1 定期旅客を中心とする都市交通の激増


(1) 定期旅客の増大

  鉄道の旅客輪送実績をみると,定期旅客の増加は著しいものがある。とくに輪送人員でみるとこの点は明白である。すなわち38年度の輸送人員の伸び率は,定期旅客で8%であるのに対して定期外旅客は5%であり,このような傾向がここ数年来続いているので,定期旅客対定期外旅客の構成割合は,35年度の定期旅客61対定期外旅客39から,38年度の定期旅客64対定期外旅客36へと定期旅客のウエイトが高まつている。これを国鉄および私鉄に分けて比較してみると国鉄は,定期旅客69%定期外旅客31%であり,私鉄は,定期旅客60%定期外旅客40%であつて国鉄,私鉄とも年々定期旅客の割合が増大している。私鉄のうちでも大手私鉄にあつては定期旅客の割合は私鉄全体におけるよりもいつそう多く66%を示しており,国鉄とほぼ同じ構成割合であるが,中小私鉄にあつては定期旅客が59%,地下鉄にあつては58%を示している。これらの傾向とは逆に公営にあつては,定期旅客46%,定期外旅客54%と定期外旅客の割合が定期旅客よりも多い。
  国鉄,大手私鉄及び中小私鉄にあつては,定期旅客の割合は年々増加する傾向にあるが,公営にあつては構成割合はほとんどかわらず,一方地下鉄および大都市の路面電車では定期旅客の割合がわずかではあるが減少する傾向にある。
  輸送人・キロの構成割合は,鉄道全体で38年度定期旅客52%定期外旅客48%であつて,定期旅客の割合は,輸送人員における定期旅客の割合を下回つているがこれは定期外旅客の乗車キロは定期旅客の乗車キロよりも上回ることを示している。国鉄にあつては,輸送人・キロに占める定期旅客の割合は46%であつてここ数年横ばい状態であり,定期旅客は定期外旅客を下回つており,国鉄定期外旅客の乗車キロがきわめて長いことを示している。
  これに反し,私鉄にあつては輸送人・キロの構成割合は各輸送機関とも定期旅客が輸送人員における定期旅客の割合を上回り,定期外旅客よりも定期旅客の乗車キロの長さを物語つている。とくに大手私鉄にあつては人・キロの構成割合において定期旅客の割合が毎年1%あて増加しており,大都市における住宅の拡散,住宅の郊外化を示している。
  このように,定期旅客の割合が各輸送機関において輸送人員で約60%を占めており,また,その大部分が時に集中し,とくに朝のラッシュ時においては国鉄,私鉄を問わず非常な混雑を呈している。たとえば,国鉄中央線上り快速の新宿・四谷間では最混雑1時間で終日の通過人員の36%が通過しまた,総武線上りの平井・亀戸間では最混雑1時間の乗車効率は303%を示している。

(2) 大都市圏における輸送の増大

  近年の都市人口増加は顕著なものがあるがとくに首都交通圏,京阪神交通圏および中京交通圏へ集中する傾向が強く,これらの中心都市である東京都区部・大阪市および名古屋市の人口は,38年10月1日現在で,それぞれ873万人,311万人および186万人に達した。34年10月1日から4年間の増加数はそれぞれ91万人,22万人および36万人で12%,8%および24%の伸びであり,全国平均の3.4%を大きく上回つている。さらにこれらの中心都市の人口増加に加えて,交通圏内からの通勤通学等による昼間人口の増大がありいわゆる都市交通戦争を惹起した。しかし,都市交通輸送に果した鉄道の役割は大きい。たとえば,東京駅を中心として約50キロの範囲内における36年度1日平均の輸送人員2232万人の輸送機関別割合は,国鉄33%・私鉄24%,地下鉄5%,路面電車9%,バス21%,タクシー8%となつており,国鉄、私鉄,地下鉄,路面電車の利用客の合計は,71%という大きな部分をしめている。
  つぎに,首都交通圏,中京交通圏および京阪神交通圏における輸送についてみると,三交通圏全体で輸送人員は,37年度実績で定期旅客65億5386万人定期外旅客38億7075万人計104億2461万人で対前年度7%の増加であり,全国の鉄道全体の輸送量の伸び5%を上回り,これらの大都市の鉄道では定期旅客の伸びが大きいとともに定期外旅客の伸びについても人口の都市集中により鉄道全体の伸びを上回つている。
  首都交通圏においては,路面電車を除き定期,定期外とも順調な伸びを示しており,ことに地下鉄は,前年度に対し定期旅客は22%,定期外旅客は27%の伸びを示しており,続々と建設される新線における輸送需要の増大を物語つている。また,国鉄および私鉄(地下鉄および路面電車を除く)は,首都交通圏における鉄道旅客輸送のほぼ8割を担つており,定期,定期外とも順調な伸びを示した。
  京阪神交通圏においても定期,定期外とも願調な伸びを見せているが,地下鉄の伸びは首都交通圏にはおよばないが定期で13%定期外で12%と大きな伸びを示した。京阪神交通圏の鉄道旅客輸送の中心を占めている私鉄は大幅に伸びを示したが,前年度の伸びをやや下回つた。
  上記二交通圏に比べ中京交通圏は伸びが大きくない。これは東京,大阪に比べて都市が過大化していないためと見られる。しかもここでは路面電車への依存度は高く鉄道旅客輸送の30%を担つている。


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