2 運賃問題
民営鉄道の運賃改訂については,最近の物価の動向にかんがみ,国民生活に与える影響を慎重に考慮することが要請されているが,39年度における主な動きは次のとおりである。
(1) 大手私鉄14社
大手私鉄14社は,年々増加する旅客,特に通勤通学客の輸送の万全を図るため,第1次3カ年計画を上回る巨費を投じて,39年度を初年度とする第2次3カ年計画を策定し,現在これを実施中であるが,この結果経営状況が悪化してきており,収支の均衡を図り輸送力増強工事を推進させるために,40年1月(西日本鉄道のみ40年5月)に,旅客運賃改訂の申請書が提出された。大手私鉄の運賃は,国鉄運賃,消費者物価対策等との関連もあり,値上率,実施期日等について,現在慎重に検討が行なわれている。
(2) 営団
営団の現行旅客運賃は36年11月に改訂(東西線については39年12月開業の際に制定)されて以来現在にいたつているが,支払利子,減価償却費等が増大しており,しかも今後の新線建設に伴つて経営状況はますます悪化することが見込まれているので,何らかの措置が必要であろう。
(3) 中小私鉄及び公営
中小私鉄及び公営とも最近は他の交通機関の進展等に伴つて収入は伸び悩みの状態にあるのに対し,人件費を初めとする諸経費は増大し,経営の悪化をきたしているものが多い。これらの事業者から38年7月以降続々と旅客運賃改訂の申請がなされたが,消費者物価対策との関係もあり,慎重に収支内容を検訂した結果,特に経営困難と認められる中小私鉄41件,公営6件の旅客運賃について,改訂の認可が行なわれた。現在中小私鉄40件の旅客運賃改訂の申請書が提出されており,これらについては,慎重にその内容が検討されている。
以上のとおり,民営鉄道事業の経営状況は全般的に悪化する傾向にあり,このため運賃改訂の要求はこんごいつそう強まることが予想される。民営鉄道事業の経営の健全化は,他の一般の私企業と同じく,経営の合理化によるコストの削減を図る一方,コストの上昇を価格すなわち運賃の改訂に求めることが基本となるのであるが,鉄道事業は他の私企業とことなり高い公益性を付与されており経営の悪化を安易に運賃に転嫁し,消費者の負担においてこれを解決することは許されない立場にある。
収益事業としての経営の健全化の要求と国民生活に大きな影響を与える公益事業の性格とを調和し,民営鉄道の公益使命を完遂させることが今後の運賃問題を考える場合きわめて重要となろう。
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