5 離島航路の苦境


  施客航路事業は,一般に上記のような低収益性に悩んでいるが,そのうちでもとくに経営が困窮しているのが本土と離島,または離島相互間を結ぶ離島航路である。わが国には,人の住んでいる離島が461あり,ここに全国民の2%にあたる200万人の人々が生活しているが,こうした人々の唯一の足として,また,生活必需物資や郵便物の輸送手段として,離島航路は欠くことのできない存在である。
  全国の離島航路は,定期航路全体の約半数にあたる657航路あり,そのうち観光客に恵まれた一部の離島への航路を除いて,大部分は低いサービス水準にとどまつている。すなわち,運航回数が月間わずかに2回又は4回などと極度に少ないもの,運賃率が平均の2倍以上も高いもの,その他について住民から種々の不満の声が叫ばれているので,離島の地域格差を解消するためには,こうした点の解決が前提条件と考えられる。
  こうした状態は,離島航路が性格的に採算に合いにくいために起つているのである。すなわち,離島航路は輸送密度が低いにもかかわらず安全の見地からある程度の大きさの船舶を投入せざるをえず,必然的にコスト高を招いている。一方,住民の生活水準は低く,運賃の負担力に乏しいので,運賃水準は低く押えられ,その結果,離島航路の多くが赤字航路となつている。そこで,事業者としては,サービスの改善の必要性を痛感しながらも,赤字を最小限にとどめるため,手が廻り切れない状態にある。離島航路に対しては, 〔II−(I)−26表〕のように毎年国の補助金が交付されており,また,若干の地方公共団体においても独自に補助金を支出しているが,これらは事業者の欠損額の一部を補填しているにすぎず,残りの欠損額は繰越欠損額となつて年々累積を重ねている。

   〔II−(I)−27図〕に見るように,昭和39年国庫補助金を交付した30航路の収支状況は,費用に対し収入は僅か66.3%にすぎない。
  離島航路に対する国の補助金は,近年若干ずつ増額され,昭和39年度には5,990万円が30事業者30航路に対して交付されているが,これにこの航路の欠損額の合計1億5,071万円の39.7%にあたるにすぎない。昭和40年度においては,補助金予算額は7,314万円とさらに増額されているが,各航路とも収支の状況は好転の見込が少なく,補助率の大幅な向上は期待できない。
  こうした事情から,離島航路の整備については,従来のあり方を根本的に再検討し,住民の利便のために航路のサービスの改善を積極的に推進することができるような,新しい方策を確立することが強く要望された。そこで,運輸省は,昭和40年4月海運造船合理化審議会に対し離島航路整備のための方策を諮問し,その結論に従つて昭和41年度から新制度を発足させる予定にしており,これに応じて審議会では新たに離島航路部会を設け,現在,審議を進めている。
  それとともに,昭和40年度においては,特定船舶整備公団による離島航路の船舶の建造について従来の方式を若干改正し,いわゆる老朽船の代替建造のみにとどまらず,運航回数増加のための新船建造や,船舶の大型化なども必要に応じて取り上げることとしている。40年度の公団旅客船建改造費は,前年

 と同額の9億円であるが,そのうち2億円はこうした離島航路の船舶の建造にあてられる予定になつている。


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