている日本籍船が減少するなど、構造変化がみられる。
- (1) 厳しさを増す経営状況
- (ア) 円高による収益の悪化
- 我が国外航海運企業は、営業収入のドル建比率が大きく、かつ、営業費用のドル建比率を上回っていることから、円高となった場合には、為替変動による利益の目減りが発生する収支構造となっている〔1−2−18図〕。このため、平成5年来の急激な円高によって、我が国外航海運企業は、大きな影響を受け、再び厳しい経営環境に直面している。特に、今回の円高は、昭和60年のプラザ合意後の円高に対応すべく様々な対策を講じた後であるため、各企業とも追加的対策の余地が狭められていること、背景となる我が国経済もこのところ回復基調にあるものの、直ちに急速な景気拡大が期待される状況にはないこと、また、生産拠点の海外移転に伴い、我が国発輸出貨物の減少も懸念されること等から、前回の円高時以上に、厳しい状況にあるといえる。
- (イ) アジア船社の台頭等による国際競争の激化
- 近年の経済成長に伴い、アジア発着の貨物量が著しく増加する中で、低コストを背景にアジア船社が著しく台頭している。我が国船社とアジア船社を比較した場合、主として円高の進行により船員費等の運航コストの格差がー段と拡大するー方〔1−2−19図〕、サービス面については、相対的に格差が縮小しつつある。このため、景気の長期低迷を反映して、利用者の低運賃志向が、強まる中で〔1−2−20図〕、我が国船社は、アジア船社との競争上非常に不利な状況に置かれている。
- (ウ) 運賃水準の低迷
- 北米航路や欧州航路のような主要定期航路では、アジア船社の台頭等による国際競争の激化によって、運賃水準が低迷しており、円高の進行による減益とも相俟って、企業経営を圧迫している。このため、主要船社間の話し合いの場として、TSA(太平洋航路安定協定)、EATA(欧州航路安定協定)等が締結され、航路サービスの安定的供給の維持のための努力が行われているが、各企業が投入船舶のリプレースに併せて、大型船舶の建造を進めていることから、船腹過剰が顕在化し、今後、さらに運賃水準が低迷することも懸念される。
また、タンカーやばら積船等の不定期船の分野でも、世界的に船腹過剰感が続いていること等により、総じて海運市況が低迷しており、我が国企業の経営に大きな影響を与えている。
- (2) 日本商船隊の構造変化
- 日本籍船は、国際物流の円滑化に寄与するとともに、安定輸送力、運航技術の保持、日本人船員の安定した職域確保といった観点から、日本商船隊の中核として位置付けられている。しかし、内外船員コスト格差の拡大や円高の進行等によって日本籍船の国際競争力が低下しており、フラッギング・アウト(海外への移籍等による日本籍船の減少)が進展している。また、日本人船員の減少や平均年齢の高齢化も進んでいる〔1−2−21図〕〔1−2−22図〕。

平成6年度

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