2 旅客航路の近代化


(1) 老朽船の代替建造

  旅客船の船腹構成は,現在相当数の老朽船が含まれており,これらの老朽舳は安全性の高い船舶に代替する必要にせまられている。しかしながら,国内の旅客航路事業者は,前述したように,経営が苦しく資本カにとぼしいので,通常の市中金融によって船舶を建造することが困難である。このため,34年以来特定船舶整備公団(当初は国内旅客船公団と称した。)が設けられ,国の財政資金を国内旅客船の建改造に投入することとした。38年度においては,7億円の財政資金によって,4301総トンの旅客船が建造され公団発足以来建改造された旅客船は,合計147隻2万1137総トンに達した。
  この公団による旅客船の建造は,船舶共有の方式によって行なわれ原則として建造船価の70%を公団が,30%を旅客航路事業者が負担する。共有期間は,鋼船が18年,木船が10年で,この期間中,事業者は公団に対し,船舶の使用料を支払うが,この使馬料の中には,船舶の減価償却相当分と,利子相当分(年利7%)が含まれている。そして共有期間が経過したときには,事業者は公団からその持分を残存価格(10%)で買い取ることができる制度になっている。これによって,建造船舶のほかには無担保で、長期低利の融資を受けられたと同じ効果が生ずるので、国内旅客船の建造を大いに促進し、老朽船の処理に役立つてきた。とりわけ、離島航路のような採算性の低い航路の船舶の代替建造は、この公団によつてはじめて可能になつたといつて過言ではない。
  しかし、38年2月旅客船ときわ丸の沈沒事故を契機として、老朽の船処理対策が問題となり、同年9月から船令25年以上の旅客船に対する船舶検査が強化されることになつた。これによつて、大修理を要することとなる老朽船は、むしろ解散して代替建造した方が経済的であるので、公団の旅客船建改造費を39年度には9億円に増額し,従来よりもいっそう,老朽船の代替建造を促進することとなった。
  しかしながら,この公団の方式によって船舷を建造する場合にも建造船価の30%は事業者が自力で市中金融などにより調達しなければならず,その負担は小さくない。また,公団に対する使用料も零細な事業者の場合には,資金繰りに追われて,支払いが困難となりやすい。そのため,老朽船を持ちながらも,公団への代替建造の申し込みができない事業者や,公団船の建造によって,かえって経営か苦境におちいった事業者があるという実情である。
  これを解決して,老朽船の掃を図り,旅客航路の近代化を図るには,公団の共有条件を大幅に緩和すべきであるということが,各方面から要望されいる。

(2)陸上輸送との関係

  近年における自動車輸送の発達はめざましく,従来,船舶の交通だけに頼っていた沿岸の準離島地域に道路が建設されたり,河や湾をまたぐ架橋や離島への架橋が行なわれることが多くなって,融融の独占的な活動領域はしだいに狭められてきた。このため,陸上輸送に旅客を奪われて,廃業に追いこまれた旅客航路も少くない。
  陸上輸送機関と競争関係にある航路では,船舶独自の快適性を生かして,観光航路に活路を見出さざるをえなくなっている。その典型的なあらわれが,瀬戸内海を東西に走る航路に次々と登場して来た「浮ぶホテル」ともいうべき豪華船である。展望台や娯楽室,バーを備え,冷暖房や換気装置はいうまでもなく,18ノットの高速で運航して,鉄道と十分に対抗している。
  快適性の面だけでなく,高速性の面でも,陸上輸送機関をしのごうとするものが,後に述べる水中翼飴である。

  一方,自動車輸送の発展に即応して,これと共存共栄しようという,いわば陸上輸送との結合の事例が,近年めざましい発展を見せている自動車航送毅である。自動車から船舶へ,船舷から自動車へという貨物の積み替えの不便を省き,輸送の迅速化と貨物の破損防止を図るには,貨物を自動車に積んだまま融融に乗せて輸送する自動車航送船の方式をとることが望ましい。こうした航送船は,鉄道車両については古くから用いられてきたが,自動車について盛んに用いられはじめたのはここ数年間のことである。自動車航送船は、貨物の一貫輸送に役立っているばかりでなく、旅客輸送についても増加の著しい自家用車や貸切パスの行動半径を海を越えて拡轡大させる役割を果し,多くの島に分かれたわが国における自動車輸送にとって,今や欠くことのできない存在となってきたということができよう。自動車航送船のうち旅客定員13人以上のものは,39年1月現在29航路に55隻1万698総トンが就航しており,その過半数の18航路は瀬戸内海にある。そのうちでも大阪府または兵庫県と徳島県,岡山県と香川県,広島県と愛媛県といつた,本州と四国を結ぶ幹線交通路を形成しているものの果している役割は大きい。そのほか,東京湾や有明海などを横断する航路は,自動車輸送の能率化に役立つている。
  38年に建造された自動車航送船の中には,794総トン,積載能力バス13台,旅客定員625人という大型船があらわれている。
  今後も,自動車輸送の発展や離島の島内道路の整備につれて,自動車航送船の需要は,ますます増加するものと思われ,旅客航路にとって一つの新しい発展の分野がひらけてきているということができる。従来は,旅客航路の近代化の方向は,貨客船から純客船へと転移するもののように考えられていたが,自動車航送船の普及は,新しい意味における貨客の同時輸送をもたらしたわけである。そこで,特定船舶整備公団でも,建造する旅客船の中に自動車航送船をとり入れることとし,38年度において,瀬戸内海に自動車航送旅客船を登場させた。

(3) 新型船の躍進

  旅客航路事業の近代化のためには,優秀船の建造や輸送方式の変化に対応した自動車航送船化は有力な手段であるが,それとともに従来の船舶の概念を打ち破った新しい交通機関がとりいれられはじめている。
  そのうちでも,まず実用化されたのが水中翼船である。水中翼船は37年にはじめて瀬戸内海で旅客航路に用いられてから,たちまち全国各地で採用されていった。この特長は,何といっても35ノット(65キロメートル時)という自動車同様の高速性であって,たとえば,神戸高松間は,普通船で4時間ていどを要したものが,水中翼船では2時間10分に短縮されている心このため,陸上輸送機関と競争蘭係にある沿岸の航路に用いても,相当の旅客の吸引力を発揮している。
  39年1月現在で,水中翼船を使思している航路は29航路あり,そのうちでも,伊勢湾に7航路瀬戸内海に7航路が集中している。しかし,水中翼船は,普通船に比べてコストが高いため,運賃が3倍ていどにな軌また繭波性に乏しく欠航率が高いという欠点がある。38年には三30総トンで旅客定員蜘八という大型の水中翼船も登場し,しだいに性能も祠上して,交通機属としての信頼性を高めているが,内海や湾内以外に広く用いられるまでには至っていない。

  一方,水中翼船よりもさらに高速の交通機関として,現在研究が進められているのは,いわゆるエアークッション艇である。これは空気を水面又は地面に吹きつけることによって船体を支えるエアークッションの原理を用いた全く新しい交通機関である。この特長は,70ないし100ノット(130〜190キロメートル/時)という高速性と,平起な地面ならどこでも走行でき水上では水深を考慮しなくてもよいという簡便性にある。そのほか,エアークッションによって乗心地も良いといわれている。このため,100ないし400キロメートルていどの中距離輸送において飛行機とじゅうぶん対抗できるであろうし,港湾施設を要しないことから,離島航路に用いることも考えられる。小型のものではそのコストは水中翼齢よりもさらに高くなり,またその耐波性も未知数である。
  わが国では,すでに造船会社2社が技術導入の認可を受けて開発を進めており,旅客航路に採用することについても具体的に計画が進められている。


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