1 交通事故の現状


  交通が国民生活の根底をなすものの一つである以上,交通安全の確保は.国民生活にとつて絶対不可欠な,かつ,基本的な条件であることは論をまたないが,今日ほど,交通事故に対する社会的関心が高まり,人命尊重の立場から事故防止対策の緊急性が叫ばれたことはない。これは,鉄道,道路,海上等における悲惨な交通事故が毎日のように報道されるだけでなく,とくに大都市における通勤通学時の殺人的なラッシュ,道路交通の渋滞等の現象が,かりに一歩間違えば,重大事故,交通の大混乱をひき起す危険を含んでいるため,これに対する人心の不安が大きいことによるのであろう。
  前に述べたように,近年におけるわが国の経済発展に伴う輸送需要の増加に対処するため,各輸送機関の活動は年々拡大しているが,この輸送活動の活発化は 〔I−6−1図〕に示すようにそれだけ交通事故の多発化をもたらすもととなりやすい。そのうえ,わが国においては,輸送量の急激な増大においつけない不十分な輸送設備に立つて,運行の高密度化,高速度化の交通従事者の非常な努力とにより辛うじて輸送需要をまかなつて来ており、その結果,輸送の弾力性は低下し,運転の誤操作による事故の素因が醸成されて,交通機関の安全性は低下し,交通事故の多発化,重大化にいつそうの拍車をかけていることは否定できない。

   〔I−6−1図〕および 〔I−6−2表〕は,交通事故が年々増大し,重大事故も特異な海難を除外して考察すればその件数,規模ともに増大の傾向をもつていることを示している。さらに交通事故による死亡者数の全死亡者数に対する割合を見ると, 〔I−6−3表〕のように隼々増大の傾向にあり,交通事故による死亡は,脳卒中,ガン,心臓病,結核等とならんで死亡の主要原因となつている。また,交通事故による死傷者数を風水害,火災による死傷者と対比してみると, 〔I−6−3表〕に示すように,風水害による死傷者数は各年の来襲天災の程度により,大きく変動するが漸減傾向にあり,火災によるものはわずがながら上昇傾向を見せているのに対し,交通事故による死傷者数ははるかにぼう大な数に上りかつ年々急激な増加傾向を見せており,問題の重大さを示している。

  つぎに,交通事故件数を輸送機関別に見た場合 〔I−6−4表〕のとおり,道路交通事故が圧倒的に多く,昭和38年については,全交通事故に対し件数で91.3%,死者数82.2%,負傷者数で98.4%を占めており,その他の機関では,それぞれ国有鉄道で3.5%,6.4%,0.5%,地方鉄道でそれぞれ1・8%・7.9%,0.6%,軌道で1.9%,0.6%,0.4%,海難で1.5%,2.7%,0%となつている。


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