3 海運関係国際収支改善への努力
(1) 外航海運の国際競争力の強化と船腹拡充
前述したように,海運関係国際収支が大幅な赤字をつづけているのは,わが国の貿易構造の特殊性にもよるが,日本船の積取比率が低下していることが直接の原因である。貿易構造を改めることは現実間題としてほとんど不可能なことであり,海運関係国際収支改善のためには,貿易の相手国の海運を無視した無制限な向上は不可能としても,現在の日本船の低い積取比率をできるかぎり高めることが重要な課題である。
この日本船の積取比率向上のための対策は,一つはわが国海運企業の経営基盤を強化することであり,一つは今後の貿易規模の拡大に対処して国際競争力を備えた船腹を大量に拡充することである。
海運企業の経営基盤の強化のための施策については,かねてよりその必要性が叫ばれ,その実現が要望されてきたところである。わが国経済の将来における健全な発展を図つていくうえで,わが国貿易物資の安定した輸送手段を確保するとともに,国際収支の長期的な均衡をはかるため海運関係国際収支を改善することの緊要なこと,そしてこのためには弱体化している海運企業の経営基盤を立て直すことの必要なことが強く認識されるにいたり,ここに抜本策が結集されることになつた。「海運業の再建整備に関する臨時措置法」(以下整備法」という)および「外航船舶建造融資利子補給および損失補償法および日本開発銀行に関する外航船舶建造融資利子補給臨時措置法の一部を改正する法律」(以下「利子補給改正法」という)のいわゆる海運2法の制定がそれである。この海運2法は,38年7月公布さ札39年4月1日からいよいよ実行の段階に入つた。
海運2法は,企業の集約による海運業の再編成を通じて,過当競争の排除と国際競争力の強化をはかり,企業の自主的な合理化努力によつて経営内容を改善させるとともに,過去の船舶融資に係る支払利子を一定期間猶予し,また今後の新船建造融資に係る利子負担を軽減することを,そのおもな内容としている。
整備法は企業の集約の方法として,船舶運行事業を営む会社相互の合併により成立した合併会社を中核会社とし,合併会社により資本支配をうける系列会社,合併会社および系列会社に対して長期用船する専属会社をもつて企業グループを構成し,合併会社の所有外航船舶の量が50万重量トン以上,グループ全体の所有外航船舶の量が100万重量トン以上の規模に集約すること,および企業合理化の目標として,集約実施後5年以内に減価償却の不足を解消することを要求している。そして,この二つの条件を実施する企業に対して,36年度以前の計画造船に対する開発銀行からの融資残高に係る利子の支払が5年間猶予され,また市中の金融機関からも開発銀行に準じた利子の支払猶予を受けることが約束されている。
利子補給改正法は,利子補給金の支給年限を,開発銀行融資については5年を10年に、市中金融機関融資については5年を7年に延長するとともに,開発銀行融資について利子補給金の支給率を船主負担金利年5分を年4分になるように引き上げたものである。かくして,39年4月1日から新たに6グループの企業集約体が発足した。
つぎに,外航船腹の拡充のための施策としては,OECD加盟にともなう外国用船の自由化に対処して,財政資金により建造される鉄鉱石,石炭専用船および油送船について,その国際競争力を強化するため,38年度から開発銀行の融資比率が70%から80%に引き上げられた。また,38年度の財政資金により建造される外航船腹量は,当初50万総トンと予定されていたが,船腹拡充の強い要請と海運企業の建造意欲もあつて,財政資金量が追加され56万7000総トンが建造されることになつた。さらに,39年度についても,39年に入つてさらに海運関係国際収支の改善の緊急なことが叫ばれるようになり,当初予算の64万2000総トンを大幅に上回る建造規模になるものと見込まれるに至つた。現在,荷主の積荷保証を取りつけ,船台を確保している外航船舶建造希望量は1鈴万総トンをこえている。
(2) 港湾経費問題
貨物荷役料,水先料,曳船料,けい船料,トン税等の船用油を除く港湾経費収支は,38年には受取6800万ドル,支払1億5000万ドルで8200万ドルの赤字となつており,海運関係国際収支のなかで受取で18%,支払で20%,収支尻で22%を占め,貨物運賃についで大きな項目であり,海運関係国際収支改善のための方策として港湾経費収支の改善もかなり重要なものがある
港湾経費収支が大幅に赤字を計上しているのは,前述したようにわが国の港湾経費と諸外国の港湾経費との格差や港湾経費収支の性格等によるものであるが,38年から39年にかけてトン税,岸壁使用料,ブイ使用料,貨物荷役料,水先料が引き上げられ,これによる港湾経費収支の改善は年間約900万ドルに達するものと見込まれている。
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