7 望まれる経営基盤の強化
以上述べたところから,明らかなとおり,運輸事業の経営状況はあまり芳しいものでなく,経営基盤のぜい弱なものが多い。とくに問題とされるのは,近年の労働力需給のひつ迫化を背景とする人件費の上昇,設備投資拡大に伴う減価償却費,金融費用等資本費負担の増加であつて,この二つの要因がからみあつて運輸事業の経営基盤を弱いものにしていることには十分注目する必要がある。
こうした状況に対処するためには,運輸各事業は,まず,要員の合理化,作業および事務の機械化,合理化等経営の合理化を積極的に推進しなければならない。また,需要の動向を的確に把握し,それに見合つた経営を行なうこと,積極的に需要を開拓することなども必要である。
こうした経営全般にわたる合理化を行なつても,なお改善の不可能なものについては,運賃料金の適正化,あるいは補助金の交付等の対策が必要とされよう。たとえば,とくに経営の行き詰つている離島航路事業については補助金が交付されている。
また一方,過当競争の排除,企業規模の拡大,適正化等も業種によつては,重要な対策になると考えられる。企業規模の拡大については,39年4月実施された外航海運業の集約化が好結果をもたらしたことが注目される。
運輸業は,その事業活動を営んでいく上で巨額の固定設備を必要とすることから,比較的規模の大きな業種が多いが,一方では貨物自動車運送事業,通運事業,倉庫業,港湾運送業などのように,中小・零細企業が多い業種もあり,その近代化,合理化が大きな問題となつている。このため,「中小企業近代化促進法」,「中小企業近代化資金助成法」等に基づき.中小企業の近代化,合理化を進めている。
過剰船腹による過当競争から経営の不振を招いている内航海運業については,39年7月施行されたいわゆる内航二法(内航海運業法および内航海運組合法)に基づき,適正船腹量・最高限度量の設定,標準運賃の実施などの施策を進めている。
このほか,輸送需要の伸び悩みや輸送需要の内容の変化(定期外旅客のバスへの転移,収益性の低い定期旅客の増加)により赤字経営をつづけている地方中小私鉄について,その対策が進められており,40年7月には中小私鉄振興に関する懇談会意見書が提出された。また,国鉄については,国鉄基本問題懇談会において,国鉄経営に関する基本問題,とくに40年度以降の設備投資計画,それに対する資金確保の方策が検討され,39年11月に意見書が提出されている。
運輸事業は,産業,生活の基盤として重要な役割を担つているが,健全な事業経営なくしては,十分その使命にたえることができない。したがつて,その経営基盤を強化して国民の要求する輸送サービスを提供できるような体制を早急につくることが望まれる。
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