(1) 道路交通の安全対策
自動車の安全性の向上に関しては、4年3月の運輸技術審議会答申を踏まえ、これまで種々の対策を行い、8年9月には側面衝突時の安全性の向上等安全基準の拡充強化を行った。
今後も、(財)交通事故総合分析センターの事故調査データの分析結果を活用することにより安全基準の拡充強化を行うとともに、先進安全自動車の開発等事故防止及び被害軽減のための研究開発を推進する。
また、自動車の安全情報の提供等により自動車ユーザーに対し、自動
車の安全性について啓発を図ることとしている。
自動車の検査及び点検整備については、7年7月より施行された道路運送車両法の改正により、自動車ユーザーの保守管理責任の明確化等がされ、また、10年5月27日に公布された同法の改正により、自動車ユーザーが自ら分解整備を実施した場合に義務付けている分解整備検査について、記録簿の記載等を義務付ける等の安全確保のための諸対策を講じた上で、廃止されることになったことから、自動車ユーザーの保守管理意識の高揚対策等所要の措置を講じている。
事業用自動車の安全運行を確保するため、自動車運送事業者に対して営業所ごとに運行管理者を選任させ、日常の運行の安全を管理させるとともに、運行管理者に対して実施する研修の充実を図っている。また、事業用自動車による重大事故の情報を迅速に収集し、事故原因の究明を行うとともに再発防止のための事故警報を発出している。
(2) 鉄軌道交通の安全対策
線路施設については、適切な保守を行うとともにレールの重軌条化等の施設の強化を必要に応じて行っていくよう、また、地下鉄道については、火災が大災害となる危険性があるので、火災対策設備の整備を実施するよう鉄軌道事業者を指導している。
障害者、高齢者等の移動制約者対策については、駅舎等における誘導・警告ブロック等の整備を進めるよう鉄軌道事業者を指導している。
(イ) 鉄軌道の安全な運行の確保
9年度においては、東海道線、弘南線、中央線において、多数の負傷者を生じる列車衝突事故が発生した〔2−11−2表〕。運輸省は、これらの事故について早期の原因究明を図るため事故後直ちに担当官を現地に派遣する等により事故の調査を行った。これらの事故はいずれも担当職員による基本的な取扱いが行われなかったことに起因しており、ひとつ間違えばさらに甚大な被害を生じるおそれがあったことから、運輸大臣より直接全鉄軌道事業者の代表者に対し、担当職員による基本的動作の励行の徹底についての緊急指示を行った。さらに、これを受け運輸省とJR各社等で構成する「鉄道保安連絡会議」を開催し、運輸大臣の緊急指示に対する各社の取り組み状況について検討を行ったほか、年末年始の輸送等に関する安全総点検の機会に、その実施状況について現地調査を行い同種事故の再発防止に向けて更なる指導の強化を図った。
また、鉄道係員の作業時における事故及び降雪や大雨等自然災害による輸送障害等も相次いだことに鑑み、作業時における事故については、建設工事・保守作業等における安全確保と安全対策の徹底を図るべく、また、輸送障害等については安全確保を前提としつつ、利用者への影響を最小限に抑えるべく、鉄道事業者に対し文書による指導を行うとともに、関係者による会議を開催するなど、再発防止に向けて、きめ細かな指導を行った。
(b) 鉄道事故等の防止に向けた施策
鉄軌道運転事故は、列車の高速化・高密度化が進むなかで、安全対策を着実に実施してきた結果、長期的に減少する傾向にあるが〔2−11−1図〕、鉄軌道における運転事故は、一度事故が発生すると多数の負傷者を生じるおそれがあることから、運輸省は、鉄軌道における運転事故等の防止を図るため、引き続き(1)鉄道係員の教育、訓練等の充実、(2)動力車操縦者運転免許制度による運転士の資質の維持、(3)移動制約者の安全に配慮した施設及び車両の整備、(4)災害防止のための線路防護施設の整備、(5)ATS、列車無線等の整備等の対策を講じるとともに、定期的に行う保安監査等により運転の安全確保を図っている。
さらに、運転事故等発生の際には、鉄軌道事業者に対して適切かつ迅速に原因究明を行うよう指導し、必要に応じ、運輸省が自ら原因究明にあたるとともに特別保安監査を実施している。これらの結果については行政施策に反映させている。また、事故防止に関する情報交換等のため、「鉄道保安連絡会議」を定期的に開催し、安全対策の推進に努めている。
(ウ) 鉄軌道車両の安全性の確保
車両については、車両確認等により、技術上の基準への適合性を確認するとともに、車両故障防止のための、老朽車両の更新、新しい検査方法の導入等事例に応じた対策を鉄軌道事業者に指導している。また、移動制約者の安全に配慮した車両の整備についても指導しており、最近では、視覚障害者の車両間への転落防止対策について指導を行っている。
(エ) 踏切道における交通の安全に関する施策
運転事故の約半分を占める踏切事故防止のため、踏切道改良促進法及び第6次踏切事故防止総合対策(8〜12年度)に基づき、引き続き踏切道の立体交差化、構造の改良、踏切保安設備の整備等を計画的に推進している。9年度には、立体交差化112箇所、構造改良261箇所、保安設備整備212箇所の改良が行われた。
保安設備の整備については、一定の要件を満たす鉄道事業者に対して整備費の一部を補助している。
(3) 海上交通の安全対策
9年度には、港湾内の船舶航行の安全性を確保するため、宮崎港等64港で、防波堤等の整備を行った。また、沿岸域を航行する船舶の安全性を確保するため、下田港等10港の避難港を整備するとともに、関門航路等16航路の開発保全航路の整備を行った。
また、8年12月に策定した「港湾における大規模地震対策施設整備の基本方針」等に基づき千葉港等44港で耐震強化岸壁の整備、新潟港等64港で防災拠点の整備を行ったほか、東京港等26港において既存施設の耐震性の強化を実施した。
(b) 海上交通の安全対策
海上保安庁では、船舶の安全かつ能率的な運航を確保するため、10年度に北海道沿岸海域等におけるディファレンシャルGPSの整備を実施し、その有効範囲を小笠原諸島等の一部の遠方離島海域を除く我が国沿岸全域に拡大するほか、紙海図等の水路図誌の整備、航海用電子海図の整備及び最新維持情報の提供を進める。
(イ) 船舶の安全な運航の確保
改正STCW条約が9年2月に発効したことを受けて、10年5月に船舶職員法が改正され、航海士の無線資格の義務化等が規定されたところであり、引き続き関係法令の整備を推進することとしている。
また、時代のニーズに即した船員を確保する必要から、教育内容の見直しを図るなどその教育体制の一層の整備充実を推進する。
(b) 船舶の運航管理の適正化
運航管理については、事業者に対し、運航管理規程の遵守、安全意識の高揚等により運航管理体制の一層の充実及び適正化を図るよう指導している。特に旅客船については、運航監理官による乗船監査・事業所監査、運航管理者研修等を実施することにより、運航管理制度の徹底を図っている。
(c) 国際安全管理コードへの対応
大型船舶の海難の増加等を背景として、SOLAS条約が改正され、船舶及びその管理会社の総合的な安全管理体制を確立するための国際安全管理コード(ISMコード)が10年7月から強制化され、同コードの適正な確保を図っている。
(d) 海難審判による原因の究明
海難審判庁は、海難の発生防止に寄与するため、迅速かつ的確な海難原因の究明に努めている。9年には、パナマ船籍の大型油送船ダイヤモンドグレースが、東京湾中ノ瀬西側海域を航行中に浅所に乗り揚げ、原油約1,400トンを流出した事件(9年7月発生、同12月裁決言渡)をはじめとする762件の裁決を言渡した。
(e) 航行安全対策
海上保安庁は、海上交通関係法令の遵守を励行するとともに、船舶の種類毎に所要の安全対策を行っている。また、海上における大規模プロジェクトについて、その関係者に対し必要に応じて安全確保のための指導等を実施している。
(ウ) 船舶の安全性の確保
IMOにおける船舶の防火構造、救命設備、危険物海上輸送等に関する国際条約等の改正を受けて、これを国内法令に取り入れるとともに、造船技術の進展等を踏まえた基準認証制度の合理化に取り組んでいる。
また、船員法に基づき、船員労務官による監査等を通じ、発航前検査の励行、操練、航海当直等の実施の徹底について指導監督を行っている。
(エ) 外国船舶の監督の推進
近年、条約の基準に適合しない船舶の排除が国際的課題となっており、我が国では、外国船舶の監督を積極的に実施するため、外国船舶監督官を各地方運輸局等17官署に合計52名を配置している。
(オ) 小型船舶安全対策
増大するプレジャーボート需要を背景に、船舶航行の支障や、安全管理の不十分さに起因する事故や遭難などさまざまな安全上の問題を引き起こす放置艇が顕在化している。こうした放置艇を解消するため、既存の静穏水域を活用した簡易な係留施設(ボートパーク)の整備を9年度より推進している(9年度7港)。このほか、ボートパークが有していない安全情報提供機能、修理機能、ビジター艇の一時係留機能等のプレジャーボートの安全航行上不可欠な機能を提供するため、公共マリーナの整備を推進している(9年度21港)。さらに、国際標準化機構(ISO)におけるプレジャーボートの技術基準策定作業に積極的に参加するとともに、同技術基準と国内技術基準との整合化について検討を行っている。
また、10年5月の船舶職員法の改正により五級小型船舶操縦士の資格が創設されたことに伴い、小型船舶操縦士免許取得者に対するルール・マナーに関する教育・啓蒙を更に充実させていく。
(カ) 海上捜索救助体制等の整備
海上保安庁では、SAR条約等に基づく我が国の捜索救助区域内での海難等に迅速かつ的確に対応するため、従来からしょう戒体制を確保するとともに特殊救難体制の整備及び船位通報制度の運用等を行っている。さらに、民間救助組織の育成・強化にも努めている。
(4) 航空交通の安全対策
今後予想される航空交通の増大、多様化等のニーズに適切に対応するため、次世代の航空保安システムの整備を進める。これまで航空管制衛星(MTSAT)システム、航空衛星センター(神戸、茨城)等の整備を推進している。また、現行の航空保安システムについても航空路監視レーダー(ARSR、ORSR)等の整備を引き続き行っている。
(b) 航空交通管制に関わる空域の整備等
我が国の上空は航空交通の増加による空の過密化が進み、特に特定空域における航空機の過密な集中を避けるための方策として、広域航法等の導入により分散化を図っているところである。
今後、自衛隊等の訓練/試験空域等を含む空域及び航空路等の再編成及び効率的な運航を可能とする空域の管理体制の整備を行い、空域の有効活用を図る必要がある。
(イ) 航空気象施設の整備及び情報提供体制の充実
気象庁は、10年7月の大館能代・佐賀両空港の開港に先立ち、同年1月に秋田地方気象台大館能代空港出張所、佐賀地方気象台佐賀空港出張所を設置し、施設の整備を行うとともに業務開始に向け万全を図った。また、航空路火山灰情報センターにおいて航空路における火山灰の拡散予測を実施し、情報を高度化すべく準備を進めている。
(ウ) 航空機の安全な運航の確保
航空運送事業者に対しては、その事業内容に応じ、運航管理の実施方法、航空機の運用方法等について運航規程に定めるよう義務付けし、これを審査した上で認可している。その遵守状況については、安全性確認検査等により確認し、必要に応じて改善措置を講じるよう指導している。
(b) 乗員の養成
航空大学校の教育内容の一層の充実に努めるとともに、航空運送事業者が行う乗員の養成についても所要の指導を行っている。
(c) 航空保安大学校の充実
航空保安大学校本校においては、航空路管制実習装置の更新整備を、また、同岩沼分校においては、航空保安訓練支援装置の更新整備等を10年度に進めることとしている。
(d) 航空保安対策
ハイジャックや航空機爆破等の不法行為を防止するため、防止対策についての検討及び保安検査を実施する航空運送事業者に対する指導等を行っており、今後も、ICAO等における動向等を踏まえ、積極的に航空保安対策を推進する。
(エ) 航空機の安全性の確保
航空機技術の進展に対応して、航空機及び装備品の安全性に関する技術基準の策定や技術情報の収集・分析・提供を行うとともに、航空機検査体制・整備審査体制の充実を図ることとしている。また、航空運送事業者に対し、機体の経年化対策の観点も踏まえた航空機の点検及び整備、品質監査制度を含めた品質管理、外部委託管理の充実等を引き続き行うよう指導監督していく。
(オ) 緊急時における捜索救難体制の整備
関係省庁間の協定に基づく救難調整本部(RCC)における施設及び機能の充実を図ることとしている。また、捜索救難に必要な連絡調整について、関係機関が随時必要な協議を行うとともに、合同訓練を定期的に行い、捜索救難体制の充実強化を図っている。
(カ) 消防体制及び救急医療業務実施体制の整備
大型化学消防車等の計画的な配備と性能向上を図るとともに、大規模航空機火災消火訓練施設を長崎空港に整備する。また、空港保安防災課等(新千歳空港・長崎)を新設し、消火救難・救急医療体制の一層の充実強化に取り組んで行く。
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