1 運賃料金改訂の実態および背景
最近数年間における運賃料金の改訂状況はつぎのとおりである。
まず,国鉄運賃は昭和36年4月に,幹線輸送力の増強,通勤通学輸送の混雑緩和などを内容とする第2次5カ年計画を実施するため,増収率12%の運賃改訂が行なわれた。また,私鉄運賃については,人件費,諸経費上昇などにより,地方中小私鉄,公営鉄道業などの経営内容が悪化しているため,各事業者別に増収率15%内外の運賃改訂を行なつており,37年11月には大都市周辺の輸送力増強の必要から大手私鉄についても10.1%の基礎賃率改訂が行なわれた。なお,私鉄運賃の各年度における改訂状況は,35年度は9事業者,増収率平均15.1%,36年度66事業者,平均17.8%,37年度52事業者,平均14.0%(大手私鉄10.0%値上げを含む),38年度11事業者,平均14.3%,39年度46事業者,平均21.1%の値上げである。乗合バス運賃は経営内容の悪化から37年3月以降39年12月までに,6大都市を含む299事業者について平均13%の賃率値上げが行なわれ,貸切バス運賃についても37年4月〜39年12月末の間で580事業者について増収率7.7〜25.9%の改訂が行なわれた。またハイヤー・タクシー運賃も運送原価の増大,道路交通混雑による稼動率の低下のため36年頃から39年末にかけて改訂されており,値上げによる増収率は主要都市についてみると10〜18%となつている。トラック運賃は一般路線について,38年3月,輸送の実態が変化した(長距離化が進んだ)ことにより不合理化した運賃を是正するため改訂し,一般区域については39年度において経営状況の悪化に対処して増収率11%の値上げを行なつている。通運料金は人件費,諸経費の増加,道路交通混雑に伴う能率低下のため,35年2月増収率50%の値上げ,39年11月,141事業者,40年5月,262事業者,40年6月に29事業者についてそれぞれ100%の値上げを行なつている。
その他定期旅客船運賃,港湾運送料金,倉庫料金についても,人件費,諸経費高騰による経営内容の悪化に対処して,つぎのような改訂を行なつている。定期旅客船運賃については,37年度107事業者,243航路,38年度48事業者66航路,39年度7事業者14航路についてそれぞれ10〜30%の改訂を行なつており,港湾運送料金については,35年8月に船内荷役,はしけ回漕,沿岸荷役とも5%の料率改訂,36年9月に船内荷役7.4%,はしけ回漕5.4%,沿岸荷役7.0%,38年3月に船内荷役6.8%,39年4月に,はしけ回漕11.6%,沿岸荷役4.0%,39年5月に船内荷役8.0%の料率改訂が行なわれた。また倉庫料金は,37年4月に普通倉庫荷役料5.8%,38年1月に冷蔵倉庫荷役料18%,39年5月に普通倉庫荷役料8%,11月に普通倉庫保管料7%の改訂が行なわれた。
なお,内航海運においては,船腹過剰による過当競争のために運賃は極度に低迷をつづけ,経営不振に陥つて企業の近代化を図る余力をなくしている状態にあり,これを是正するために,運賃を安定して,企業経営の正常化を図るため,40年度において標準運賃の設定を行なつている。
最近数年間における運賃料金の改訂概要は以上述べたとおりであるが,こうした運賃料金値上げの理由は,その大部分が労働力不足を背景とした人件費の上昇,物価上昇による諸経費の高騰などに基づく経営の悪化にあり,比較的中小・零細企業が多い運輸事業にあつては,経営の悪化にいかに対処するかが大きな問題となつている。こうした状況は第1節で述べた経営動向からもうかがわれよう。
運賃,料金は,いうまでもなく,運輸事業が健全な経営を行なつていくための源泉であり,十分経営の合理化を行なつてもなお,適正利潤を含んだ適正原価を償えない場合には,経営改善のための各種の施策とともに,運賃・料金の水準を適正なものにすることが重要であろう。
運賃料金の値上げを必要とする今一つの理由は,大都市および国鉄新幹線等における輸送需要の増大に対処するため大幅の輸送力の増強が必要とされていることである。大幅な輸送力の増強のためには膨大な資金が必要であるが,これをできるだけ多く,融資条件のよい財政資金等によつたとしても,資本費用の増大による運送原価の上昇は不可避である。輸送力の増強は,乗車効率の低下,安全性の向上等となつて利用者の利便を増大させるものであるから,輸送力の増強による運送原価の上昇は,運賃の改訂により,利用者が負担すべきものであろう。
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