1 外航部門
外航部門における労働力変動要因である船腹はつぎのようになつている。すなわち, 〔II−(II)−1表〕のとおり外航三団体の昭和39年4月1日現在の保有隻数は824隻,6,990千総トンであつたが,40年4月1日現在では831隻,7,954千総トンと7隻,964千総トン増加した。これに対し船員数は,乗組員31,346名から,31,560名と214名増加したが,予備員は10,344名(陸上勤務員等その他勤務員1,651名を含む)に減少した。予備員率((予備員-陸上勤務員)/乗組員×100)は,26.2%から25.9%に僅か0.3%減少した。1隻当り平均乗組員は39年38.04名は,40年37.98名と変化なく,したがつて39年度においては乗組定員の合理化は行なわれず陸上勤務員,融通船員等その他勤務員の合理化が行なわれたとみるべきものであろう。このような事情のもとで,年令構成上アンバランスとして指摘された二つの年令階層(22才から25才まで,33才から36才まで)の部員役付級の淘汰は,いちおう見送らざるを得なくなり,かわつて海員学校卒業者の求人が増加した。海員学校本科の入学生は,38年2月の新規採用抑制協定の影響により同年秋以降かなりの制約をうけたが,外航部門の需要が活発化したため,40年3月の卒業生353名は殆んど全員外航部門に就職し,その求人充足率は僅に32.5%にとどまつた。そのため船員訓練をうけたことのない一般高校ないし中学生の採用もかなりの数にのぼつている。また職員についても商船大学,商船高校は勿論,水産関係学校の専攻科卒業生を航海士26名,機関士49名,合計75名(外航労務協会のみ)採用するにいたつた。このような船員需要活発化の原因は,中期経済計画により,船腹を42年度までに743万総トン(隻数推計331隻)増加させることが明かとなり,しかも,海運国際収支の改善のため邦船積取比率を是正する必要が一そう強まりつつあり,そのため船腹はさらに増強され,したがつて船員需要も活発化するであろうと見られているからであり,今後,海上労働力の外航への吸収が一そう強まるものと考えられる。
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しかし,このような船員需要は,おしなべて外航海運全企業に見られる傾向ではない。少くともそれは,集約中核体における船員採用の状態であつて,学校卒業生の採用状況にそれが現われている。 〔II−(II)−1表〕はそのことを示しているのであるが,職員についても同様のことがいえる。すなわち,中核体から成る外労協加盟19社は,商船大学卒業者を192名,商船高校生を193名を採用したのに対し,外航オーナーの23社会及び若葉会を合計して,商船大学卒業生は8名,商船高校生は35名にすぎなかつた。これは新造船建造が中核体に多く,外航オーナーにうるおう所が少なかつたことも一因であろうが,昨年秋から一部の系列内で組織化されつつある船員の共同管理による相互融通が活発化したため,予備員の効率的活用がはかられることとなり,したがつてオーナーの船員需要の抑制要因として作用したことがあげられるであろう。船員の共同管理とは,地域及び規摸のほぼ相似た系列内オーナーが集つて管理体をつくり,自社の雇用する船員を,自社の船に,自身で配乗することをやめ,管理体に船員の配乗を一任し,管理体に参加するいかなる船主の船舶にも乗り組ませるというものである。管理体の事務職員は,参加会社からそれぞれ同数づつ提供され,管理体の費用は参加会社の同率負担とし,管理体はあたかも一個の企業体の如く,参加企業の個々のわくをこえて,船員に関する事務を一元的に行なうのである。しかも管理体に船員の過不足が生じたときは,中核体の指示のもとに,中核体もしくは同系列内の他の船員管理体ないし個別企業と船員の融通を行なうのである。かくて船員の共同管理により中小規模のオーナーが一社専属の予備員を適正率まで保有する不経済性は減少し,配乗の合理化によつて船員費,船員管理費用の縮少に寄与するところが大きいと見られている。しかし共同管理においても,船員は個々の企業との永年勤続的契約が否定されるのではなく,船員法,船員保険法及び船員職業安定法の制約のもとに,雇入契約のつど船舶所有者は変更されているが,本源的には,当初雇用契約を結んだ企業における待遇のもとに拘束される。したがつて,管理体の船員採用計画も,実際の採用に当つては個別企業の名において行なわれることとなり,そのため,管理体参加企業間における採用初任本給は一律化し,したがつて,本人本給格差も縮少傾向を示しはじめている。船員の相互融通(共同管理であれ,共同雇用であれ)にとつて最大のネックは企業間における本人本給の格差であるといわれているので,この格差が解消するにはなお時間が必要であろうが,共同管理によつて格差が縮少するということは,船員の雇用方式について著しい変革を予測させるものといえよう。
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