2 不定期船
(1) 活動状況
わが国商船隊の昭和39年における月平均就航船腹量は,1,112万重量トンであつたが,このうち,不定期船は785万重量トンで,全体の70.6%を占めている。その内訳は,油送船408万重量トン(構成比36.8%),大型専用船153万重量トン(13.8%),一般貨物船223万重量トン(20.0%)である。これを35年に比べると,不定期船全体としては341万重量トンの増加で,構成比も10.8%の上昇となつたが,船種別にみると,油送船では221万重量トン,大型専用船では131万重量トンそれぞれ増加し,構成比もそれぞれ11.5%,10.8%と大幅に上昇しているのに対して,一般貨物船は11万重量トン減少し,構成比も11.5%の低下を示している。また,これを前年と比較してみても,油送船,大型専用船はそれぞれ77万重量トン,24万重量トンと大幅に増加しているのに対し,一般貨物船は13万重量トンの減少となつている。一般貨物船の減少分は,定期航路の航海数増加による船腹不足を補うため,定期船への転配によるものである。
このように,わが国商船隊に占める不定期船の地位は,年々高まつてきているが,これは油送船および大型専用船の急速な膨張によるもので,1万重量トンクラスのいわゆるトランパー船腹量は横ばいに推移し,その比重は著しい低下を示している。
これらの不定期船の活動分野は,主として輸入輸送である。すなわち,39年における邦船輸送量7,728万トンのうち,不定期船による輸送量は,6,877万トン(不定期貨物船3,215万トン,油送船3,662万トン)で,全体の89%を占めており,定期船による輸送量は11%にすぎない,これは輸入品の大半が不定期船貨物である石油あるいは鉱石,穀物等バルキーカーゴによつて占められているためである。ちなみに,輸入輸送における不定期船依存度(邦船輸送量のうち不定期船の占める比率)を品目別にみると,鉄鉱石96%,石炭69%,木材95%,塩63%,大豆96%,小麦90%となつている。
一方輸出輸送および三国間輸送における邦船輸送量は,それぞれ896万トン,238万トンであつたが,このうち,不定期船によるものは,輸出209万トン,23.5%,三国間50万トン,21%にとどまつている。これは,セメント,肥料等一部を除き,輸出品のほとんどが定期船貨物である雑貨品によつて占められていることによる。
39年の不定期貨物船による輸送量は,輸出209万トン,輸入3,215万トン,三国間50万トン,計3,474万トンで,前年に比べそれぞれ3.0%,12.4%,42.2%の増加を示し,全体では12.1%の増加となつた。不定期貨物船就航船腹量の対前年伸び率がわずか3.2%であつたにもかかわらず,輸送量がこのように大幅な増加を示したのは,主として,輸入輸送における専用船依存度が増大し,1重量トン当りの年間平均輸送量が,前年の7.8トンから8.5トンに増大したためである。
また油送船による輸送量は,輸出67万トン,輸入3,662万トン,三国間64万トン,計3,793万トンで,前年に比べ三国間輸送量は減少したものの,輸出,輸入はそれぞれ81%,18.5%の大幅な増加を示し,全体では15.8%の増加となつた。船腹量の対前年伸び率23.3%より輸送量の増加率が下回つているのは,近距離輸送の三国間が減少したことにもよるが,主として,石油輸入ソースの中近東地域集中化によつて,平均輸送距離が増大したためである。すなわち,輸入における1重量トン当り年間平均輸送量は,前年の9.3トンから9.0トンに減少している。
なお,輸送活動を運賃収入面からみると,不定期貨物船では輸出55億円,輸入752億円,三国間18億円,計825億で対前年106億円,14.7%の増収であり,油送船は輸出9億円,輸入568億円,三国間10億円,計587億円で,対前年比49億円,8.9%の増収であつた。
なお,日本船主が定期用船している外国貨物船は,一般不定期船腹の不足を反映して長期的には漸増の傾向を示している。とくに,39年の外国用船は,ドライカーゴの輸入量が前年比20.8%の増加を示したこともあつて大幅な増加をみせた。すなわち,39年12月末で6カ月を越える一般貨物船の長期用船は,85隻111万重量トン,6カ月未満の短期用船は21隻26万重量トン,計106隻137万重量トンであり,これを前年12月末に比べると10隻31万重量トンの増加である。増加分はすべて長期用船によるもので,短期用船の船腹量は横ばいとなつている。また,海送船の外国用船も39年12月末で,長期用船21隻118万重量トン,短期用船11隻48万重量トン,計32隻166万重量トンあり,前年に比べ9隻65万重量トンと大幅な増加を示している。増加の内訳は長期用船,短期用船それぞれ7隻51万重量トン2隻14万重量トンである。
(2) 輸送構造の変化
わが国の輸入量は,35年以降4年間に約2倍(98.4%増)の激増を示し,39年には1億7,383万トンに達した。この間における品目別構成の変化を増加寄与率によつてみると,最も大きいものは原油の41.5%であり,ついで鉄鉱石の18.8%,木材8.1%,重油8.0%,石炭5.7%,塩1.5%,小麦11%等となつており,輸入量の増加が,主として石油及び鉄鋼原料の激増によつてもたらされたことを物語つている。一方,39年の輸出量は,対35年比66.0%増の1,764万トンであつたが,品目では鋼材が自立つている。この結果,わが国の輸出入数量格差は,35年の1:8から39年の1:10へとさらに拡大した。
このように,重化学工業化の進展に伴い,原燃料物資輸入の急速な増大は,大量の船腹需要を換起しているが,同時に輸送形態にも大きな変化をもたらしつつある。すなわち,その一つは,増大する原燃料供給に対する輸送費低減と,長期安定輸送の要請からくる船舶の専用化,大型化であり,他の一つは,輸送の専属化とそれに伴う自由海運市場の狭隘化である。
船舶の専用化,大型化の進展は海運業にとつて資本量の膨張をもたらす一方,船舶の経済的耐用年数を短縮し,運航採算の長期的不可測性を高め,危険負担の増大を招くところとなつて,積荷保証船への転化に拍車をかけている。
これらの積荷保証船は,必然的に運賃の長期成約化を伴い,その増大は,不定期船市場における自由市場狭隘化の傾向を強めている。現在,わが国の油送船は,その殆んどが荷主との長期積荷契約によつて運航されている。また,鉄鉱石,石炭輸送の分野においても,積荷保証船による輸送量は,邦船輸送量のそれぞれ77%,29%を占めており,輸入ソースの長期安定化に伴い,この比率は益々高まるものと予想される。このほか,非鉄鉱石,木材等のロツトものについても,専用船化がはかられ,積荷保証船の就航が増加してゆく傾向にある。
このように,大型専用船をはじめ,非鉄鉱石,木材専用船など,長期積荷契約の可能な分野では,積極的に新造船の投入が行われ,船型,船令ともに優れた船隊を形成しつつあるが,反面,いわゆるスポット輸送を対象とする一般不定期船は,大型化の立遅れと老令化が目立つている。これは現在,新造船のほとんどが船価回収の保証を必要とする計画造船によつて建造されているため,積荷,運賃保証のない一般不定期船の建造は,一部小型船の新造を除きほとんど行なわれておらず,わずかに定期船からのドロツプによつて補なわれている現状である。
長期契約輸送が増大しているとはいえ,鉱石,石炭などの大量貨物においても,なおスポット輸送の分野は相当量残されており,これに食糧品,飼料等を加えると,1万5,000重量トン前後の一般船船腹需要は益々高まつている。現在1万重量トン以上のこれら一般船は約80万重量トンあり,そのほとんどは鉄鉱石,石炭,塩等輸送協議会による引受輸送に従事しているが,絶対量の不足に加え,定期航路の拡充による定期船不足のカバー等もあつて,日本船だけでは引受貨物の輸送を賄いきれず,大量の外国用船を余儀なくされている。
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