1 収支の概況


  民営鉄道の38年度の営業成績をみると 〔I−(I)−34表〕に示すとおりである。

  民営鉄道全体についてみると,鉄軌道営業収益は輸送実績並びに大手私鉄の37年11月の運賃改訂を反映して一応順調な伸びを示し、38年度では37年度に対し12.7%の増加となつている。一方鉄軌道業営業費用は,ベースアップ等による人件費の増大と設備投資による営業用固定資産の増加に伴う減価償却費の増大により37年度に対して増加を示したが,鉄軌道業営業収益のそれよりも僅かに下廻つた。この結果,鉄軌道業営業利益率〔鉄軌道業営業損益÷鉄軌道業収益×100〕は37年度の7.3%から38年度9.6%に伸びている。また,兼業利益の増加により税引前企業利益率(税引前損益÷総収益×100)は37年度の1.7%から3%に増加した。これを大手私鉄,中小私鉄,公営及び営団に分けてみてみよう。
  大手私鉄では,鉄軌道業営業収益は,38年度は対前年度比で18%の増加を示したが,これは37年11月の運賃値上げ・都市への人口集中により大手私鉄の沿線が急速に開発されていること等によるものである。一方鉄軌道営業費用の対前年度比は,人件費で11.6%,経費で11.8%の増加を示したが,全体では11.7%増と鉄軌道業営業収益の伸び率よりも下廻つた。この結果,鉄軌道業営業利益率は11.2%から16%に伸びている。しかし兼業のうちの自動車部門の不振と支払利息の増加に伴う営業外費用の増大により税引前企業利益率は9%となつている。
  以上のとおり,大手私鉄の38年度の収支状況はそれほど悪いとはいえないが,38年度下期と39年度上期の合計でみると営業損益が著減している。これは38年度の設備投資が大きかつたことおよび39年度から新たな輸送力増強の計画が開始したため資本費用が増大したことによるものであり,今後この計画の推進により39年度以降の収支はいつそう悪化するものと考えられる。
  中小私鉄では,鉄軌道業営業収益の38年度対前年度比が2.9%の微増を示したが,これに対して鉄軌道業営業費用はそれを僅かに上廻つた3%の増加率を示した。この結果,鉄軌道業営業利益率は37年度の3.4%から38年度は3%に低下した。しかし兼業部門の業績が好調な伸びを示したので,税引前企業利益率は37年度の1.6%から2.7%に増加している。これは,中小私鉄では鉄軌道業が年々悪化の傾向にあるため兼業への依存度が高くなつたことを如実に示している。
  つぎに公営についてみると,鉄軌道業営業収益の38年度対前年度比は,4.2%の増加を示したが,これに対して鉄軌道業営業費用がこれを上回る9.7%の増加を示し,この結果,鉄軌道業営業利益率は37年度のマイナス10.2%からさらに悪化して,マイナス16.1%となつた。これは,他の鉄軌道事業者に比較して人件費の費用構成比率が高いこと並びに東京都,名古屋市及び大阪市における地下鉄新線建設による減価償却費の増大によるものである。さらに兼業部門の営業成績も東京及び大阪の路面交通の渋滞により振わず,また東京都,名古屋市及び大阪市の地下鉄新線建設に伴う借入金の支払利息の増大等により公営全体としての38年度の企業利益率は,37年度よりわずかに良くなつたとはいえ,マイナス13.3%である。しかしながら赤字累積の解消には程遠く,このため公営企業再建整備が大きな問題となつている。
  営団については,新線の開業と路面交通からの旅客の転移とにより,鉄軌道業営業収益の38年度対前年度比は16.8%増となつているが,これに対して鉄軌道業営業費用はそれを上廻る17.6%増となつたため,鉄軌道業営業利益率は27年度の36.4%から36.1%に低下した。営団の経理は借入金の利子支払を考慮しないでは考えられず,新線建設の促進はますます多額の借入金の導入とそれに伴う支払利息の増加をもたらし,その結果,営業収入の増加にもかかわらず税引前企業利益率は依然としてゼロにとどまつている。


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