4 管制方式の動向


  前述の交通量の変化にみられるとおり,わが国における航空交通の特色は,量的には交通量の増大の傾向であり,質的には航空機の大型化およびジェット化である。また,今一つの見のがせない傾向は,回転翼航空機の伸びにみられるように,航空交通機関の多様化である。このため,航空路上およびターミナル空域における航空交通の管制は,極端に複雑性を増し航空機相互間における異常接近,運航時間の遅延,管制違反等の異常事態が増加する傾向を生じている。
  このような事態に対応して管制業務の近代化および合理化を図るためとられた措置の主なものをあげると,高高度管制の実施,管制業務のレーダー化,東京,大阪,名古屋空港周辺における異常接近防止措置,東京からの西行ジェット便に対する短縮航空路の設定がある。

(1) 高高度管制の実施

  わが国では,昭和37年5月5日から高高度管制を実施している。これは,管制空域を7300メートル以上の高高度空域と7300メートル未満の低高度空域の二層に分け,ジェット機がその性能を最大限に発揮できるよう狭い帯状の管制区を廃して,日本本土上空の7300メートル以上の全域を管制区としたほか,航空機間の間隔設定の方法等について下層のそれとちがつた全く新しい管制方式を採用したものである。

(2) 管制業務のレーダー化

  現代の航空機の航法は,主として,無線施設により進行方向や距離を知る所謂無線航法であるが,航空交通管制において,管制官の判断り基礎となる航空機の位置の把握は,無線電話による航空機からの位置通報に頼つているため,航空機の位置の迅遠,正確な把握ば困難であり,航空機間の安全間隔は必要以上に十分な時間,距離をとつている。これをレーダー化した場合,航空機の位置を直接確認することができるため,安全間隔は少なくて済み,空域の有効利用ひいては航空機の運航の安全の確認および迅速化を推進することができる。
  管制のレーダー化については,昭和36年度から3年計画で東京国際空港および大阪国際空港に捜索レーダーと精測レーダーが設置されることとなりその第一歩を印した。空港周辺のいわゆるターミナル空域の管制用レーダーとしては,その後,名古屋(昭和37年度から3年計画で完成)および宮崎(昭和38年度から3年計画で完成)の各空港にそれぞれ東京・大阪と同型のレーダーの製作および設置工事が進んでいる。ターミナル管制用捜索レーダーは半径100キロの円内の区域,高度8000メートルまでの範囲を捜索できるものであつて,精測レーダーは,一定の基点から航空機を滑走路まで誘導する目的をもつものである。
  また,このほか,航空路上を飛行する航空機を管制するために航空交通制本部に長距離航空路監視レーダーを設置する経費が昭和37年度予算から3年計画で計上されており,昭和40年度中にはレーダーによる航空路管制業務が開始される見込みである。このレーダーは半径360キロの円内の区域,高度2万4400メートルまでの範囲を捜索できるレーダーである。

(3)東京・大阪・名古屋空港周辺における異常接近防止措置

  東京,大阪および名古屋の各空港の交通量の増加は著しく,例えば東京では,昭和36年の4万2597回から昭和38年には9万8135回(130%増),大阪では昭和36年の2万6708回から昭和38年には7万2211回(170%増)とのびており加えて航空機の多様化の傾向から,各空港の計器飛行最終進入経路周辺の空域において計器方式によつて飛行する航空機と有視界方式によつて飛行する主として小型機との間には異常接近が発生しているので,これの防止のため,最終進入経路付近の一定の空域を通過しようとする航空機は,有視界飛行方式によるものであつても,事前に管制塔の指示を必要とすることとし,昭和38年12月1日から実施中である。

(4) 東京西行便に対する短縮航路の設定

  従来東京から大阪,福岡や京城方面に向かう西行便は,通常東京から館山・大島を迂回して航空路green4を経由しなければならなかつた。これは横田・立川・厚木を中心とする軍用飛行場周辺上空のふくそうする航空交通を避けるためと,従来のプロペラ機は日本アルプス上空を飛行できないという機材の性能上の問題を考慮しての措置であつた。しかし最近における主要幹線のジェット化に伴い,大島経由の迂回飛行による運航費面での不経済性が顕著化してきたこと,および機材の性能上の問題も解消されたこと,さらには東京国際空港における中距離レーダーの使用開始に伴つて,これと横田レーダーとの間の効果的な管制引継ぎが可能になり,横田・立川・厚木周辺の交通ラッシュの問題も解決されるに至つたこと等の事情にかんがみ,本年6月20日から東京西行線に対する短縮航路として東京から名古屋,大阪方面へ直航できる“羽田ジェット・リバーサル方式”を設定した。この方式は東京国際空港を離陸した航空機は高度3,000メートルまで上昇し再び東京国際空港上空へ逆行して指定の高度へ上昇しながら西行するものであつて,東京一福岡便,東京一京城便のジェット機などが利用している。本方式の短縮航路によれば,従来の飛行経路に比し,距離にしておよそ93キロ,時間にしてジェット機で約10分の短縮となり,運航費はかなり節減されることになる。


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