3 舶用機関の開発


  わが国における舶用機関の製造技術は,戦前の海軍によって培養された軍用大型蒸気タービンやボイラーの製造技術を基礎とし,戦後の外国メーカーとの技術提携を通じ,急速な進展をみた。そして設備の改善整備もあって,現在では,ほとんど国際水準に劣らない船舶機関が製作されるようになった。しかし,いまだ技術提携によるロイヤルティの支払いが,年額約9.5億円の多額にのぼっており,今後わが国独自の技術の開発促進を図る必要がある。

(1) 蒸気タービン,ボイラ

  世界最大の超大型油送船”日章丸"(13万重量トン)の出現に伴い,世界最高馬力である2万8000馬力の蒸気タービンが製作されたことは特筆すべきことである。しかし現在の蒸気タービンの技術的問題は高出力化よりも主として経済性の追求に重点が向けられているのが世界的傾向であり,わが国においても,経済性向上のため,イ.蒸気条件の高温高圧化,口.ダービンプラントのコンパクト化,ハ.自動化,などを侶進する必要がある。また,主ボイラの設置は通常2缶であるが,信頼性を一段と向上させ1缶とすることもコスト低減の有効な手段として検討される時期に至っている。

(2) 低速大型ディーゼル機関

  近年開発された技術としては,2サイクル機関の過給方式の採用,溶接構造の採用,低質燃料油の使用などがあげられるが,最近の開発目標は常用出力の増大とコスト低減に向けられている。出力の増大は正味平均有効圧力の増大により,1シリンダー当り2300馬力にも達し,1基で2万7000馬力の超大型機関の製作が可能となった。この結果,ディーゼル機関は従来蒸気タービンの独占分野と考えられていた大出カ範囲まで進出した。なかでも純国産技術で開発された三菱重工のUE機関は唯一の技術輸出の可能な機関として期待されている。
  今後の技術開発上の課題としては,機関部の自動化に伴い耐久性能を向上させ無開放運転時間の延長を図るとともに,船舶の大型化高速化に対処して出力の向上を図ることなどがあげられる。このためには,さらに過給機性能の向上,シリンダーなどの冷却法の改善,機関の熱負荷に対処する研究開発が必要である。

(3)中低速中小型ディーゼル機関

  この分野における低速機関の製造技術は,わが国独自の製造技術により開発されたが,製造業者の大半が中小企業であり,その開発が遅れている。したがって今後性能の向上を図るために,過給度および平均有効圧力の向上による出力の増大と低速2サイクル機関の開発などを行なう必要がある。
  一方,この低速機関の需要の分野に,最近欧米ではすでに実用化されている中速機関が進出してきた。わが国の中速機関は艦艇用ならびに発電用として独自の技術により開発された三菱UEVをはじめ,導入技術により製作された多くの機関があるが,軽量で高出力が得られる点において低速機関より優れている。
  特に最近,機関部の自動化と相まって,信頼性の得られる多基1軸推進方式によるいわゆるマルティプル機関として,大型船中小型船ともに注目を浴びてきている。

(4)高速ディーゼル機関

  最近水中翼船をはじめとする高速艇の進出や,小型船の高速化の傾向により高速ディーゼル機関の需要が増大しているが,車両用機関または自動車用機関などに減速装置をつけて使用されている状況にある。したがって,その開発も船用機関としてり独自のものでなく上記車両機関などの開発と相まって行なわれている実状にあるが,今後舶用特性の向上を図るために,小型軽量の減速装置付クラッチの開発や耐久性能の同上などを図る必要がある。

(5)新型式機関

  原子力機関の開発について別項にゆずるが,そのほか,ガスタービン機関,フリーピストンガスタービン機関,ロータリー機関については,欧米からの技術導入によりその開発が進みいよいよ実用化の段階にはいろうとしている。これらの機関は一部を除き最近の新しい輸送方式である大型水中翼船,水上用エアクッション艇,ジェット推進艇などの機関として重要性が一段と注目されるに至った。


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