(1) 与党各党等での検討
このような情勢を受けて、8年12月25日の閣議決定で「平成10年度より、国鉄長期債務等の本格的処理を実施する」こと、「このため、その具体的処理方策の検討を進め、平成9年中にその成案を得る」こととされた。併せて、処理方策を検討する間の債務の増加を防止するため、清算事業団の有利子債務の無利子化等により金利負担の軽減を図ることとされた。
これと前後して、国鉄長期債務の処理のための具体的方策の検討が与党内で始まった。自由民主党では8年11月に国鉄長期債務問題特別委員会が設置され、処理方策として考えられる様々な選択肢について検討がなされ9年6月に「国鉄長期債務の本格的な処理に関する検討状況についての中間的な整理」が取りまとめられた。また社会民主党でも9年2月に「国鉄長期債務問題等対策プロジェクト」が設置されて同様に検討を進め、7月に「国鉄長期債務問題等の処理についての社会民主党の考え方(中間整理)」が取りまとめられた。
また政府においては、9年6月3日に閣議決定を行い、国鉄長期債務の処理については「将来世代へ負担を先送りするという形での安易な処理を回避するため、」以下のような「あらゆる方策につき個別具体的に検討を行」うこととされた。
○自主財源による債務償還
○財投資金の繰上償還あるいは金利減免
○相続税軽減等の特典を付けた無利子国債の発行
○歳出全般の大胆な見直し
○交通機関利用者全体の負担
○JRによる負担
○鉄道利用税等の形によるJR利用者の負担
○揮発油税等道路財源の活用
○事業団債務の一般会計への付け替え
○増税による国民負担
(2) 財政構造改革会議での検討
9年9月には、政府・与党で構成される財政構造改革会議において、国鉄長期債務の処理の問題を同会議の企画委員会の場で検討することが決定され、10月から処理方策の検討が始められた。
企画委員会では、関係省庁の説明、有識者の意見、JR各社の意見等を聴取しつつ、具体的な処理方策の検討が精力的に進められた。検討の対象に上がった選択肢のうち主要なものについては、少人数のワーキンググループが設置されて特に精力的な検討が行われた。そしてこれらのワーキンググループの検討結果の報告を受けてさらに議論が重ねられ、12月17日に財政構造改革会議において「国鉄長期債務及び国有林野累積債務の処理のための具体的方策」が決定された。
この決定を受けて、政府では、12月25日に「政府としては、これ(財政構造改革会議決定)に基づき、平成10年度より国鉄長期債務等の処理の実現を図るものとし、このための所要の法律案を次期通常国会に提出する等必要な措置をとることとする」旨の閣議決定を行った。
(3) 関連法令の整備と処理方策の実施
政府はこの処理方策を実施するために、10年2月20日、「日本国有鉄道清算事業団の債務等の処理に関する法律案」(以下「債務等処理法案」という。)及び「一般会計における債務の承継等に伴い必要な財源の確保に係る特別措置に関する法律案」を国会に提出した。
債務等処理法案については衆議院においてJR等の負担額を2分の1とする等の修正が加えられ、両法案は10年10月15日に参議院本会議において可決され、成立した〔2−1−41表、2−1−42表〕。
政府は、法律の施行の日(10年10月22日)に、清算事業団の有利子債務(10年度首15.2兆円)を一般会計において承継する。このうち財政投融資資金による貸付金及び引受債(10年度首計8.1兆円)については、10年度末までに全額償還を行う。
(b) 清算事業団の無利子債務の処理
政府は、法律の公布の日(10年10月19日)に、清算事業団の政府に対する無利子債務(10年度首8.3兆円)を免除する。
(c) 清算事業団の年金等の負担の処理
(d) 鉄道公団は、特例業務として、(c)により負担する年金等の支払、その支払のため清算事業団から承継する残った土地・株式等の資産の処分等の業務を行う。
(e) 清算事業団は、法律の施行の日(10年10月22日)に解散する。
(イ) 「一般会計における債務の承継等に伴い必要な財源の確保に係る特別措置に関する法律」の概要
10年度から14年度まで、郵便貯金特別会計から年間2,000億円を限り、一般会計へ特別繰入れを行う。
(b) たばこ特別税の創設
たばこ特別税を創設し、その収入を国債整理基金特別会計の歳入とする。
こうして、10年10月22日より、国鉄長期債務の処理が実施されることとなり、清算事業団は残った資産、資産処分業務及び年金の支払業務を鉄道公団に引き継ぎ、同日をもって11年6月あまりの歴史に幕を閉じることとなった。
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