以上の施策の結果、都市交通問題は少なからず改善してきているが、社会の成熟化や国民の豊かさ志向等を踏まえた場合、解決すべき点は多く、さらに対策の拡充強化が必要である。
1 通勤・通学混雑の状況
都市鉄道に係る各種施設の整備等の成果として大都市圏の通勤通学混雑の状況は年々改善されてきているものの、東京などの大都市では、個別路線で200%を超える路線があり、また、東京圏全体の平均混雑率も183%(平成10年)となっており、依然として快適とはいえない状況であるため、さらなる改善が必要である。
2 道路交通渋滞の状況
バブル経済期以降の都市圏の渋滞状況を自動車の平均走行速度の推移でみると、全国平均や地方都市部、あるいは東京23区も含めて、自動車保有台数のさらなる増加や都市化の進展を反映して下がってきている。最近に至り、景気の低迷、道路整備の進展により若干改善傾向がみられるものの、引き続き渋滞緩和に資する各種施策を推進する必要がある。
運輸省、警察庁等による交通事故防止施策の結果、ここ数年交通事故による死者数は減少傾向にあるものの、依然1万人前後に上っている。また、事故件数及び負傷者数は近年一貫して増加傾向にあり、10年間でそれぞれ約1.3倍に増加した。さらに、近年の自動車保険(共済)の人身損害に係る支払い実績は、年間約1兆5千億円に上るなど、交通事故をめぐる現状は極めて深刻である。
このため、様々な角度からの自動車交通安全対策や交通事故被害者救済対策の充実が必要となっている。
4 大気汚染・騒音の状況
自動車単体からの汚染物質の排出量は単体規制によって低減しているが、自動車交通量の増加のため、大都市地域を中心とする窒素酸化物(NOx)、浮遊粒子状物質(SPM)等による大気汚染の状況は依然深刻であり、一層の低減対策が必要となっている。
また、自動車騒音についても大都市地域等を中心に環境基準を達成していない地点も多く、一層の施策の推進が必要である。
豊かさやゆとりを志向するなど国民の価値観の多様化・高度化が進んでおり、都市交通における乗り継ぎの円滑化など質的な観点からも対策を講じていく必要がある。
都市部においても、バス事業経営に見られるように交通事業者の経営状況は厳しい。しかしながら、公共交通機関に生活の基盤を負っている高齢者、学生等の利用者は数多く、今後とも公共交通機関にあっては、健全経営の下で、良質で安定的なサービスを提供していくことが必要である。
(ア)都市バスの場合、事業経営の困難な状況は、公営交通事業において顕著である(10年度の公営バス事業者(保有車両30両以上の32事業者)の経常収支は634億円の赤字、経常収支率は79.4%)。
(イ)また、公営地下鉄事業については、近年の輸送人員の伸び悩みもあって厳しい経営状況である(公営地下鉄事業者の累積欠損は、9年度末時点で約1兆84百億円)。
9年12月、地球温暖化防止京都会議が開催され、先進国の温室効果ガスの削減目標が採択された。我が国の場合、CO2排出量の約2割を交通運輸分野が占めており、その約9割は自動車からのものである。自動車の排出ガスの抑制対策は、この観点も加えて一層の充実が必要である。
以上見てきたとおり、都市交通問題への対処については、なお、改善すべき点も多く、今後とも総合的な取り組みが必要である。
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