3 財政状況


(1) 資産構成

  昭和39年度末における45社の総資産は,5,635億円に達し,前年度末に比べ,409億円,7.8%の増加となつた。資産構成の推移についてみると,流動資産は,前年度末に比し,98億円増加したものの,総資産のわずか15.9%にあたる897億円にすぎず,総資産の84.1%を占める4,738億円が固定資産で,311億円の増となつた。39年度においては,大量の船舶建造が推進され,その設備投資額は,約800億円に達したのであるが,それにもかかわらず,資産の純増がその約半分にとどまつたのは,前述の如く,減価償却実施額が多額にのぼつたためである。
  資産に関する主要財務比率についてみると,固定比率,すなわち,自己資本に対する固定資産の割合は,前年度末の50.7%から60.4%となり,とくに,専属会社は,67.7%から85.1%と悪化している。これは各業態を通じて資産は増加したものの,減資および社内留保金の取り崩しにより,自己資本が減少した結果である。

(2) 負債および資本構成

  総資本5,635億円のうち自己資本は,わずか13.9%にすぎず,他人資本(負債)は,総資本の86.1%にあたる4,850億円にのほり,498億円の増加となつている。この結果,負債比率(自己資本に対する負債の割合)は,前年度末の498.5%から617.8%と逐年悪化している。負債構成の推移をみると,流動負債は1,715億円で,前年度末より204億円(10.7%)減少し,固定負債は3,135億円で,702億円(28.9%)の増となつた。負債のうち,設備資金の借入残高は,3,480億円であつて,その内訳は,財政資金が2,186億円,市中資金が1,294億円である。
  つぎに,資本金についてみると,39年度において7社が27億円の増資を行なつたが,一方,17社が67億円の減資を行なつたので,39年度末における45社の資本金は,前年度末より40億円減少して827億円となり,自己資本比率は,前年同期の16.7%からさらに低下して13.9%となつた。自己資本比率の低下傾向は,わが国一般産業の共通的なものであるが,海運企業の場合,戦後の発展過程において急速な設備投資のほとんどすべてを,他人資本に依存しなければならなかつたためである。戦後の船舶建造に対しては,財政融資および利子補給制度等の措置が講じられ,一般産業における設備資金の借入状況に比し借入金が多いとはいつても,若干,その性格を異にしているばかりでなく,長期契約に基づく専用船等の建造計画においては,借入金の償還計画も確実に履行される建前であるから,海運業の財務状況について,他産業におけると同様の見地からこれを批判することは,必ずしも当を得たものではない。しかしながら,今後における船舶の建造において長期運賃保証のない船舶の建造が増大する場合には,借入金の増加につれ不況に対する抵抗力が弱まることは否定できない。一方,船員費その他経費の上昇傾向は,おそらく今後においても早急に鈍化するとは考えられない。したがつて海運企業は,これに対処して,経費節減のほか各般の経営合理化努力を続けることはもちろん,新造船の建造にあたつてはこのような将来の経費上昇を勘案し,その採算が10年船価回収ベースの基準に合致するよう,十分に検討したうえで慎重に行動することが肝要であり,一方,今後の財政融資についても少なくとも現行の財政融資比率および融資条件ならびに利子補給制度をこのまま継続することが不可欠の要件である。


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