3 労使関係
昭和39年6月末現在の船員単位労働合基本調査によれば漁業においては,組合数40,組織人員8万296名に増加した。またその組織率は約60%を超えたものと推定される。全日本海員組合に属する者を除いては遠洋かつお,まぐろ船員を中心とする三騎船員組合の8116名,室戸岬船員同志会の2450名のほかは,地域的産業別組合の形をとつているにかかわらず,2000名に達しないものが大半である。すなわち,これら数多い漁船関係労働組合は地域的色彩が強く,組合組識的には全日本海員組合を別にすれば全国的規模のものはなく,協議機関として全国漁船労働組合協議会があるのみで漁種による労働条件の格差を解消することが困難な要素もあつて,労働条件の平準化をもたらす全属地統一体制を組織するまでにいたらず,地域的個別組合の交渉にゆだねている。しかしここにも漁種別に,あるいは漁種の相違を越えて,労働条件改善の方同を同一化しようという動きがあらわれており,組織の拡大とあいまつて,地域的限界から脱却しようとしている。
海上労働者の組合は,洋上を職場としているため,労働条件について組合幹部と意思疏通をする機会にめぐまれない。したがつて組合は,労働者の欲するところを理解し意思疏通をはかる能力を備えていることと,すぐれた統率力とを要求せられる。
現段階での漁船員単位組合の中には,このような条件をそなえるに至らず,また雇用関係の非近代性ともあいまつて,労働組合の機能を果していないものも少なくない。労働協約を結んでいないものが8,労使協議制を採用していないものが15もあることはこのことを示している。全国漁船労働組合協議会の指導により,年々相識船員は増加しているが,全日本海員組合以外では漁船船員の労働問題に関する紛争について第三者機関の調整を求める例は少ない状況である。
一方船主団体は,このような組合の未熟さもあってか,その労務管理は必らずしも近代的といいがたいものがある。ところで,最近この漁業部門においても労働対策が真剣にとりあげられ,大手漁業12社が37年12月,母船船主労務協議会を結成し,さらに39年1月これを漁船船主労務協会に組織を改めるなど機構強化につとめ,加盟会社の労働問題の一括処理にあたっている。しかしながら中小企業分野での労働対策は真剣にとりあげられる段階に来ているとはいい難い。
しかし,最近海外出漁漁船が増加し,出漁期間がながびくにつれ,労働条件に不満をもつものもあらわれ,洋上で操業を拒否する事件が続発していることから,海外出漁企業では労務問題に真剣にとりくむ必要に迫られている(39年1月から9月までに同種の事件が7件発生している)。船員雇用事情が窮迫化して,他地域から組織船員たると否とをとわず求職にあらわれる船員を雇い入れることが多くなると,従来の慣習のように,漁掛長に賃金などのとりきめをゆだねることはいつそう問題があろう。洋上にある船員と意思の通った団体交渉を行なうことは,無線電信一つでは困難なことで操業拒否が行なわれることは,労使双方にとって好ましくない。労使関係の正常なルールを確立するとともに,船主は労働問題について早急に近代的に脱皮していく必要があろう。
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