4 地域問題と運輸
大都市における再開発の努力も人口の無制限な流入があつたのでは十分な成果をあげることは難かしく,地方の開発発展の中核となるべき都市の建設の促進が併行的に行なわれることが必要である。
37年10月の全国総合開発計画の閣議決定は,全国を過密地域,整備地域,開発地域に分け,地域開発のために拠点開発方式を打ち出した。新産業都市建設促進法,工業整備特別地域整備促進法によつてこの拠点開発方式が,現在の地域開発の方法として今日採られている方法である。
しかし,ここでの地域開発政策は,地形,エネルギー,工業用水の適当な地点に工業を配置することを重点としている。また,農業,林業,漁業,畜産業さらには観光産業等それぞれの特性を生かした産業により地域の開発を図ることも,地方住民の生活水準向上のために同時に進められることになろう。このような開発方式をとる場合,その地方における諸資源の活用もさることながら,その地方と既存の集積地,すなわち大都市との有機的連けいが必須の条件である。新しい産業都市の発展あるいは後進地域の開発は,その地方単独では不可能であることはいうまでもない。鉄道,道路,港湾,空港等の交通網はその地方と既存集積地を結びつける動脈としての役割りをもつており,その発達は地域相互間の物理的距離を心理的,経済的に短縮し,それによつて人や物の交流を促進して地域相互間の連けいを強化し,地域的格差を是正して行く機能をもつている。
たとえば,地方都市や離島における空港の整備は,それらの地域と国内中核都市との連けいを強めており,東海道新幹線の開通は東京-名古屋-大阪を結ぶ都市群の関係を一層強固にしたばかりでなく,この幹線を通じて東日本,西日本相互間の結びつけに大きな役割りを果たしている。港湾の整備も各地域間の貨物流動を容易にしている。また,道路についてみれば,国道20号線の新笹子トンネルの完成によつて,東京-甲府間は従来の5時間半から3時間半へ短縮され,その結果,甲府盆地の果実生産は飛躍的に増加し,八ヶ岳の集団酪農地帯からの牛乳直送を可能にした。
このように,交通網の整備は国土全体の有機的結合を促進して行く。それは未開発地域を開発してゆくのみならず一方において既開発地域の種々の隘路化現象を是正し,これに新しい生命力を与える。すなわち,経済的には輸送費の低減,適時の輸送による在庫量の減少,外部経済の拡大等によつて既存産業の地位を強化し,流通機構の改善を促進して物価の安定と消費者に潤沢な食料の供給を可能にする。そしてさらには海外観光客による外貨収入の増加,資源開発による輸入の節減,製造コスト低下による輸出力の強化等,国際収支におよぼす影響も大きい。したがつて,地域開発計画には当該地域の適性に加えて各地域を有機的に結合する全国的交通網の整備が同時に考慮されていなければならない。
文化は道がひらけることにより伝わつて行く。地域開発,社会開発のため,より高速,より経済的な交通路の建設が必要とされるゆえんである。
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