2 運賃料金値上げの物価に及ぼす影響
それでは一体,運賃料金値上げは物価にどのような影響を及ぼすであろうか。
〔1−5−13表〕は,運賃料金がそれぞれ10%値上げされた場合の影響を昭和35年産業連関表を用いて算出したものである。まず卸売物価に及ぼす影響をみると,道路貨物輸送,国鉄,沿海内水面輸送,地方鉄道軌道・道路旅客輸送,倉庫の順で影響を与え,全体では0.540%卸売物価を上昇させることとなる。つぎに消費者物価への影響では地方鉄道軌道・道路旅客つまり,私鉄,バス,ハイ・タク等,国鉄,道路貨物輸送,沿海内水面輸送,倉庫の順で影響を与え,全体では0.599%消費者物価を上昇させることとなる。以上の結果から明らかな通り,運輸各機関がすべて同時にかつ全国一斉に10%値上げを行なつたと仮定しても,物価に及ぼす影響はせいぜい0.5〜0.6%の上昇をもたらすにすぎないことがわかる。しかも,産業連関表による価格分析では,各産業の価格はコストの変動に即座に適応して動くという特殊な仮定をおいているが,現実には運賃値上げによつて輸送費が上昇しても,当該産業がおかれている競争条件がきびしい場合や,あるいは生産性向上の余地がある場合,また,水道事業や電気・ガス業のようにその価格が公共料金として規制されている場合などには,運賃上昇分がそのまま製品価格の上昇に反映されない場合が多く,したがつて実際の物価上昇は上に示したような理論値を下回る可能性の方が大きいと考えられる。
このように,運賃料金値上げが物価に及ぼす影響はさほど大きいものではない。
事実,最近の消費者物価上昇の要因をみると, 〔1−5−14表〕にみられるようにその大部分が,農林水産物,中小企業製品およびサービス業料金の値上りによるものであつて,運賃上昇の消費者物価に与える影響は小さいことが一般に認められている。
また,運賃値上げの生計費に及ぼす影響も,家計費全体に占める交通通信費の割合がほほ2%,38年でも2.4%と低い(総理府総計局「家計調査年報」)ことからみて,さほど大きくないことは明らかである。
また,運賃料金値上げが物価に若干の影響を与えるとしても,運賃料金値上げによつて,運輸事業の経営が安定し,近代化,合理化のための投資が可能になるとすれば,運賃料金値上げは,長い目でみれば,交通安全の確保はもちろん輸送の近代化,合理化を通じて流通経費の低減につながり,旅客輸送においても混雑緩和,快適性の増進が可能になるものと考えられる。
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