(1) 国鉄改革時の見通し
国鉄改革によって清算事業団に残された国鉄長期債務の額は、25.5兆円であった。
この債務の処理については、昭和61年1月28日及び63年1月26日の閣議決定において「土地、株式等の資産の適切かつ効率的な処分を進め、自主財源の増大を図る」こと、「自主財源を充ててもなお残る事業団の債務等については最終的には国において処理する」こと、「その本格的な処理のために必要な『新たな財源・措置』については、雇用対策、土地の処分等の見通しのおおよそつくと考えられる段階で、歳入・歳出の全般的見直しとあわせて検討、決定する」こととされた〔2−1−36図〕。
(2) 清算事業団による資産処分
土地については、公正かつ適正な価格で売却するため、原則として一般競争入札によることとされた。
しかし、国鉄改革当時、地価が急激に高騰しつつあり、地価対策が国家的緊急課題となった。このため、62年10月16日に「緊急土地対策要綱」が閣議決定され、清算事業団用地については「国民負担を軽減すること及び一般競争入札を原則とすることに留意しつつ、当面の地価対策が国家的緊急課題であることに配慮し、現に地価が異常に高騰しつつある地域内の用地の売却」は原則として「その地域の地価の異常な高騰が沈静化するまでこれを見合わせる」こととされた。こうして清算事業団の発足当初より、土地処分が事実上凍結されることとなった。
このような状況の中で土地処分を進めるため、地方公共団体等を対象とした随意契約による処分を促進するとともに、地価を顕在化させない売却方法の導入が図られた。
平成元年6月以降は、地価の高騰が沈静化してきたことを受けて、一般競争入札に付されていた条件が順次撤廃される一方、建物提案方式等の購入者のニーズに合わせた多様な処分方法が取り入れられた。
しかし、バブル経済が崩壊して景気が後退に向かったこと、地価も3年を頂点に下落に転じたこと等から土地市況は低迷し、清算事業団用地の売却は思い通りには進まなかった。
しかしながら、8年度の汐留、品川等に続いて9年度には旧国鉄本社等の大型物件が売却され、主な清算事業団用地についてはほぼ実質的な処分を終えた。
こうして清算事業団は、昭和62年度から平成9年度までの11年間に、土地の総面積約9,200haのうち約84%に当たる約7,800haを売却し、6.5兆円の収入を上げたところである〔2−1−37表〕。
(イ) JR株式等
清算事業団が保有するJR株式については、元年12月19日の閣議決定において、清算事業団の債務の償還及び民営化という国鉄改革の趣旨に沿ってできる限り早期かつ効果的な処分を行うこととされたが、元年末を境に株価が急落し株式市況が低迷したため、当初目標とされた3年度には売却が開始できなかった。4年度にも、準備を進めていたJR東日本株式の売却が、経済対策閣僚会議より出された「総合経済対策」において、見送られることとされた。
しかし5年度に入って株式市況も落ち着いてきたことから、同年10月にJR東日本株式の売却(発行済株式数400万株中250万株)・上場が実現した。続いて準備が進められたJR西日本株式の売却は、株式市況が再び低迷したことに加え、阪神・淡路大震災のため同社の決算が上場基準を達成できなかったこともあり、8年10月に売却(同200万株中137万株)・上場を達成した。翌9年10月にはJR東海株式の売却(同224万株中135万株)・上場が実施された。
こうして清算事業団は、これまでに保有していたJR7社株式919万株のうち本州3社株式522万株を売却し、2.0兆円の収入を上げた〔2−1−38表〕。
また、帝都高速度交通営団への出資持分は、昭和62年度から平成2年度にかけて政府に譲渡され、計1.0兆円の債務の処理に充てられた。
(3) 鉄道共済年金に係る新たな負担
国鉄改革においては、鉄道の経営形態についてはJRは国鉄との連続性を有さずに新たに発足したが、その職員の年金については共済制度を維持・継続することとされた。
しかし鉄道共済は、国鉄時代の昭和50年代以降、国鉄合理化の影響等もあって組合員が減少する一方で受給者は増加し、収支が著しく悪化し、財政的に破綻をきたすことが明白となった。このため鉄道共済では、掛金の引上げ、給付水準の抑制を行う一方で、平成2年度から8年度にわたり、関係事業主である清算事業団は国鉄時代の積立不足分として総額7,000億円の法定特別負担を行うとともに、JR各社は任意に同1,540億円の特別負担を行うこととなった。しかし、これでは年金支払を賄うことができないことから、厚生年金や他の共済組合といった他の被用者年金制度から支援(昭和60年度から平成8年度まで総額9,200億円(9年度決算見込み))を受けてきた。
9年4月、公的年金一元化の一環で、鉄道共済を含む旧3公社の共済組合の年金制度が厚生年金に統合されることとなり、この際、鉄道共済については、その組合員であった者の将来の年金給付の原資として1兆2,100億円を厚生年金に納付することとなった(いわゆる厚生年金移換金)。しかし、鉄道共済において納付可能な積立金が2,700億円にとどまったため、不足額9,400億円を鉄道共済の関係事業主間で負担することとなり、このうち昭和61年度以前の組合員期間を基に按分計算される7,700億円については国鉄の移行体である清算事業団が、62年度以降の組合員期間を基に按分計算される1,700億円についてはJR等が負担することとされた。
(4) 国による財政支援
国は、清算事業団に対して、債務の累増を防止するための様々な財政支援措置を講じた。
62年度から平成9年度まで、清算事業団に対して総額1.6兆円にのぼる国庫補助金を交付した。
また2年度には、清算事業団の保有する帝都高速度交通営団への出資持分の政府に対する一括譲渡と引き替えに当該出資持分の評価額0.9兆円相当の有利子債務を政府が承継することとした。
さらに9年度には、清算事業団の同年度における借入予定額3.0兆円と同額の有利子債務を無利子化した。
なお、国鉄改革直前の昭和61年度末に、5.1兆円の有利子債務が無利子化されている。
(5) 従来のスキームの破綻
以上のように、清算事業団は、62年度から平成9年度までの11年間に、自主財源等によって総額14.4兆円の収入をあげた。しかし、この間の清算事業団の利払い等の支出は総額15.8兆円(注3)にのぼり、収入を1.4兆円上回った。これに9年度首に負った厚生年金移換金負担0.8兆円を加え、62年度首には25.5兆円であった清算事業団の債務は、平成10年度首には27.7兆円に増大した〔2−1−39表、2−1−40表〕。
しかしながら、一方で清算事業団に残る資産は縮小し、清算事業団が資産処分収入等によって毎年の金利及び年金等の負担を賄いつつ債務の償還等を行うという従来のスキームはもはや破綻していると言わざるを得ない状況になった。このため清算事業団の債務の処理方策の策定・早期実施は、国鉄改革の総仕上げのためにも、もはや先送りが許されず避けては通れない緊急課題とされた。
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