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1 可動施設と基礎施設との不均衡
前節で述べたとおり,輸送需要の増大に対応して可動施設の増強が進み,それにより輸送力も拡大されてきたが,これに対し,基礎施設の整備は立ち遅れており,両者の間の不均衡が拡大している。このため,全体としての輸送供給力が不足し,国民経済,国民生活に大きな悪影響を及ぼしている。
(1) 鉄道輸送のひつ迫
イ 国鉄輸送力の行き詰り
すでに述べたとおり,輸送需要の増大に対応して,国鉄の輸送力は遅ればせながらも可動施設の増強,列車増発を中心として年々増強されてきた。これに対応して,基礎施設も複線化,電化や,駅施設,操車場の改良などにより年々増強されており,また,貨物駅の集約化,近代化も進められている。しかしながら, 〔I−4−10図〕にみられるとおり,昭和30〜38年度で換算車両キロが41%の増加をみているのに対し,線路増設が立ち遅れて,軌道延長はわずか6%しか増強されておらず,両者の開きが拡大している。また国鉄全線2万523キロのうち複線化されているのはわずか3048キロで複線化率は14.8%に過ぎず,輸送力増強の主体ともいえる複線化,複々線化は非常に遅れている。このため, 〔I−4−11表〕に示すとおり,主要幹線の多くの区間が一般に線路容量とされている一日列車回数,単線80回,複線(片道)120回をこえて列車が運転されており,このためこれらの主要幹線では列車増発の余地がほとんどないという状況になつている。とくに,大都市の通勤電車区間においては,1日片道列車回数が300回前後にもなつており,もはや列車増発は望めない状況にあり,また安全輸送の面からも好ましくない事態にたちいたつている。
〔I−4−12図〕は主要幹線の輸送密度を示したものであるが,
東海道本線,山陽本線など大工業地帯を結ぶ主要幹線は,輸送需要の集中度が高く,またその増加も大きいため,きわめて輸送密度が高く,その上昇も大きくなつており,このことからも主要幹線の飽和状態がうかがおれる。
東海道新幹線の完成により,東海道については当面輸送力にゆとりができるものと期待されるが,他の幹線や大都市通勤電車区間については線路増設が急務となつている。また,輸送量の増加および一列車あたり連結客車数,貨車数の増加に伴い,駅施設の狭隘さが目立つようになつており,駅,操車場等についてもその増強の必要性が高まつている。
ロ 私鉄輸送密度の上昇
私鉄においても可動施設の増強,列車増発を中心として輸送力を拡大してきたが,これに対し線路等の基礎施設の伸びが小さかつたため,大手私鉄や地下鉄などでは,かなり輸送密度が高まつている。 〔I−4−13図〕は,私鉄の列車キロと軌道延長との関係を示したものであるが,昭和30〜37年度で列車キロが13%増加しているのに対し,軌道延長は横ばいであり,可動施設と基礎施設との不均衡がしだいに強まつている。その結果, 〔I−4−14図〕に示すとおり,大手私鉄,地下鉄などでは,輸送密度(営業1キロ1日平均通過旅客人員)が著しく上昇している。このため,線路増設や,さらに,旅客の増加,列車編成両数の増加に伴い,ホームの延伸や駅施設の拡大なども必要とされている。
(2) 道路交通事情の悪化
自動車輸送の急増に対処して道路網の整備は年々進められてはいるが,自動車交通量がそれを上回るテンポで急激にふえているため,道路交通事情は年々悪化している。こうした道路交通事情の悪化は,自動車の輸送力に大きな悪影響を与えており,さらに道路交通事故多発の原因とさえなつている。
道路延長の推移をみると, 〔I−4−15表〕に示すように,道路総延長は昭和32〜38年で3%増加しているにすぎず,自動車交通可能延長も全延長の55.3%から60.3%に上昇しているにすぎない。また,改良率,舗装率はそれぞれ8.8%,2.1%から12.5%,4.1%に上昇するにとどまつている。国道,府県道だけをみると,38年で自動車交通可能94.5%,改良率32.3%,舗装率15.5%となつているが,道路延長の大部分を占める市町村道は自動車交通可能54.1%,改良率9.0%,舗装率2.0%となつており,道路の整備は著しく遅れている。もつとも,この間,幹線道路網の主要部分をなす,一級国道の整備はかなり進み,38年で改良率67.2%,舗装率57,0%となつており,さらに名神高速道路が39年9月には全線開通し,高速道路時代への幕が開かれるなど,かなりみるべき整備も行なわれている。
道路整備の立ち遅れにより,幹線道路,都市道路においては道路容量が不足しているため,著しく交通が混雑し,その機能がマヒしている。すなわち,自動車交通量の増加と道路混雑状況をみると, 〔I−4−16表〕に示すようになつている。とくに,一級国道主要路線は,交通量そのものが多く,その増加も大きいため, 〔I−4−17表〕に示すような著しい混雑を示しており,大工業地帯を結ぶ幹線道路は飽和に達している。また,後にみるとおり,大都市市街地でも激しい混雑がみられる。
このような道路交通の混雑,とくに大都市道路交通の渋滞に対処するためには,もはや従来の道路網体系では不十分で,このため高速自動車国道,首都高速道路,阪神高速道路等新しいタイプの道路建設が急がれている。また,このような道路整備とならんで,自動車ターミナル,駐車場など道路関連施設の整備が必要不可欠になつている。とくに,都心,副都心等バス輸送が集中発着する地点におけるバス・ターミナルや,都市外周部のトラック・ターミナルの整備については,これまであまりかえりみられず,近年にいたり整備され始めてきたものの,まだ規模も小さく,また最も必要性の高い大都市において整備が著しく立ち遅れている状態であり,これら諸施設の早急な増強が強く望まれている。
(3) 主要港湾の船混み慢性化
海上輸送量は内・外航ともに年々増加しており,これに伴い入港船舶数,港湾取扱貨物量も, 〔I−4−18表〕に示すとおり,著しく増加している。すなわち,昭和33〜38年で入港船舶隻数は総数で8%増,内貿では8%増,総トン数は総数で62%増,内貿では51%増,港湾取扱貨物量は総量で112%増,内貿では94%増となつている。なお,隻数の増加に対して総トン数の増加が大きいのは,船型が大型化していることによる。他方,外貿は全体に占める比重こそ小さいものの,その伸びは内貿を上廻つている。
このような入港船舶の増加,大型化,取扱貨物量の増加に対し,航路,泊地,岸壁等の港湾基本施設の増強は十分でない。すなわち, 〔I−4−19図〕に示すとおり,30〜37年で,港湾取扱貨物量が,2.3倍にふえているのに対し,港湾基本施設の資産額は51%の増加にとどまり,両者の開きはますます拡大している。
つぎに,京浜,阪神,中京,北九州など大工業地帯を背景にもつ特定重要港湾(東京,横浜,名古屋,大阪,神戸,下関,門司など11港)についてみると,入港船舶隻数,総トン数,港湾取扱貨物量は,33〜38年でそれぞれ42%増,76%増,121%増と全国平均を上回る伸びを示しており,内貿においてはそれぞれ41%増72%増,106%増となつている。また,外貿もかなり高い比重を占めており,その増加率は内貿を上回つている。
これに対して,港湾施設の整備が年々進められているものの,けい船岸においては, 〔I−4−20表〕に示すとおり,500重量トン以上(水深4.0m以上)の大型船けい船岸延長は,33〜38年で37%しか増加せず,また500重量トン〜10,000重量トン(水深4.0〜9.0m)のけい船岸延長は30%の増加にとどまつている。また上屋の整備,荷役の機械化等も十分に行なわれていない。
このような港湾諸施設の立ち遅れや,また港湾労働力の不足という港湾事情に加えスクラップ,飼料等荷役に長時間を要する貨物の輸入が急増したことにより,経済が活況を示した36年には,6大港を中心に大量の滞船が発生し,外航船はもちろん,内航船においても,相当長期の沖待ちを余儀なくされる事態にたちいたつた。
その後,緊急対策の実施などにより,このような激しい船混み状況は緩和されてはいるものの,とくに大工業地帯を背景にもち輸送需要の大きい6大港においては, 〔I−4−21図〕に示すとおり,船混みが慢牲化している。
近年,外航船のみならず内航船においても,輸送費低減のため専用船化,船型の大型化が進んでいるが,これに対して,前述したようにけい船岸が不足しており,また航路,泊地の水深が浅く,航路幅,泊地面積等も不十分であるため,海運の運航効率は大きな悪影響をうけており,海上輸送全体としての輸送効率の絢上が妨げられている。
さらに,狭隘な航路,港内を多数の船舶が航行するため,海難も多発しており,37年には京浜運河でタンカーの衝突事故が発生し,多数の人命が失なわれると同時に多大の経済的損失をもたらした。このような主要港湾のあい路化に対処して,港湾諸施設の早急な増強が強く望まれる。
(4) 航空輸送の伸展と急がれる空港整備
航空輸送は近年めざましく伸びており,またジェット機など新機材の投入により,航空機が大型化,高速化しているが,これに対し空港の整備はどのように進められているか。
空港整備が本格的に行なわれ始めたのは,昭和31年の空港整備法施行以降のことであるが,既設空港の整備,拡充,新空港の建設が着々と進められており,38年度には空港の数も46を数えるに至り,国内航空路線網の拡大に大きく寄与している。しかし,東京,大阪の国際空港においては,その利用量の大部分を占める国内幹線の運航量が著しく増加しているのに加え,国際線の運航量も年々増加しており,またジェット機の就航により,航空機が大型化,高速化しているため,それに対応した空港整備が必要となつていたが,東京国際空港については38年度をもつて整備がほぼ完了し,現在大阪国際空港の整備が進められている。しかし,現東京国際空港の整備計画がたてられたのは32年であり,その後の国内線,国際線運航量増加は当時の予想をこえているため,発着回数がこの空港の能力の限界に達する時期も早まるものと思われる。また45年頃には超音速旅客機(SST)の登場も予定されているため,新東京国際空港の建設が急がれている。また,国内線用空港においても,便数の増加,航空機の大型化,高速化が著しいため滑走路およびエプロンの拡張,航空保安施設の強化など早急な整備が必要とされている。
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