1 損益状況


  昭和39年度における企業経営の一般動向を日銀「主要企業経営分析」によつてみると, 〔1−5−1表〕に示すように,景気後退の影響をうけて全産業,製造業とも,売上高の伸びが鈍化し,純利益も減少している。

  運輸事業においても,外航海運業,航空運送業など一部業種を除き, 〔1−5−2表〕に示すように,39年度においては,景気後退により,収入の伸びが鈍化した一方,費用が人件費,減価償却費,金融費用等の増大によりふえているため,純利益が減少しており,業種によつては赤字決算となつている。

  業種別にみると,国鉄については,景気後退のため収入の伸びが小さかつた一方,賃金上昇による人件費の増大,設備投資拡大に伴う支払利息,減価償却費の増大により費用が増加しているため,39年度には赤字を計上している(なお,償却方法を中心とする会計制度の改正も赤字計上となつた一つの理由である)。大手私鉄,営団については,営業収入の増加が小さかつたため営業利益はやや減少しているもようである。中小私鉄,公営鉄道の38年度損益は,営業利益において,中小私鉄が若干の黒字,公営鉄道が大幅な赤字であつたが,営業外損益を含めた純損益でみると,両者ともに大幅な赤字であり,経営状態はきわめて悪い。
  自動車運送事業については,調査対象事業者が異なるため,38年度と39年度とを比較することは難しいが,収入の伸びの鈍化,費用の増大により,各企業の損益状況は悪化している。すなわち,39年度においては乗合バス,貸切バス,路線トラックの各業種が赤字,ハイヤー・タクシー,区域トラック,小型トラックの各業種は純利益の減少となつており,また,公営バス(6大都市)は毎年大幅な赤字を出している。
  通運事業についても費用増大により営業利益が減少している。
  外航海運業の収益状況は比較的好調で,貿易量の増勢を背景に船腹量の増大,海上運賃市況の好転に支えられ,また企業集約による効果も手伝つて順調な伸びを示し,償却前利益は対前年度比22.2%の増加を示しており,減価償却不足額も大幅に減少した
  これに対し,内航海運業は,船腹過剰の上,景気後退の影響も加わつて経営状況は著しく不振である。また,旅客定期航路事業の経営は,観光航路を除き需要が停滞していることもあつて依然苦境にある。
  航空運送業(主要2社)については,国際路線の収支状況の好転により,増収,増益となつているが,国内線については,需要の伸び悩みと費用増大のため,経営状況は芳しくない。
  倉庫業は中小・零細企業が多く,経営状況は一般に悪いが,主要6社についても,39年度には収入の伸びに比べ費用の増加が大きかつたため,純利益が減少している。
  ホテル業は,急速なホテル建設に伴い,減価償却費,支払利息が大幅にふえた一方,収入の伸びが小さかつたため,経営が悪化している。
  以上,運輸事業の損益状況の概要を述べてきたが,ここでとりあげている企業は,比較的規模が大きく,経営状況も比較的良好なものが多いことに注意する必要がある。すなわち,自動車運送事業,通運事業,内航海運業,旅客定期航路事業,倉庫業等の業種においては,本節でとりあげたもののほかにさらに中小・零細な企業がきわめて多く,これらの企業の多くが苦しい経営を余儀なくされていることを考慮に入れなければならない。


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