2 外客向の旅行関係施設


(1) 宿泊施設

 イ ホテル

      外客向宿泊施設のなかで,主たる役割を果たしているのは,ホテルである。ホテルは,沿革的にも外客の宿泊を目的として造られたもので,戦前のわが国の国際観光の最盛時であつた昭和11年には,全国で112軒に達したが,戦災,進駐軍の接収等のため,戦後一時著しく衰微し,その後わが国の経済の復興と来訪外客数の増加とともに,今日の隆盛をみるにいたつた。わが国の主要ホテルを構成員とする社団法人日本ホテル協会加盟のホテルは,昭和39年6月1日現在7148軒で,客室数は1万5224室である。
      ホテルに対する助成策としては,税法上の特別措置と財政扱融資の制度が設けられている。まず,税法上の特別措置としては,昭和24年に国際観光ホテル整備法が制定され,同法により一定の施設基準に適合するホテルが登録され,その固定資産の特別償却,固定資産税の軽減等の措置が講ぜられている。この登録ホテルは,昭豹39年6月1日現在,118軒で,客室数は総数1万1782室,そのうち基準にあう洋室数1万1161室に達している。なお,この国際観光ホテル整備法は,昭和39年5月に,登録ホテルにおける業務の適正化と水準の向上を図るため,施設基準を含めて所要の改正がなされている。
      また,財政投融資としては,ホテルの建設に対して日本開発銀行の融資が行なわれており 〔IV−16表〕にみられるように,昭和26年度から昭和38年度までに142件,174億円余の資金が融資された。なお,同期間におけるこの融資金額を一部とする建設資金総額は830億円におよび,これにより整備された客室数は1万2143室である。ここ数年のおう盛なホテル整備意欲を反映してこの融資額は,昭和37年度には約3σ億円,昭和38年度には約60億円と急増している。これらの融資条件は,利率年8分7厘,融資期間は10〜15年となつているが,これは,戦前の大蔵省資金部によるホテルに対する融資が利率年3分4厘〜4分1厘,還付条件は3カ年据置,22〜27カ年であることや,イタリー,フランス,ポルトガル,スイス,ノールウエイなどの諸外国のホテルに対する融資が利率年2〜5分,融資期間は長いもので30年以上てあることをみると,必らずしも有利な融資条件であるとはいえない。

      最近におけるホテルの客室数の推移をみると,最近10年間に約3倍という急激な増加を示しているが 〔IV−17図〕にみられるように来訪外客の延滞在日数の増加に比べるとその伸びは下回つている。このため 〔IV−18表〕にみられるように,ホテルの客室利用率は,上昇の傾向にある。しかし,ホテルの経営状況をみると,総資産中に占める固定資産の比率が著しく高く,新設ホテルの経営は容易でないが,特に,最近では地価の高騰等のため建設資金がかさんでおり,これによる借入金の増加は,金利負担の増大をもたらすなど,その経営はますます苦しいというのが現況である。
      なお,わが国のホテル料金は,ヨーロッパ諸国と比べて一般に割高といわれているが,これは,同様の施設やサービスであるにかかわらず,ホテル料金が高いというよりは,むしろ安い料金のホテルがないことを指している。この背景には金利が高いこと,地価が高いため高級ホテルでなければ採算がとりにくいこと,自国民の宿泊を主として対象とするヨーロッパ諸国のホテルと異なり,中産階級以上である来訪外客の宿泊を対象としていること等の原因があるものと考えられる。しかし,来訪外客の増加につれて,比較的低所得の外客が次第に増加しているので,これらの外客のために1泊5〜6ドル程度の中級ホテルの整備が望まれるところであり,そのためには融資条件の緩和等の措置が望まれるところである。

 ロ 旅館

      一方,わが国の伝統的な宿泊施設である旅館についても,最近は相当外客に利用されてきている。
      特に,わが国の人情,食事,生活,習慣等を身をもつて体験できるうえから,旅館は,外客にとつてかなり魅力ある存在となつてきている。外客の宿泊に適するように整備された旅館によつて社団法人国際観光旅館連盟が結成されているが,これに加盟している旅館は,昭和39年6月1日現在,1081軒で,客室数は3万4413室である。
      旅館に対する助成策は,ホテルに準じて行なわれている。まず,国際観光ホテル整備法は,登録旅館にも適用され,税法上の特別措置が講ぜられている。登録旅館は,昭和39年6月1日現在494軒で外客向きとして基準にあう客室数は1万3149室となつている。また,財政投融資は,従来より中小企業金融公庫等が行なつていたが,昭和37年度からは,さらに日本開発銀行と北海道東北開発公庫が地方開発の一環として国際観光上からの見地を含みつつ旅館の新築,増築に融資を行なうこととなつた。

(2) その他の旅行関係施設

 イ 食事施設

      一般に外国旅行者にとつて,食事をホテルにおいてのみとるということは味気ないことであり,外国人旅行者は,ホテル以外においても,快適に食事をとることができるよう望むものである。特に外国人旅行者にとつて,訪問国においてその国独特のすぐれた料理を,快適にとることができるのはきわめて旅行上の大きな魅力の一つである。しかるに,わが国は,外客の大きな割合を占める欧米人にとつて,言語障害が高いこと,食事に関する習慣が異なること等により,一般のレストラン等でこのような外客の希望を十分に満たすことができない状況であり,外客の希望を満たすことのできる快適な食事施設の整備が望まれている。特に,最近とみに外客の興味と関心を呼んでいる日本独特の料理については,書語障害等の問題がなく外客が快適にこれら料理の提供を受けることのできる施設が整備されれば,外客はより快適な旅行を行なうことができ,わが国の観光の魅力を増し,外客の消費額を増加させる上できわめて有効であろう。
      このようなところから,現在,外客の利用に適する施設およびサービスを有するわが国の一流レストランより,社団法人国際観光日本レストラン協会が結成され,外国人観光客を接遇するレストラン業者の緊密な連けいの下に,レストラン諸施設および接遇の充実改善を目的とし,共同宣伝の実施,従事員に対する外国語,マナー,一般常識等の講習を行なつている。同協会に加盟しているレストランの数は,昭和39年4月1日現在,全国で100軒,これらの収容人員は約3万2000人に達している。これらのレストランには,西洋料理はもちろん,すし,テンプラ,スキヤキ等世界的に有名な日本料理その他世界各国の料理を提供する店が含まれている。また,これらの店のうち,すし,テンプラ,スキヤキ等の日本料理を提供する店は,いくつかのパッケージ・ツアーにも組み入れられている。
      このように外客接遇上重要な役割を果たしている同協会加盟レストランも,その数においては外客接遇網を形成する上になお,きわめて少なく,しかも,この少ない同協会加盟店はそのほとんどが東京,京都等に偏在している。今後,加盟店数の増加,特に加盟店数の少ない地域における増加が強く望まれている。なお,ホテル,旅館にみられる登録制,
     地方税の不均一課税,耐用年数の短縮,外貨の割当て,財政資金の融資等国家による助成策はなんら行なわれておらず,今後の検討すべき問題とされている。

 ロ 休憩施設

      現在,外客の旅行にとつて最も問題となるのは便所の不足である。旅行者にとつて旅行中の便所の不足は,旅行を不快なものとするものであるが,現在では,便所を中心とする清潔な休憩施設が少なくわけても,洋式便器を備えたものは,ほとんどない状況であり,和式便器をほとんど利用することのできない外客にとつては,大きな問題である。この種の施設は,まつたく私企業の採算に合わないので,その整備は,国又は地方公共団体の施策にまつ面が大である。このため,昭和38年度から国が地方公共団体に補助金を交付して男女別に明確に区分された洋式便所を主体とし,手洗い設備,洗面設備,化粧設備等の附属設備を備えたレストハウスを整備することになり,昭和38年度には,2850万円を交付し,19ケ所の整備を行なつた。

 ハ 案内施設

      わが国のように外国語の通用しにくい国では,外客に快適な旅行を行なわせるために,観光に関する適切公正な情報の提供等を行なう案内施設がぜひとも必要である。この案内施設の主なものとしては,国際観光振興会の総合観光案内所,案内地図板等がある。

 (イ) 総合観光案内所およびテレツーリストサービス

      わが国では従来,外客に対して公正な立場から旅行に関する情報を提供するような機関はなかつた。そのため,客は旅行に関する情報を得ようとするときには,旅行あつ旋業者の店舗等を利用せざるを得ず,したがつて必ずしも公正な案内や情報の提供を受けることができなかつた。このようなところから,外客に常に公正な立場からわが国の旅行等に関する情報の提供等を行なうことができるような体制を作るよう強く望まれていた。このような要望を受けて,1億円の政府出資により,昭和37年12月,東京の有楽町に総合観光案内所が開設されたが,同案内所では,英,フランス,ドイツ,スペインの4カ国語を用いて,(1)旅行計画の相談,(2)観光情報の提供,(3)ショッピングの案内,(4)食べ物の案内,(5)日本文化の紹介,(6)ユースホテルの案内およびあつ旋,(7)家庭訪問の案内およびあつ旋,(8)産業その他特別な見学の案内およびあつ旋などを行なつている。これは非営利的公共機関であり,各観光関係事業者の利益にとらわれることなく,日本に関する正確な知識と旅行に関する正しい知識とを与えているから,日本に不案内な外客にとつてきわめて便利かつ不可欠な機関となりつつあり,利用者も増加しつつある。さらに昭和38年度には5000万円の政府出資により,京都には総合観光案内所が,東京国際空港には東京の総合観光案内所の出張所がそれぞれ設けられた。
      東京における総合観光案内所,近畿観光の中心である京都に総合観光案内所および日本の表玄関である東京国際空港における東京の総合観光案内所の出張所が相互に情報交換を行ない,有機的な活動を行なうことになれば,きわめて外客にとつて便宣できめの細かい旅行案内網が形成されるものと期待される。
      次に,テレツーリストサービスとは,来訪外客に対して,公衆電話により,外国語で観光に関する情報の提供を行なうものであるが,英国においてはすでに英国旅行休暇協会等が1958年以来実施してきており,きわめて顕著な実績をあげている。わが国においても,本年はオリンピック東京大会開催のため,このようなサービスの実施が強く望まれていたが,この要望に答え,国際観光振興会が日本電信電話公社等の協力を得て,オリンピック東京大会開催時期以降とりあえず英語を使用して,本サービスが実施された。今後,特にヨーロッパから多数の外客を迎えることが国際観光の課題であり,本サービスに英語のみを使用するということは,このような観点から決して十分なものではなく,今後外国語を増やすことが強く望まれるところではあるが,とにかくこのようなサービスが実施されることになつたことは外客接遇向上の観点から一大進歩であり,その成果が注目されるところ
     である。

 (ロ) 案内地図板およびオフイシャルガイド

      これは,総合観光案内所等で一般的な案内を受けてきた外客に,各観光地でさらに細部の案内を行なおうとするものである。案内地図板は,昭和38年度から国が地方公共団体に補助金を交付して,その整備を図ることになつた。
      昭和38年度には,150万円を交付し,8ケ所の国際観光上の要所に英文の標示の案内地図板を建設している。このような案内地図板が各観光地に整備されることとなれば,外客の旅行にとつてきわめて便宜なものとなるものと期待される。
      案内勉図板は,観光地における一般的な案内施設であるが,そのほか,わが国の多くの公共的な場所における案内標識について,わが国は外国語の標識がきわめて少なく,外客の苦情の対象となつている。今後,外客の多く利用する公共の場所においては,外国語の標識が整備されるよう強く望まれている。
      次にオフイシヤルガイドとは,来訪外客に対して,わが国を旅行するのに必要な正確かつ公正な知識を与えることを目的として英語でわが国の概説,外客接遇機関網地方の特色等を記載した旅行案内書であり,運輸省の監修の下に国際観光振興会が編集したものであるが,広く来訪外客に領布され外客の好評を得ている。
      本年は,オリンピック東京大会に備えて,その内容の整備が望まれていたが,その要望にこたえ,特に重要な総合観光案内所,一般旅行あつ旋業,ガイド,ホテル,外客向旅館,レストランおよび土産品,産業観光システム,出入国手続き等の外客接遇機関網についての内容を抜本的に整備しなおし,本年9月に発行された。
      次に日英対照会話テキストについてであるが,オリンピック東京大会時には特に多数の外客が集中的に来訪し,すでに述べてきた既設の外客案内網では十分に消化しきれず混乱を生ずる恐れがあつたところから,このような混乱を防ぎ外客に対する旅行の案内の一助とするため国際観光振興会が日英会話対照テキスト約10万部を作成し,オリンピック時に来訪した外客に無料で配布した。
     二 両替施設
      さらに,両替施設についても,外客がわが国で消費活動を行なうことからきわめて重要な施設である。現在,外客は,外国為替公認銀行の外国為替取扱店舗およびホテル,旅館,土産品店等のうち両替商として認可を受けたところでしか,外貨と邦貨の両替ができないのであるが,この外国為替取扱店舗および両替商は,全国で,それぞれ約790店と約520店,計約1310店に達している。しかしながら,その地域的分布状況をみると,ほとんどが,大都市に集中しており,地方の観光地における両替施設の整備が望まれている。また,周遊観光船が入港した場合,一時に多量の両替業務の必要性が起るが,場合によつてはこれに十分な両替業務を行なつていない場合があり周遊観光船に対する両替業務体制の確立が望まれている。


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