2 国民の観光旅行の現況
わが国民の年間の旅行量については,いろいろな調査が行なわれているが,「国民の旅行に関する世論調査」,「全国旅行動態調査」,「消費者動向予測調査」,「全国修学旅行実態調査」等の諸調査の結果を総合して推定すると,最近において,1年間に国民が泊りがけの旅行をした回数は約7千万人回ということになる。
また,旅行の期間についてみると,全国旅行動態調査によると,一回の旅行の平均日数は,3.8日であり,最近における一年間の国民の1泊以上の旅行の延日数は,約2億7000万人日,延宿泊日数は2億人泊である。
ところで,消費者動向予測調査によると,都市世帯で,昭和36年8月の調査時から昭和38年8月の調査時までの2年間に,一泊以上の旅行をした世帯の割合は,57%から,61.2%へと増大しており,同じく日帰り旅行をした世帯の割合は,4よ6%から45,3%へと増大しており,旅行者数が近年増大していることを示している。また,同調査によれば,旅行した世帯の過去1年間の一世帯当たり平均旅行費用は,昭和36年8月の調査時は1万8600円であつたが,昭和38年8月の調査時には2万6900円と1.6倍になつている。
このような旅行者数の増加とこれに伴う旅行消費の増大とが,最近の旅行ブーム,観光ブームを形成しているのであるということができよう。
次に,現在の観光旅行の形態をみると,団体旅行によるものが多く,昭和37年8月の消費者動向予測調査によると,形態別にみた旅行回数は,泊りがけの旅行では,約2分の1が団体旅行,約3分の1が家族づれの旅行となつている。また,国民の旅行に関する世論調査によつても泊りがけの観光旅行においては,団体旅行をしなかつたものは全体の34%に過ぎず,残る60%のものがなんらかの形で団体旅行を行なつており,半数に近い49%が団体旅行だけしか行なつていないのである。団体の種類をみると,職場団体(同業組合,農業協同組合等を含む。)や町内会,帰人会等の地域団体がその大半を占めているのであるが,国民の観光旅行においてこのように団体旅行が大きな役割を占めているということが,すぐさま国民が団体旅行を好んでいるということには必ずしもならないのであつて,旅行に対する知識が少なく不安感が先に立ち自ら積極的に旅行を計画実行できないこと。団体旅行だと費用が割安になること,旅行のための積立てをする機会が団体旅行に多いことなどの理由により,団体旅行に参加する場合が多かつたものと考えられる。「国民の旅行に関する世論調査」をみても,団体で行きたいというもの(27%)より,家族とか友人とかの小人数で旅行したい(67%),その他(6%)というものが圧倒的に多いのであつて,今後条件が十分整備されれば,小人数の旅行の割合は増加していくのではないかと思われる。
また,最近における重要な問題として,観光を目的とする海外渡航の自由化の問題がある。
従来,海外渡航は業務渡航など一部のものが認められていたにすぎないが,昭和39年4月から観光渡航も1人年1回500ドル(外国における滞在費等)の範囲内で自由化された。
観光渡航の自由化は,直接的にはIMF8条国移行に関する問題であるが,その背景には,OECDを中心とする世界的なツー・ウエイ・トラベル(観光客の相互交流)の動きがあつたのである。すなわち,従来観光客の受け入れだけに終始し,自国民の海外旅行を制限している国に対して,ツー・ウエィ・トラベルを要請する気運がアメリカをはじめヨーロッパのOECD諸国の間で強まりつつあり,1963年夏ローマで開かれた国連主催国際旅行・観光会議においてもこの気運が強くみられたのである。このような傾向は,今後ますます強まるものと思われる。
一般的に生活水準が向上するに伴つて,個人消費支出のうちレジャー関係支出が増加する傾向が見られるが,なかでも観光旅行への関心や意欲が積極的なものとなる。このため,前にみてきたように国内における旅行は,年々増大している。したがつて,観光渡航が制限付きとはいえ自由化されたことは,国民の海外観光旅行への関心をいつそう高めるとみられ,今後の増大が予想される。
観光基本法の前文にもうたわれているように,国民が広く海外を旅行し,視野や見聞を広めることはきわめて有益なことと思われる。しかしこのことは,一方では,海外旅行の支払を増大し,旅行関係国際収支を悪化させることにもなる。
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