4 内航海運業の経営不振
内航海運業者の経営内容はきわめて悪く,欠損と多額の償却不足に悩まされている。37年度における内航海運業者の経営状況は下表のとおりである。
このように内航海運業者の経営内容が不振をきわめているのは,船腹過剰が原因となって過当競争が行なわれ,運賃市況の低迷を招き,採算割れの低運賃が一般化しているためであるが,これを助長するものとして中小零細業者が多いという体質的な弱さと,海運業本来の性格として,係船費用が高いために,粗当程度の赤字輸送でもその方が損が少ないという事情が加わっている。
まず,基本的な要因としてあげられる内航船腹の過剰傾向は,内航海運業者の過当競争をひき起し,内航海運業界を混乱に陥れている。船舶の稼行率を示す内航鋼船/重量1トン当りの輸送トンキロの推移をみると,35年を100として貨物船は36年96,37年80,38年87,油送船は36年75,37年54,38年64と低迷を続けており,木船についてみると,貨物船は36年99,37年99,38年99,油送船は36年87,37年96,38年81となっている。船舶の近代化による輸送能率の向上,港湾荷役設備の改善などの事情を考慮すれば,船舶の稼行率は高まるものと考えられるが,これが低下ないし横ばいを示しているのは,鉛腹の過剰傾向を示すものといえよう。
しかし内航海運は,このように全体としては船腹が過剰でありながらその多くは不経済船や非能率船であって,近代化された荷主の要求に応じうる船舶は,不足しているというゆがんだ現象を示している。すなわち,内航船腹のうち,鋼船では総船腹の11%に当る16万2000総トンの老朽船があり,さらに31・2年頃高船価で作られた不経済船や,機帆船の鋼船化ブームにのって作られた非能率船などが大量に存在している。これに対して,近代的な専用船自動化船は,必ずしも多いとは言えない状態であり,早急にこの体質改善をはかる必要がある。
つぎに,内航海運業者の多くが中小零細企業であることによって,ぜい弱な企業基盤を反映した荷主対抗力が弱い点があげられる。すなわち,運送業者については,鋼船により運送業を営む者のうち92%が,木船により運送業を営む者はすべて中小企業であって,内航総船舶の77%の船舶が中小業者によって運航されている。また,貸渡業者については,鋼船の貸渡業者のうち98%が中小企業者であり,木船の貸渡業者はすべて中小企業者である。
取扱業者も同様にその96%は中小企業である。これらの中小企業者は,そのほとんどが個人企業であって鋼船業者はその65%,木船業者ほその96%が偶人企業である。
なお,最近これらの零細業者にとって大きな問題となっているのは船員の不足である。すなわち,これらの業者は,従来から低賃金の家族的労働に依存してきたのであるが,昨今における若年労働者の不足が労働環境の悪い零細内航海運から若年労働者を奪ったため,船員の不定が顕著となっている。このような労働力不足は,円滑な企業運営を妨げるとともに,他方船員の賃金水準の急騰となってあらわれ,零細業者を窮地に陥れ,社会問題化しつつある。
さらに,低運賃をもたらす内航海運業の特殊性として見逃しえない点は,船舶を係船する場合に要する費用(保安要員の給与,金利,減価償却費,保険料,固定資産税など)が比較的に高く採算割れであっても係船するよりは運航する方が有利であるため,低運賃で船舶が運航されることとなることである。このような性格は,海運業者の荷主に対する力関係を弱めている。とくに機帆船の一杯船主の場合には,日銭を得て生活をして行くためには,低運賃であっても運航して稼がねばならないといった事情も加わり,その傾向が強い。
このような要因によって,運賃市況は低水準のまま固定し,内航海運業の経営不振を招いているのである。内航鋼船の運賃市況の推移を見ると, 〔II−(I)−22図〕のグラフに示すとおりであるが,32年度から34年度にかけて大幅に低落した後そのまま低迷を続けている。
たとえば,代表的航路である室蘭/京浜間の国鉄用炭の運賃は,32年度上期1100円を示していたのに対し,37年度上期には915円に低落し,38年度下期も910円と低迷を続けている。木船運賃においては,その代表的航路である若松/阪神間の石炭の調整運賃(小型船海運組合法による譲整運賃)をみると,32年度の毎5円に対し,38年度は490円に下がっている。しかし,実際の運賃はこれよりもさらに下回っているのが実情である。内航海運の運賃市況の低迷は,荷主の立場から見れば,輸送コストの引下げであって望まないものと受けとれようが,国民経済的に見た場合適正な利益も得られぬような経営が続いて,内航海運という産業が長期的に見て自立して行けないことになり,その船隊構成を近代化して,輸送サービスを向上させ,合理的な輸送コストの引き下げを実現する力を奪うものであつて,放置しえない問題である。内航海運の再建が必要とされるゆえんもここにある。
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