1 海外観光宣伝の現況と問題点外客をわが国へ誘致するためには,まず海外観光宣伝を行なうことが必要である。観光宣伝は,第一に,わが国の観光上の魅力を紹介して外国の人々にわが国への観光旅行の意欲を起こさせ,第二に,このような意欲をもつた人々への具体的な案内を行なつて,わが国への観光旅行を決心させ,さらには,外国の旅行業者,交通業者等の関係業者にわが国の観光旅行に関する情報の提供を行なつて,わが国への観光旅行を決心した人々に対し,これら関係業者も積極的にかつ的確にわが国の旅行に関する情報の提供やあつ旋等を行なうことができるような状態を作り上げておこうとするものである。 このようなわが国の海外観光宣伝活動は,国の政策として古くから行なわれており,沿革的には昭和6年に設立された財団法人国際観光協会が,在外宣伝事務所,在外宣伝嘱託員を設置して行なつていた活動にさかのぼれる。戦後は,幾多の変還をへたのち,昭和34年以来日本観光協会法に基づいて設立された日本観光協会が,政府の補助金と地方公共団体および観光関係事業者からの拠出金を財源として,統一的,かつ,一元的に海外における観光宣伝活動を行なつてきたが,同協会は,国際観光振興会に改組さ札海外観光宣伝活動のための政府代行機関として,その組織と活動を強化することとなつた。 現在,国際観光振興会の海外観光宣伝は,世界主要都市に配置した海外宣伝事務所と宣伝嘱託員によつて構成されている。 海外観光宣伝事務所は,昭和27年にニューヨークに設けられたのを始めとして,28年度にサンフランシスコ,31年度にホノルルとトロトン,34年度にパリとバンコック,35年度にシカゴ,36年度にロンドンとシドニー,37年度にダラスとフランクフルト,38年度にサンパウロと香港がそれぞれ設置され,昭和39年度に開設されることになつているジュネーブを含め,39年度中には14カ所となり,15カ所に置かれた宣伝嘱託員を加えて海外観光宣伝網が形成される。こととなる。しかしながら表 〔IV−12表〕に明らかなように,世界各国の宣伝網と比較してみても,わが国のそれは決して十分なものとはいえず,その強化が望まれるところである。さらに,このような宣伝網とともに,海外観光宣伝にとり重要なものは,宣伝予算である。たとえ宣伝網が整備されても、十分な宣伝予算が確保されなければ、効果的な宣伝活動を行なうことはできない。 そこでこの点に関するわが国の現状をみると,昭和38年度の海外観光宣伝費(日本観光協会の総事業費から,国内関係事業費を控除したものは135万7000ドルであり,これは昭和36年の87万2000ドルに比べればかなり強化されてはいるが, 〔IV−13表〕に掲げられているとおり諸外国のそれと比較すると,いまだ,欧米の観光先進諾国の300万ドル前後に遠くおよばないのはもちろん,インドよりも低位にとどまつている。 このため,たとえば,観光宣伝の弾丸ともいうべき宣伝印刷物についてみても,昭和38年度の作製部数は44種295万2,500部にとどまり,使用外国語も,英,仏,独,スペイン,ポルトガルの5カ国語にすぎず,需要に対して十分配付することができない現状にある。また,新聞雑誌の広告等宣伝効果の大きい民間の宣伝媒体の使用については,膨大な宣伝費を使う他産業の宣伝戦の渦中にあつて,効果的な観光宣伝を行なうために十分な予算を使つて継続的に行なわなければならないが,このような民間の宣伝媒体を継続的に利用するには,現在の宣伝予算はあまりに少な過ぎる現状にある。 一方,現在,諸外国の海外観光宣伝活動が,その激しさを増しつつあることを考えるならば,これをそのまま放置することはできないところであり,光宣伝事務所都市別配置わが国の海外観光宣伝綱を拡充するとともに,特にその宣伝予算の充実強化を図ることが,きわめて緊要の措置であるといわなければならない。 以上のほか,最近,アメリカの海外観光宣伝が積極化しつつあり,また,ヨーロッパでは,ヨーロッパ地域観光委員会(ETC)のもとに,積極的な共同宣伝を行なつているといつた事態にかんがみ,これらに対抗して,太平洋観光協会(PATA)の宣伝活動を積極的に支援するとともに,さらにわが国を中心とした太平洋・アジア地域の観光市場を調査し,それに適合した共同の観光宣伝を行ない宣伝効果をより高めることおよびこれまでの自国の観光事情についての一般的な紹介にとどまつていたいわゆるソフト・セールス(Soft Sales)方式から,旅行意欲を現実の旅行に転化させるための効果が大きい具体的な旅程の作成や費用まで掲げたいわゆるハード・セールス(Hard Sales)方式の宣伝方法を採用すること等の可能性について早急に検討する必要があろう。
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