1 輸出の現況


(1) 概況

  戦後の鉄道車両の輸出は,その総生産額の過半を輸出していた朝鮮,満州,中国の市場を失い,あらたに国際競争の場に加わつたにもかかわらず,積極的な輸出努力と,新興独立国などの旺盛な開発機運にも支えられ,波動的ながら基調として拡大の途を辿り,戦後久しくプラント輸出の首位の船舶につぐ実績を示してきたが,近年伸び悩みの傾向をしめすとともに,他の自動車,産業機械などの著しい発展にともない,相対的にその比重は低下しており,その実績も平年度ベースでおおむね4000万ドルないし5000万ドルとなつている。

(2) 38年度の実績

  38年度の実績は 〔I−(I)−69表〕のとおり,契約ペースで,4390万9000ドルで,37年度がきわめて不振であつたため対前年比60%の増となつているが,おおむね最近4カ年の平均程度にとどまつた。

  通関ベースでは6327万5000ドルで高い実績をみているが,これは36年度の好調な契約が37年度に通関されたことによるものである。また38年度は通関においては37年度の契約不振の影響により4652万2000ドルと37年度対比73.5%の実績に止まつた。
  38年度の地域別および仕向国輸出構成は 〔I−(I)−70表〕および 〔I−(I)−71表〕のとおりで,まず地域別で,鉄道車両輸出の特質から東南アジアが69%と過半を占め,ついで中南米25%計94%で,ほかはほとんどみるべきものがない。仕向国別ではその市場数19カ国で,うち100万ドル以上は約半数の9カ国,その契約実績は,4278万1000ドルで,総額の97%を占めており,1000万ドル以上は韓国とアルゼンチンの2カ国のみである。

(3) 伸び悩みの原因

  およそ輸出に望まれることは,市場の広域性と実績の安定性であるが,鉄道車両にあつては市場は低開発国に限定され,しかも安定市場を持たず,伸び悩んでいる。これは当面の理由としては,コストの割高および一部機種の技術開発の遅れも一因であるが,なんといつても,輸出環境の悪化にともなう国際競争要因の変化であり,長期的には,需要動向の停滞の2点にあるといえよう。輸出環境の悪化については,鉄道車両の需要先は,船舶など他の重機械類とことなり、そのほとんどが低開発国の政府であるという特色があり,しかもこれら仕向国は戦後過大な開発計画の強化に加えて第一次産品の市況の低迷が久しく,外貨危機は慢性的な傾向を呈してきている。このため輸入にあたつてはほとんど長期の借款または長期延払いなどの経済協力を強く要請してきており,このため競争要因は品質,コストなどの商業ベースを離れて支払条件をめぐる経済協力ないし援助に集中されてきている。ちなみに,3年度の鉄道車両輸出は,1番札または商談で契約に持込んだものは約1億ドルに達したが,支払条件で政府の承認が得られなかつたことや,経済協力がともなわなかつたため,その過半が不成功に終つていることは注目すべきことである。
  需要動向の停滞については,当面外貨危機によることはもちろん鉄道とハイウエイとの競合と輸入国の国産化の進ちよくがあげられる。このため国連統計にもみられるように,世界貿易の規模は,他の重機械類のような著しい増勢はなく,4億ドルの線を低迷しており,わが国のシェアも10%内外に止まつている。


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