1 通勤・通学輸送力の増強


  通勤・通学時の混雑緩和のために,東京,大阪,名古屋を中心とする三大都市交通圏においては,地下鉄の建設,郊外私鉄の都心直通乗入れ等交通機関の輸送力増強の努力がつづけられている。その結果 〔1−4−6表〕にみられるとおり各交通機関の車両走行キロは飛躍的に伸長しており,昭和30年度に比較して38年度では国鉄,私鉄(地下鉄を含む),バスの車両走行キロは,三大都市交通圏の合計で,それぞれ,2.1倍,1.7倍,1.8倍となつている。しかし,大都市への人口集中は,この輸送力増強のテンポに勝るともおとらぬスピードでつづいており,通勤・通学輸送における混雑はあまり緩和されていない。 〔1−4−7表〕でわかるように,高速鉄道では,最混雑時において乗車効率が250%を越える区間が相当あり,バスについても乗車効率100%を越える区間がかなりみられる。

  各交通機関別に輸送力増強の現況とその対策をみると,都市交通の根幹となる地下高速鉄道については,新線建設が進められ,東京では,39年度中に8.2kmが新規開通して,東京の地下鉄は,全長75.7kmとなり,大阪では7.2kmが新規開通し,全長27.0kmとなつた
  これに名古屋の全長8,5kmを加えると,三大都市合計では全長111.2kmにのぼつている。地下鉄網の整備については,都市交通審議会の答申に基づき,上記のように建設が進められているが 〔1−4−8表〕に示すとおり,50年度までに,東京附近では267.7km,大阪附近では99.0km,名古屋附近では78.7kmの建設を行なうこととなつている。

  国鉄については,第2次5カ年計画(昭和36〜40年度)の一環として,大都市における輸送力の増強がつづけられているが,39年度においても,40年3月に大阪で環状線の線増工事が完成し,完全環状運転が可能となつたことを初めとして,線路増設工事が各所で進められ,また,車両増備,ホームの延伸,運転間隔の短縮等が行なわれた。このほか,東京附近では根岸線(桜木町・磯子間)が39年5月,日本鉄道建設公団の手によつて完成,開業している。国鉄ではさらに新長期計画(昭和40〜46年度)を策定し,東京および大阪附近に5,150億円を投入し線路増設を中心とする通勤・通学輸送対策を講じることとなり,46年度までに東海道本線,中央線,総武線,常盤線等19線区について線路増設を行ない,これに関連して車両増備,ターミナル駅の改良,ホームの延伸等を行なうことになつている。また,日本鉄道建設公団では,東京附近における国鉄の輸送の円滑化を図り,かつ今後の輸送需要の増加に対処するため,46年度まで武蔵野線,根岸線(磯子・大船間)などを建設することとしている。
  私鉄については,大手私鉄輸送力増強3カ年計画(昭和36〜38年度)の完成後もラッシュ解消にはいたらず,引きつづき総額2,246億円の規模をもつ輸送力増強第2次3カ年計画(昭和39〜41年度)を策定,実施中である。
  これにより39年度には新線建設,線路増設等のほか,鉄道地下移設による踏切の除去,私鉄〜地下鉄間の相互乗入れ等においてみるべきものがあり,そのほか車両の増備,ホームの延伸,運転間隔の短縮等が行なわれた。
  バスについては,大都市に集中する人口が都市周辺の国鉄,私鉄の駅の近辺からしだいに離れた地域に定着し,いわゆるバス依存地域における輸送需要は増加の一途をたどつている。このため,路線の新設,延長,車両の増備,運行回数の増加等の輸送力増強を図つているが,路面交通の渋滞,駅前広場の狭小などにより,運行回数の増加が制限され,輸送力の増強が輸送需要の増加に追いつかない現状である。この現状を打破するために,バスターミナルの設置,主要道路の立体交差,路線バスの優先通行を確保するための交通規制等の措置を強力に推進する必要がある。
  このような施設拡充の対策と並行して,通勤・通学時の混雑緩和のため,時差通勤・通学が実施されている。時差通勤・通学については,35年から国鉄が各官庁,会社,学校等に呼びかけてきたが,36年に総理府交通対策本部においてとりあげられ,39年には時差通勤対策懇談会(会長総務長官)が設置されている。この結果,時差道勤・通学への協力者数は,38年には東京地区41万人,大阪地区19万人,39年には東京地区72万人,大阪地区21万人にのぼりかなりの効果をみせている。


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