1 運営状況


  39年度の国内航空路線の運営状況を回顧するとき国内航空界がこの年度に二つの大きな経験をしたことに注目する必要がある。その一は国内航空旅客の総需要の増加傾向が過去数ケ年間を通じて初めて伸び率の大幅な鈍化現象を経験したことである。これは後述のように主として東海道新幹線の登場に起因する東京-大阪間旅客の鉄道への転移現象を主たる原因とするものであるが,38年度において国内航空旅客需要(人キロ)の約36%を占めていたこの東京-大阪間と云う大マーケットに強力な競争機関が登場したことは航空関係者にとつて今後の航空の発展を図るために切り抜けるべき厳しい試練として提供された。
  その二としては幹線(後述)に既存の日本航空(株),全日本空輸(株)のほかに新たに日本国内航空(株)が登場(40年3月東京-札幌,東京-福岡線運航開始)したことである。同社はその有するローカル路線のみでは今後の自立的経営を期待できないと認められたのでその企業基礎の充実強化のため幹線運営への参加を認められたが,これに際し運輸省は今後の幹線運営に関する基本方針を39年11月6日発表した。これによれば上述の日本国内航空(株)の幹線運営参加を認めたほか今後の幹線運営3社には需要の対前年度増加見込分に見合う供給力から換算々出した機数を原則として3社に均等に配分することとしたがあわせてすでに全日本空輸(株)と提携関係にある東亜航空(株),中日本航空(株)については同社との統合を期待した。(中日本航空はその後40年2月,その路線部門の営業を廃止し全日本空輸(株)がこれを引継いだ)。

(1) 幹線

  北は札幌から東京,大阪を経て南は福岡に至る路線を国内航空路線の大動脈として,幹線と通称している。幹線の現在の運航規模等は 〔III−22表〕のとおりである。

  幹線の旅客人キロの国内線全体に占める比重は38年度の74%に対して39年度は若干低下して68%になつたが,営業面における幹線の比重はなお依然として大きいといえるであろう。
  幹線の39年度輸送実績を見た場合旅客数の対前年度伸び率が12%にまで低下したがこれは 〔III−23表〕で判るように最近にない現象である。いま 〔III−24表〕のように路線別上半期下半期別にそれぞれ38年度と対比してみると,上半期には各路線合計して約30%弱の増加率を示し,最近数年間の増加傾向一般から見てやや弱含みながらも 〔III−23表〕にみられるようになお,かなりの増加傾向があつたにも拘らず下半期にはむしろ前年度を5%も下廻る結果となつた。

  下半期の結果を路線別にみると,大阪-福岡がほぼ上半期並みの成長率を維持したのに対し,東海道新幹線の影響をまともに受けた東京-大阪は別としても,東京-福岡及び東京-札幌の二路線の成長率の大幅な低下傾向が目立つている。これは,39年度後半に入つて一段と深まつた一般的な経済活動の沈帯がまず航空需要全体に抑止的効果を与えるとともに東京-福岡については東海道新幹線の二次的な影響もあつたものと思われる。次に東海道新幹線が東京-大阪間の航空需要に与えた影響であるが 〔III−24表〕にみるように上半期に示したかなりの増加傾向が下半期には逆調に転じたことからもわかるようにその影響はかねて想像されていたように甚大であつたといえるであろう。しかもこれは東海道新幹線のスピード,運転回数等に創業期の制約が加えられている状況下におけるものであり,今秋に期待されるその本格的営業開始による影響には航空側としては重大な関心を寄せざるを得ない。現時点における航空の競争上の劣性が目立つが,特に東海道新幹線の場合,その快適性輸送力の巨大さ等を考慮すると航空が今後東京-大阪間旅客については東海道新幹線の補助的地位に定着する可能性は大きいであろう。しかし,今後の空陸を含めた全体の需要量の増大を考慮すればこれらの時間帯に供給力を集中する方策,あるいは搭乗手続の簡易化,共通搭乗券の採用ローカル線との接続の緊密化等の諸制度を検討し,必要可能な努力を惜しまなければ今後も営業的に成立する路線運営が期待できるものと考えられる。

  次に幹線ジエツト化の動きを見よう,39年度における全日本空輸(株)の東京-札幌線に対するボーイング727型機の投入によりすでに同線及び東京-福岡線に運航されていた日本航空(株)のジェット機とあわせて長距離幹線のジェット化はほぼ完了したが,40年度には更に 〔III−25表〕にみるようにジェット機の増強が実施され下半期には東京-大阪間においても便数の半ば以上がジェット化されることとなろう。中短距離路線のジェット化はこれに適する機械(ボーイング727型機,カラベル型機,トライデント型機等)の開発が進むにつれ世界的な傾向であり,航空輸送の進歩が常により低廉安全高速を求めて機材の発達と相応じて行われてきた趨勢をみると幹線の全面ジェット化が行なわれるのはごく近い時点であろう。

  なお,39年4月に旧来のローカル路線会社3社(北日本航空(株),富士航空(株),日東航空(株))が合併して日本国内航空(株)が発足し,その自立的経営達成のため幹線への運営参加が期待されていたが40年3月より東京-札幌,東京-福岡の二路線にジェット機(コンベア880型)による運航を開始した。同社にとつて初の幹線運営であるが既存の日本航空(株),全日本空輸(株)との協調の下にその順調な発展が期待される。

(2) ローカル線

  幹線以外の路線をローカル線と言うが,現在,これを運営する会社は全日本空輸(株),日本国内航空(株),東亜航空(株)及び長崎航空(株)の4社である。ローカル線の需要は依然として堅調であり幹線の鈍化傾向に対比して注目をひく。その結果37,38の両年にわたりそれぞれ25%,26%とやや固定化していた全輸送量(人キロ)に占めるローカル線のシェアーは32%に上つた。
  また,39年度の人キロは対前年度比45.1%増に対し,旅客数の伸び率は34.6%増で,平均搭乗キロは前年度392kmから429kmと大幅にのびている。
  これは,航空の利点を発揮できる比較的長距離路線が整備されるに従つてこれら路線の旅客が相対的に増加している結果によるものと思われる。
  なおYS-11は40年4月東京-徳島線に登場したのを皮切りに続々ローカル線に登場しつつある。この実用経験の結果如何は今後の同機の声価を決定するものと考えられ,我国の民間航空機製造工業の発展のためにも極めて意義深いものと思われる。
  ローカル線の供給力の推移を見ると39年度には48.2%増加したが,需要の堅調に支えられ利用率は前年度より1.1%減の70.6%に留まつた。平均70%前後の利用率はローカル線の場合においてもおおむね適正な利用率といつて差支え無かろうが70.6%の平均利用率を示した39年度のローカル線も路線別にはアンバランスが大きく,低調なローカル路線のウエイトが大きいローカル専門会社には後述の如く巨額の赤字を生ぜしめた。いま39年度のローカル線について会社別に利用率 〔III−26表〕及び航空機の1機当り年間稼動時間を見ると大きな格差がある。このような格差の相乗効果が結局これらローカル専門会社のローカル線経営を圧迫している重要な要因であり,今後のローカル線全般の経営の安定のためにはこれらの問題の適切な解決が望まれるが,これには当事者たる事業者の営業努力がまず期待されるとともに必要な場合には関係者の理解と協調の下に国も強力な施策を考慮しなければならないであろう。


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