2 輸送力増強の問題点とその対策


(1) 輸送力増強の問題点

  乗合バスに対する輸送需要は,前述のとおり急激に増加しており,今後,バス交通圏の拡大,バス依存地域の発展,輸送方向の多岐化等により,高速鉄道網が整備された後においても,なお増加し続けるものと思われる。したがつて路線バスは,都市交通における重要な公共輸送機関として,その輪送網を整備し,輸送力の増強を促進する必要がある。
  しかし,現在のところ,東京および大阪における輸送力の増強は,輸送需要の増加に比べて非常に遅れている。東京および大阪における代表的なバス企業である東京都営バスおよび大阪市営バスの輸送人員,走行キロ及び車両数の推移は 〔I−(II)−48表〕のとおりである。

  このように輸送力の増強が遅れているのは,自動車交通量の激増により,これと道路容量,広場容量との間に大きなアンバランスを生じたため,乗合バスの増回が差し止められる場合が多くなつていることが原因である。乗合パスの路線設定の免許および問題個所における増回については,都または府の公安委員会の意見を求めているが,委員会が,繁華街,駅前商店街,主要街路,駅前広場等について,交通渋滞,道路狭小,広場狭小等の理由で増回を不適当としている個所は,相当数に上つており,例えば東京都区部では,東京,新宿,中野,高円寺,阿佐ケ谷(北口),荻窪,西荻窪等25の駅について乗入回数が制限されている。このため,車両の大型化によつて増加する需要に対処する傾向がみられる(東京都区部における1両平均定員数は,昭和30年度56.6人,36年度63.7人)が,このことは,道路狭小部分における交通保安上の問題をさらに激化させている。
  輸送力の増強が遅れているため,乗合バスの混雑は,年々激化している。昭和39年2月に実施した東京都内の乗合バス輸送調査の結果によると,7時から9時までの午前のラッシュ時における295系統の上り運行(運行回数1590回)のうち,最高混雑区間の平均乗車効率が100%以上のものが105系統(524回)となつている。なお,これらのうちには,全区間の平均乗車効率が100%以上のものが9系統(47回)あつた。
  タクシーの輸送力については 〔I−(II)−49表〕のとおり,輸送需要の増加に即応してその整備を図つてきたところであり,37年度におげる1両当り人口は,36年度の約6割となつている。しかし,近年におけるタクシー運転者の不足は,特に大都市において切実な問題となつており,現在すでに相当数の休車をやむなくしている状態であつて,今後の輸送力増強を阻害する大きな要因ともなりつつある。

  また,年々激化する路面交通混雑は,前述のように乗合バスの輸送力増強を阻害しているのみならず,運行速度の低下,特にラッシュ時におけるダイヤの激しい乱れ等の影響を及ぼしている。このため乗合バスに対する
 信頼度は低下して旅客の増加傾向が阻止され,また,通勤通学輸送機関としての機能が著しく低下して高速鉄道に過重な負担をおよぼす結果ともなつている。
  路面交通混雑は,タクシーの運行能率をも優下させており,1日1車当り走行キロは, 〔I−(II)−50表〕のとおり年々減少し続けている。

(2) 輸送力増強のための対策

  乗合バスに対する輸送需要は年々増加しているにもかかわらず,その輸送力の増強は,銘面交通混雑等のため著しく遅れている。このような事態を解決するには,都市機能の分化等による輸送需要そのものの抑制,分散などの対策も考えられるが,当面,次のような対策が必要である。なお,これらの対策の多くは交通基本間題調査会,都市交通審議会等の答申の中でも指摘きれているところである。

 (イ) バスターミナル施設の建設等

      多数の運行系統が集中し,乗降客が多く,路面交通が混雑する高速鉄道の駅その地の地点については,バスターミナル施設の建設,公共広場の拡張整備又は路外専用停留所の設置により,輪送の円滑と利用者の利便を図る。

 (ロ) 道路容量の増加等

      路面交通混雑の特に激しい地区には(なるべく自動車専用の),平行道路(バイパス道路)を建設する。
      道路の拡幅等の改良,交差点や踏切の立体化および道路率が低く,車両割限令抵触力所の多い外周部における道路の建設を行なう。
      放射状および環状の道路網の建設整備を促進する。
      駐車場,特に路外駐車場の設置を促進する。

 (ハ) 道路の効率的使用

      道路等の施設能力を増加することは,路面交通混雑の緩和に有効な解決策であるが,自動車数の増加は,施設能力の増加よりはるかに早い。したがつて,車種別時間別の交通制限一方交通制限,駐車禁止区域の設定その他の交通制限をきらに強化することによつて路面交通の能率化を図る。
      また,乗合バスは,1両当りの輸送効率がきわめて大きいが,全体の交通量の中に占める割合は微々たるものである。しかも,現在の路面交通混雑は,自家用自動車,なかでも自家用乗用車の激増によつてもたらざれているものであるから,自家用自動車,特に自家用乗用車に対する.交通制限,乗合バスその値の公共的輸送機関の優先通行の確保等の措置を実施し,個人的輸送機関による個別輸送を公共的輸送機関に集約する。

 (ニ) 運行系統の合理化

      路面交通混雑区域において同一道路に多数の運行系統が集中しないよう旅客の流れ等を考えて平行道路その他への分散を図る等の措置を検討する。
      特に(a)輸送における通勤輸送の最終需要地域の拡散傾向に応じた乗換え不要の運行系統および高速鉄道網による交通の流れと異る方向への運行系統を設定する。
      環状的バス交通網としての(b)輸送を整備する。
      なお,高速自動車道の利用による輸送力の増強,合理化は,一般の道路に下りてからの道路等の施設能力の増加が前提となる。
      タクシー輸送力の増強と運行の合理化には,乗合バスの場合と同様,路面交通混雑の緩和も必要であるが,その他に次のような対策が必要である。

 (イ) 運転者養成所の設置等により,積極的に運転者を養成する。

 (ロ) タクシーベイの設置を促進し,かつ,流し営業を制限又は禁止することにより,路面交通混雑の緩和および車両の効率的運用を図る。

 (ハ) 需要の地域曲集中に対応するため,用地を整備して駅構内専用タクシーの制度を普及させる。


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