1 海運業の再建整備


  近年のわが国海運業は,世界海運市況の長期低迷とはげしい国際競争のため,運送コストを賄いきれず,減価償却の不足が逐年累増してきた。この結果,借入金の償還延滞額も累積し,その金利負担はますます過重となり,脆弱な経営基盤をさらに悪化させてきた。
  乗組員の削減によるコストダウンを主たる目的とする船舶の自動化の研究開発は,最近著しく進展し,世界の主要な海運国においてすでに実用段階に入っているが,この分野において,わが国は指導的地位にある。
  このような事態の抜本的解決を図るため,昨年画期的な海運再建策が実施された。

(1) 企業経営の現況

  わが国の海運企業(利子補給対象59社のうち3月と9月を決算期とする54社)の38年度における経営状況は,いぜん不振であったが,前集に比べ多少の改善がみられた。とくに,目立つたことは,不定期船運賃市況の好転と外航活動の拡大を反映して増収があったこし企業の再建整備を図るため,画期的な企業の集約ならびに大幅な減資,資産処分などの自主的合理化努力が推進されたことである。すなわち総収入は3031億円(前年比14.3%増),減価償却費を除く総費用は2563億円(9.3%増)で,償却前利益は468億円と前年度より151億円の増益となつた。しかし,過去の償却不足を解消するために償却前利益のほか,減資差益や積立金とりくずしにより,38年度の普通償却範囲額の212%に当る644億円の償却を行なった。この結果,38年度末の普通償却不足累計額は393億円(前年度末652億円)となつた。
  38年度末の総資本は5268億円で,この1年間に191億円減少した。総資本のうち負債は,4359億円で,前年度末に比べ25億円減少したが,減資および積立金のとりくずしのために自己資本も909億円と166億円の大幅な減少であった。この結果,資本構成はさらに悪化し,自己資本比率は前年度末の19.7%から17.3%に低下した。
  なお,38年度末の設備資金借入残高は,3020億円で,前年度末より69億円減少し,設備資金借入金の約定償還延滞額も減少して825億円(前年度末961億円)となつた。

 (2)海運再建2法の施行

  「海運業の再建整備に関する臨時措置法」および「外航船舶建造融資利子補給および損失補償法および日本開発銀行に関する外航船舵建造融資利子補給臨時措置法の一部を改正する法律」のいわゆる再建2法は,38年7月1日に公布施行されたが,これは,政府が数年来検討を進めて来た結果を集大成したものである。

  再建2法のうちの再建整備法は,企業集約の方法および企業合理化の目標を示し,この2つの条件を実施する企業に対して,後述の利子の支払猶予などの助成を行なうことを規定している。
  企業集約の方法は,船舶運航事業を営む会社の合併により成立する合併会社を中核体として,系列会社(合併会社により資本支配をうける会社),専属会社(合併会社または系列会社に対して長期貸船する会社)とにより企業グループを構成し,合併会社の所有外航船舶の量が50万重量トン以上,グループ全体の所有外航船舶の量が100万重量トン以上となる規模に集約することである。
  企業合理化の目標は,集約実施後5年以内に,減価償却の不足を解消することである。
  この法律による助成措置を受けようとする会社は,以上の2つの条件を実施するための整備計画を作成し,運輸大臣の承認を受け,さらに企業の集約を実施したことの確認を受けなければならない。この確認を受けた会社は,確認日以降17次以前の計画造船にかかる開銀融資に対する利子の支払いを5年間猶予される。ただし,この猶予利子相当金額は,開銀からの借入金の償還にあてなければならない。また支払猶予を受けた会社が資本金に対して一定率以上の利益をあげた場合には,利子の支払猶予期間中であつても,その利益の程度に応じて利子を支払わなければならない。

  再建2法の一方の柱である利子補給沫を改正する法律は,今後の新船建造融資について利子補給金の支給年限の延長をするとともに,その支給率を引き上げることを主な内容とするものである。すなわち,利子補給金の支給年限を,開銀融資については従来の5年を10年に,市中融資については,5年を7年に延長するとともに,利子補給金の支給率を開銀融資について従来の船主負担金利年5分が年4分になるように引き上げたものである。また市中融資にかかる利子補給金の支給率は,従来の船主負超金利年7分5厘が年6分となるように引き上げられた。

(3) 整備計画の提出およびその概要

 イ 6グループの成立

      38年7月1日の再建整備法の公布施行に引続いて,同法の政令,省令,告示が公布施行され,原則として同年12月20日までに整備計画を提出しなければならないと定められた。この結果,合併会社の設立を中心とする企業の集約のための交渉が懸命に進められ,整備計画の提出期日までに6合併会社(日本郵船-三菱海運,山下汽船-新日本汽船,日本油槽船-日産汽船,日東商船-大同海運,大阪商船-三井船舶,川崎汽船-飯野汽船)の設立を中心とする企業の集約計画が成立した。

 ロ 整備計画の提出

      この企業の集約に参加した会社のうち,43社が38年12月20日までに,整備計画の提出延期が認められていた9社が39年5月30日までに,それぞれ整備計画を提出した。このほか,43社が整備計画を提出しないで企業の集約に参加した結果,集約グループ参加会社は全体で95社となつた。この95社のうち16社が合併し,8社となったから,39年7月15日現在で集約参加会社は87社となっている。

 (イ) 集約計画

      企業の集約に参加した95社の所有する外航船の船腹量は,936万重量トンであり,わが国全外航船腹のうち約9割を占めている。集約参加会社のグループ別の概要は 〔II−(I)−12表〕のとおりである。隻約参加会社の所有船のグループ別,船種別船腹構成は, 〔II−(I)−13表〕のとおりで,日本郵船,川崎汽船大阪商船三井船舶の3グループは定期船に,山下新日本汽船グループは不定期船に,昭和海運,ジャパンラインの両グループは専用船,油送船に経営の主力をそそいでいることがうかがわれる。

 (口) 償却不足解消計画

      整備計画の方の目標である企業の自立体制を確立するための償却不足解消計画は,今後5カ年以内に船舶の減価償却の不足を解消することを目標に策定されている。
      この場合,償却不足を解消するために,当該企業の償却前利益を充当するほか,17次以前の計画造船に対する開銀借入金の支払猶予利子相当額(発生利子の全額)と市中金融機関からの借入金にかかる支払猶予利子相当額(発生利子の2分の1以上)があてられている。このほか,企業の自主的努力として,減資増資不動産,有価証券などの資産処分が計画されている。減資総額は233億円,資産処分は268億円にのぼるものと思われる。
      このようにして,主要会社の計画は,おおむね2ないし3年間以内に消却不足の解消を達成することとなっている。

(4) 整備計画の実施

  整備計画の承認をうけた会社は,39年4月1日,6グループの中核体としての6つの合併会社が発足したのを始めとして,資本支配関係,事業支配関係の確立のすべての集約計画の実施を39年5月末に完了し,運輸大臣の確認をうけた。(整備計画提出延期会社も同年7月15日に確認を受けた。)
  この確認をうけた日以後開銀はじめ市中金融機関の利子の支払猶予が行なわれ,また18次(37年度)以降の計画造船に対する利子補給率が引上げられることになった。


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