5 内航海運の再建
内航海運は,すでに述べたように不振をきわめており,このまま放置すると,壊滅的な打撃をうけて,国民経済の健全な発展に重大な支障を来たすおそれがあるので,内航海運の再建を図るため次のような施策が講ぜられることになった。
第1に財政上の措置である。内航船舶の近代化を図るための資金として,特定船舶整備公団に対し財政融資が行なわれることになり,39年度には25億4800万円の財政融資が決定した。その内訳は,石炭専用船建造に16億4800万円,油送船,鋼材専用船建造に9億円である。この財政融資は,内航船舶の考朽化不経済化の現状から老朽鋼船,運炭機帆船および沿岸木船タンク船を解撤して,近代化された高性能の船舷を建造するために行なわれるものである。
本対策により39年度に建造される船舷は,石炭専用船2万1600総トン,油送船または鋼材専用船2万2000総トン,合計4万3000総トンが予定されている。その解撤比率は,建造1トンに対し解撤1.5トンとなっている。
第2は,法則上の措置である。内航海運の輸送秩序の確立と内航船腹の過剰傾向の是正を図るために,小型船海運業法および小型船海運組合法の改正が行なわれた。
まず,小型船海運業法の改正は,(1)500総トン以上の鋼船による内航海運業を新たに規制の対象に加え,内航海運業全体の安定を確保し,その健全な発展を図ることができることにしたこと。(2)内航船腹の慢性的な過剰傾向にかんがみ,内航海運業者の過大な船舶保有傾向を抑制し,また船舶建造についての合理的な指針を与えるため,運輸大臣が適正な船腹量を定めることとしたこと。(3)内航船腹量がその適正規模に照して,著るしく過大になるおそれがあるときには,運輸大臣が内航船腹量の最高限度を設定し,内航船腹量の調整ができることとしたこと。(4)最高限度設定による船腹調整の効果が自家用船舶により減殺されることを防止することができるようにしたことなどである。
つぎに,小型船海運組合法の改正は,(1)内航海運業の過当競争の現状にかんがみ,500総トン以上の鋼船による内航海運業者も,従来の小型船海運業者と同様海運組合を結成し,その事業に関して自主的な調整ができるようにし,内航海運業者全体が共同してその事業の安定を図ることができるようにしたこと,(2)内航海運組合の組合員としての資格を持つ事業者の範囲が,内航海運業者全体に拡大されたため,内航海運組合の活動の影響力が従来に比べて非常に大きくなるおそれがあるので,その調整事業を不況の場合に限ってできるようにしたことである。
以上の措置のほかにも,既存船舶の自動化,専用船化に対する財政資金による促進を,政府関係金融機関を通じて行なうよう検討がなされており,また,船腹の過菊傾向是正のために不要不急の融融の建造抑制について行政指導が行なわれている。
しかしながら,このような政府の施策も内航海運業界の協調体制が確立して始めて効果が発効できるものである。業者の自覚による協調体制の確立が望まれている。
最後に,内航海運対策として,すでにのべた一般の内航海運業者の活動分野の縮小傾向に関連して,輸送需要の開拓を図るための海陸輸送調整の問題がある。すなわち,鉄道と海運の輸送分野を調整し,ひっぱくしている鉄道輸送を緩和し,同時に内航海運の貨物を開拓して,船舶過剰傾向を是正するため陸上貨物の海送転移をはかるこが可能であるかという問題である。
このためには、これまでは国鉄の貨物運賃の遠距離てい減制,営業割引制などのいわゆる政策運賃を是正して,海送転移をはかるべきだとされてきた。
しながら,内航海運と鉄道の距離帯別の輸送割合を最近の実績でみれば・石炭石漉セメントなどの大量貨物については,輸送距離が長くなればなるほど内航海運の輸送割合が増加しているが,輸送口,トの小さい工業製品雑貨などについては,必ずしもこのような現象は見られない。それは,これら小口貨物の輸送については,スピード,便利さ,安全性,正確性,荷すがたなど運賃以外の要素が大きく左右しているからである。なお,海上輸送の場合には,地理的な条件,港湾事情の影響は勿論であるが末端における二次輸送が隘路となることが多いこと,一貫輸送の組織が整っていないことなどが非常に大きなマイナスとなっている。
したがって,海送転移を進めるには,これらに対するきめのこまかい配慮が必要である。すなわち,海陸輸送コストの均衡点を中心とした運賃調整の実施二次輸送を含めた一貫輸送システムの確立,計画輸送の実施,コンテナー化の促進海上輸送のP.R,港湾荷役の合理化,内貿港湾の整備その価の対策についての検討が必要である。
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