4 内航船腹量の調整-適正船腹量及び最高限度量の設定


  内航輸送量の伸びは,39年度において前述の如く停滞したが,32年度以降 〔II−(I)−10図〕のように33年度を除いては順調な伸びを示してきた。一方これに対して内航船腹量も 〔II−(I)−11図〕のように急激に増加してきたが,その現状は,1.貨物船においては月平均航海数は4航海程度で,その稼働状態は極めて低い水準にあり,また油送船においても稼働状態は悪く,船腹の過剰状況を示しているとともに,2.老朽不経済船が約80万総トンと全内航船腹量の30%を占めているという,ゆがんだ状態に陥つている。従つて,今後の内航対策としては,老朽不経済船を解撤して,近代的な経済船を建造するとともに,船腹量の内航輸送量に見あつた適正化を進めることが必要になつてきている。このため内航海運業法は適正船腹量を設定し,今後の指針とすることを定めているが,この規定により,内航海運業法の施行直後の39年8月31日に運輸大臣から海運造船合理化審議会に対して,「内航海運業の用に供する船舶の昭和39年度以降5年間の各年度の適正な船腹量について」諮問がだされ,適正船腹量の策定が行なわれることとなつた。

  船腹量の算定にあたつては,内航輸送需要量を 〔II−(I)−12表〕のとおり想定し,この輸送需要に対する適正船腹量については,1.過去の輸送量と船腹量の関係についての実績による原単位および,2.距離帯別輸送量,荷役能力,平均積高,稼働率,船型等により算出された理論的に可能な原単位を算定のうえ,これらを勘案して5年間の平均原単位および最高原単位を設定し,これに対する平均輸送需要と季節変動を考慮した最大輸送需要を検討しこの関係から適正船腹量を 〔II−(I)−13表〕のとおり算定した。

  一方,内航海運の39年10月の船腹量は,貨物船206万1,000総トン(鋼船123万総トン,木船83万1,000総トン)油送船51万4,000総トン(鋼船47万6,000総トン,木船3万8,000総トン)であつて,適正船腹量との関係において,「内航海運業の用に供する船舶の船腹量の最高限度を設定する必要性の有無及び必要な場合における最高限度量について」の検討が,運輸大臣の諮問により審議会で行なわれたが,貨物船については,適正船腹量に照して著しく過大であり,また油送船についてもそのまま放置すれば著しく過大になるおそれがあると認められ,最高限度の設定が必要となつた。最高限度量については,翌年度の輸送需要に対応できるとともに,それ以上に著しく過大にならないことを目途として,翌年度の適正船腹量と翌々年度の適正船腹量の中間値とすることが妥当であるとされたが,貨物船については,現有船腹量が最高限度を上回ることになり,極力老朽不経済船の解撤を進め,船腹量の調整を図るとしても,差し当り経過的措置として,現有船腹量を最高限度とすることもやむをえないこととされ,最高限度量が貨物船206万1,000総トン,油送船58万6,000総トンと策定された。
  以上の適正船腹量および最高限度量は,39年12月7日に運輸大臣に答申され,12月24日付をもつて告示され,最高限度が1年間設定されることになり,内航船腹量の調整の第一歩が踏み出されることとなつた。
  しかし,最高限度の設定にあたつては,次のような問題があつた。その第1は,貨物船と油送船の二つの船種の大枠の中で,全国的なマクロの最高限度を設定することが,船舶は本来機動性を有するとはいえ,地域的な特殊な需要増大,または特殊構造を必要とする船舶による輸送需要の増大等に対して硬直的に作用し,内航海運本来の使命である国内輸送の円滑化を欠くことにならないかどうかであつた。審議会の答申は,この点を考慮し,最高限度を設定した場合の運用方法について,老朽不経済船の多い現状において,特殊の新規需要に対応できず,需給の弾力を欠くおそれがないように,新規需要に伴うものであり,かつ需要の性質が他と競合しないことが明確なものについては,当該需要に対し,船腹の供給が著しく困難な場合は,具体的な基準を設定して,弾力的に運用する必要性を指摘していた。第2は,最高限度の設定が一部業者の間にいわゆるかけ込建造を誘発しないかということであつた。
  このような問題があつたので,最高限度の運用に当つては,全国組織の5海運組合の代表者で構成する合同委員会の船腹需給の実態についての意見を参考として処理を進めることとなつた。現在までのところ,船腹調整の効果は必ずしも十分とはいえず,40年6月現在の内航船腹量は,貨物船232万総トン,油送船61万総トンとなつている。
  昭和40年度以降5年間の適正な船腹量については,40年4月19日運輸大臣から海運造船合理化審議会に対して諮問がだされ,審議会において検討が行なわれている。


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