4 日本航空(株)に対する助成


  日本航空(株)の現状は,以上のとおり,予想したほどの需要増はなかつたが,大幅な損益分岐利用率の低下によつて収支の改善をみて,一応の経営安定期に達したと考えられるが,今後,同社が激烈な国際競争に打ち克つてこの安定を維持し,かつ,わが国の国際収支の改善に寄与するためには,路線の整備拡充が必要であることは,すでに述べたとおりである。
  このためには,日本航空(株)自体の企業努力も当然必要であるが,国際航空の持つ国家的使命を考えて,日本航空(株)に対する強力な政府の助成措置が望まれる。
  現に,諸外国においては,各国とも国際航空会社に対して,政府の出資,債務保証,各種の補助金交付,赤字補てん等の何らかの育成,助成措置を講じていることが多く,たとえば,戦後,わが国と同じような条件下にあつた西独のルフトハンザ航空会社の場合についてみても,西独政府が収支にとらわれない積極的拡大方策の下に,同社の赤字全額補助を行なつた結果,その国際競争力は,老舗の欧米各社を凌ぐとさえいわれている。
  一方,わが国の場合にも,戦後,零から出発しなければならなかつた国際航空事業を開始するため,日本航空株式会社法(昭和28年法律第154号)に基づく特殊法人として,日本航空(株)を設立し,これに対し,政府出資,国際線維持発展のための補助金支出,政府の債務保証等の助成措置を講じてきた。
  そして 〔III−21表〕にみるとおり,設立以来今日まで,多額の政府の助成が行なわれてきたといえるが,そこにおける助成の基本方針は,必要最少限の助成を行なつて,後は自本航空(株)自体の自主的経営努力に委せるという漸進的拡大方針であつた。

  しかしながら,航空国際収支の面からは,ある程度積極的な路線整備拡充による日本航空(株)のシェアー拡大が必要と考えられ,これに必要な航空機あるいは整備施設等の基本的施設の整備については,今後,より一層の政府の助成が望まれており,少なくとも,外国航空会社と対等に競争できる基盤ないしは条件を整備することは,政府の責務と思われる。

(1) 出資

  昭和39年度末の政府出資の累計は,100億円であり,株式資本総額(政府出資+民間出資)172億4,790万円のうち政府出資の占める比率は58%で相当高い出資比率であるが,日本航空(株)の国際線における資金需要は,年間百数十億円にも上り,また一方,民間出資の方も現在のような無配当状態を続けている以上,多くを期待するのは困難であることを考えるとき,必ずしも充分とはいえないであろう。従つて,必要資金の大半は,自己資金ではまかなえず,社債あるいは,米国輸出入銀行等からの長期借入金等の他人資本に依存してきたのであるが,このような資金繰りが財務の比率を悪化させ,金利負担の増等により他の外国航空会社に比較して経営上のハンディキャップとなつていることは否定できないばかりでなく,ひいては,それが国際競争力の減殺となり,せつかく投資した政府出資の効果を弱めることにもなりかねない。
  従つて,国際収支改善の立場から,日本航空(株)の国際路線の拡充強化による国際競争力の強化の必要性が認められるとすれば,それに必要な資金は,できるだけ自己資本によるべきであり,わけても,発展途中にある日本航空(株)にとつては,後配株である政府出資株式による資金が必要であり,また,政府出資が民間投資を誘発する要因も考慮すれば,今後一層の政府出資が望まれる。

(2) 補助金

  日本航空(株)に対しては,その発足以来,利子補給,乗員訓練費補助あるいは外人雇傭経費補助などによつて昭和39年度末までに累計10億2千万円余にのぼる補助金が交付され,さらに昭和40年度には,国際線乗員訓練費補助として,3億5,000万円の交付が予定されている。
  最近,日本航空(株)に対して交付されている補助金は,ほとんど国際線乗員訓練費に対する補助であるので,ここで同社における乗員訓練問題を検討して,補助金交付の背景を探つてみたい。
  今さら言うまでもなく,乗員養成は,航空会社にとつて重要な人的資源である高度の技術と経験を有する優秀な運航乗務員を確保し,かつ,その技倆を向上させるため行なわれるものであり,各航空会社とも,それぞれいろいろな方法により乗務員養成を行なつている。
  しかしながら,多くの欧米各航空会社のように,空軍等の有力なパイロット供給源を持たないわが国の場合,欧米各位がこれら大型高性能機の技倆と経験を持つた空軍出身者の大幅な供給により比較的短期間の企業内訓練で第一線パイロットとして養成できるのに対し,日本航空(株)の場合は,企業内部で極く初歩から段階的訓練を長期にわたり実施して,国際線パイロットとして仕上げるほかに道がなく,そのために要する経費と時間は,厖大なもので,日本航空(株)の最近の実例では,国際線機長まで養成するのに1人当り平均2,700万円程度の経費と9〜10年の歳月を要するといわれている。
  このため,毎年必要とする訓練費は厖大なものに上り,その営業費用に対する比率も,昭和39年度の場合4.5%と他の外国航空会社(1〜2%)に比較すると,日本航空(株)の訓練費負担がいかに大きいかを知ることができる。
  しかも,昭和37年の商法改正により,従来開発費として行なつてきた5年の繰延償却が困難とみられるに至つたため,昭和39年度以降は,外国航空会社なみに当年度発生する訓練費を当年度経費として処理することとなり,訓練費の増大は,当該年度の経営を圧迫し,国際競争力の減退をきたすおそれがあるため,政府としては,国際競争力強化の見地から,日本航空(株)の国際線乗員訓練費に対して,昭和39年度3億3,950万円の交付を行なつたわけである。
  一方,訓練費の未償却額は,昭和39年度の大幅な増収分を特別償却の形でこの償却に振り向けたので,解消したが,今後の訓練需要からみると,各年度の発生額も年々増大する傾向にあるので,国際競争力強化の意味からいつて,補助金の継続的交付が切に望まれる。

(3) 債務保証

  現在,政府として日本航空(株)の社債に対して,総額177億円にのぼる債務保証を行なつており,昭和40年6月現在の残高は141億12百万円で,さらに40年度中に5億円の政府保証社債の発行が予定されている。

(4) その他の助成措置

 以上,3つの助成措置のほか,国際航空事業に対する措置として行なわれているものに,税の軽減がある。
  すなわち,国際航空事業に対しては,航空事業一般にとられている税制上の助成措置のほか,固定資産税の軽減が行なわれており,これは,国際線に就航する航空機に対する固定資産の課税標準を価格の3分の1にするもので(地方税法第349条の3第8項)ある。


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