2 社会資本整備の効果
(1) 幹線交通
(ア) 幹線鉄道
幹線鉄道については、高速鉄道ネットワークの整備が重要な課題となっており、整備新幹線の整備、在来線と新幹線との直通運転化、スピードアップのための線形の改良等を推進している。その整備効果の一例として、新幹線直通運転化の効果を山形新幹線についてみてみる。
山形新幹線は、奥羽本線の福島〜山形間の軌間(レール間の幅)を新幹線と同じ幅に広げて東北新幹線と直通運転ができるようにしたもので、4年7月に開通した。これにより、東京〜山形間の所要時間は42分短縮され(最も所要時間の短い列車同士での比較)、福島駅での乗換えの不便も解消された。また、車椅子席が設けられたほか、電話コーナー、荷物室、多目的室等が設置されるなど従前に比べて車両の快適性も大きく向上した。
これらにより、8年度には開業前に比べ、輸送人員が約40%増加している。輸送量の増加に対応して、運行本数は当初の14往復から15往復に増加し、1編成の車両数も6両から7両へと増えている〔1−1−21表〕。
一方、東京〜山形間の航空と鉄道の輸送人員の変化をみると、山形新幹線の開業による航空から鉄道への利用者の転移等により、東京〜山形間の航空輸送人員は減少しており〔1−1−22図〕、便数も開業前の1日5便から9年には3便になっている。しかしながら、東京〜山形間の総流動人員は増加しており〔1−1−23表〕、また、山形空港発着の路線として名古屋線が開設されたほか、他地域への旅客数も増加している〔1−1−24図〕など、航空と鉄道のそれぞれの特性が活かされた形での交通ネットワークの整備が実現している。
なお、JR東日本では、地元からの支援を得て、山形から新庄への延伸を行うこととし、9年5月、工事に着手した。
(イ) 国内航空
国内航空ネットワークが集中する東京圏及び大阪圏については、空港の発着容量に制約があり、需要の増加に応えられない状況にあったことから、関西国際空港の開港及び東京国際空港(羽田)の沖合展開事業を最優先課題として整備を推進してきた。その整備効果の一例として、東京国際空港の沖合展開事業についてみてみる。
さらに、あわせて、空港の利便性を向上させるアクセス鉄道の整備についてみてみる。
(東京国際空港の沖合展開)
東京国際空港の新C滑走路は、9年3月に供用を開始した。これにより、我が国の航空ネットワークの要である東京国際空港において、1日40便の増便が可能になったことから、これを機に新たに定期航空運送事業を営もうという動きも生じている。
新C滑走路の供用開始とともに新しく増える40便については、航空局長の私的懇談会として「羽田空港の新規発着枠配分基準懇談会」を設け、8年11月より、公開の場で有識者の方々にその配分基準について検討していただいた。その結果、同懇談会の報告書〔1−1−25表〕も踏まえて、9年3月に新規会社用の枠を6便分設定するとともに、既存事業者に、自由枠として28便分、政策枠として6便分を設定した。9年7月には、40便のうち20便分が航空各社により新規路線の設定及び増便に活用され、女満別、高知への路線がトリプルトラック化された。10年4月には残りの20便が増便等に活用される予定となっている。
加えて、新C滑走路は、従来のC滑走路よりも沖合に建設されているため、騒音問題が生じるおそれが少ないことから、従来午前6時から午後11時までに飛行時間が事実上限定されていたのに対し、24時間の運航が可能になった。これに対応して、9年7月より深夜・早朝便も運航されるようになった。
(空港への鉄道の乗り入れ)
空港へのアクセスとして鉄道を利用することは、定時性・速達性に優れ、航空利用者にとって利便性が高い。このため、最近、空港への鉄道の乗り入れを行うことによって、アクセスを確保する事例が増えている〔1−1−26表〕。
このような空港への鉄道の乗り入れによって、空港利用者のアクセス交通手段がどのように変わったかについて、福岡空港についてみてみると、地下鉄の空港への乗り入れによって、福岡市中心部から空港までは約10分で結ばれることになり、その結果、バスやタクシーから地下鉄利用への転移により、半数近くの空港利用者が鉄道を利用するようになっている〔1−1−27図〕。
(ウ) 高速バス
高速道路整備の進展にあわせて、高速バスネットワークが充実強化され、所要時間の短縮等利用者の利便の向上が図られてきた。近年、高速道路整備の顕著な進捗がみられた九州地方における高速バスの状況についてみてみる。
九州自動車道の全線開通や大分自動車道のほぼ全線にわたる開通により、福岡〜鹿児島、宮崎、大分等との間の高速バスの所要時間が短縮されるとともに、輸送人員も増加している〔1−1−28表〕。これは、所要時間の短縮のほか、快適性が向上したこと、運行回数が増加して利便性が高くなったことなどによるものと考えられる。
これらの区間について、高速バスと鉄道・航空を比較してみると、〔1−1−29表〕のとおりである。これらの区間では、交通機関相互で競争が激化しており、鉄道のスピードアップ(例えば、福岡〜鹿児島間では10年前に比べて42分短縮)が図られているほか、高速バス及び鉄道の往復割引切符、航空の事前購入割引等それぞれ割安な運賃・料金が提供されている。
(2) 大都市圏交通
東京圏をはじめとする大都市圏の鉄道の通勤・通学時の混雑は、近年の輸送力増強の努力等により緩和傾向にはあるものの、未だ厳しい状況にある。東京圏の大手民鉄5社は、複々線化等の抜本的な輸送力増強を図るため、特定都市鉄道整備積立金制度を活用して大規模な輸送力増強工事を進めている〔1−1−30図〕。その整備効果の一例として、複々線化が進捗している東武鉄道についてみてみる。
東武鉄道伊勢崎線は、竹ノ塚〜越谷間の複々線化及び北千住駅の大規模改良工事が完成したことから、9年3月にダイヤ改正が行われた。この工事完成により、83本(平日、上り下り計)の列車の増発が行われ、最混雑時間における混雑率が183%から168%に改善された。また、朝ラッシュ時間帯の越谷〜北千住間の準急の所要時間が23分から19分に短縮されたほか、北千住駅でのホームの混雑が大幅に緩和されるなどサービスの改善が図られた。
(3) 国際交通
(ア) 空港整備
関西国際空港は6年9月の開港以来約3年を経過した。その間順調に利用者数は増加し、新規路線の開設、便数の増加が続いている。
開港前後の利用者数の変化をみてみると、入国外国人が利用する空港として、新東京・東京国際空港に比べ関西国際空港の利用者数の伸びが大きい〔1−1−31図〕。また、出国日本人数をみても、近畿地方居住者の伸びが大きく〔1−1−32図〕、これまで空港の容量によって制約されていた近畿地方の海外旅行需要が顕在化してきたことがうかがえる。
貨物輸送についても、国際航空貨物を中心に取扱量が大きく増加しており、開港前の5年度(大阪国際空港(伊丹))と比べると、8年度はおよそ2倍に増加している〔1−1−33図〕。また、国際航空貨物取扱量は、世界第17位に位置すると同時に、我が国の国際航空貨物量に占める関西のシェアは着実に増加してきている〔1−1−34図〕。また、近畿、中四国地方に発生・集中する貨物が関西国際空港を利用する割合が増加しており〔1−1−35図〕、成田一極集中の是正が進みつつある。
また、関西国際空港は、国際、国内をつなぐハブ空港として、国内線と国際線の乗り継ぎが容易にできるように設計されており、こうした乗り継ぎ客は8.1%(7年度)で、大阪国際空港のときの5.5%(5年度)、新東京国際空港の6%(7年度)を上回っている。
さらに、関西国際空港は、我が国初の24時間空港であり、9年5月からは深夜・早朝時間帯にタイ国際航空の旅客便が就航を開始するなど、深夜・早朝への乗入れについて促進を図っている。
(イ) 港湾整備
世界のコンテナ貨物量は、アジア地域を中心として増加を続け、我が国の外貿コンテナ貨物量も一貫して増加している〔1−1−36図〕。また、近年、輸送の効率化をめざして大型コンテナ船の就航がアジアと欧州・北米を結ぶ基幹航路に相次いでいる。このような状況のもと、8年4月、神戸港において、大型コンテナ船に対応した水深15mのコンテナターミナル2バースが供用され、現在、東京港、横浜港等の中枢国際港湾でも緊急的に整備が進められている。
また、地方圏で生産・消費されるコンテナ貨物の三大港等への長距離の国内輸送距離を短縮し、物流コストを削減するため、全国8地域の中核国際港湾において、国際海上コンテナターミナルを拠点的に整備している。これらの利用により、物流コストの削減を達成した企業が数多く見られる。